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優秀で天然な魔法使い、勇者と疑心を抱き合う。


「あら、仲間割れかしら?」


 第三の試練。

 毒闇の魔女。毒魔法の使い手、シャノン・ヴェーネが大廊下の奥から姿を現した。

 闇に映える毒々しい髪が、不吉な予感を漂わせている。

 

(シャノンさん…… き、キスの魔法は絶対避けないと……!)


 コルディは、以前受けた“死の接吻”を思い出し、わずかに頬を赤らめた。

 攻撃魔法とはいえ、あのときは二人の唇が触れ合ったのだ。しかも、深く、長く―――。

 胸がざわつき、思い出すだけで顔が熱くなる。

 アホなコルディは、誰にも見られないことをいいことに、ヘルムの下でこっそりと照れていた。


「女の魔族か、意外と可愛いじゃねぇか!!!俺さまが××してやるよ!!!」


 緊迫した空気の中、野獣の品のない視線がシャノンを捕える。


「「―――はぁ!?」」


 コルディとシャノンの声が重なり、奥深い廊下に響き渡った。

 それは、女性に対する侮辱の言葉。

 コルディの胸に、怒りがふつふつと湧き上がる。


(なんて…失礼な人なの……)


「ふざけたやつがいるのね。ここで終わりにしてあげる!

―――毒針の豪雨“ヴェノム・ストーム”!」


 天井から降り注ぐ、無数の毒針。

 勇者一行は反射的に剣を構え、盾代わりにしながら必死に迎え撃つ。

 金属を弾く甲高い音が廊下に連続して響いた。

 そんな勇者たちの様子を眺めながら、コルディは一人、小さく首を傾げていた。

 毒針は、なぜかコルディの体を避けるように降り注いでいる。

 防御魔法を使った覚えはない。

 まるで、見えない力に弾かれているかのようだった。


「―――きゃぁあ!」


 その時、一本の毒針がヘレナの右腕に深く突き刺さり、辺りの緊張がさらに高まった。

 数が多すぎるため、全てを防ぎきることは不可能だったのだ。


「“ゲイル・フォワード”!」


 ウィンズは慌てて風魔法を放った。

 巻き起こった突風が毒針の群れを押し流し、軌道を大きく逸らすことに成功した。

 だが、すでに遅かった。


「ヘレナ!!!」「ヘレナさん!!!」


 ヘレナの体内に侵入した毒は、じわじわと広がり、彼女の身体を内側から苦しめる。


「ウィンズ、ヘレナに解毒薬を飲ませろ!」


「……は、はい!」


 リックの指示に従い、ウィンズは慌てて鞄を開いた。

 中から解毒薬の小瓶を取り出すと、倒れ込んだヘレナの口元へ押し当てる。

 ヘレナは激しく咳き込みながらも、必死にそれを飲み込んだ。


「…毒魔女め……覚えてなさい……」


 弱り切った表情のまま、ヘレナはシャノンを鋭く睨み付けた。

 しかし、その身体はまだ思うように動かない。

 しばらくは戦線に復帰できそうになかった。


「くそがぁぁぁあああ!!!!!」

「くらえぇぇぇえええ!!!!!」


 ダリドは怒りを露わにすると、大剣を勢いよく振り抜き、炎の刃を放った。

 リックもまた、仲間に傷を負わせたシャノンへ向けて聖剣を構え、一直線に突き進む。


「―――あれは、聖剣!?」


 炎の刃を回避しながらも、シャノンの表情には焦りが浮かぶ。

 額からは、冷や汗がつうっと流れ落ちた。

 聖剣を直にくらえば、消滅してしまう。


(ビビるなんて、あたしらしくないわね!)


 シャノンは一瞬の迷いを振り払うように、次の毒魔法の詠唱を始めた。


「猛毒の刃“サーペント・フレンジー”――― 毒蛇たちよ、こいつらを排除しなさい!」


「そんなもの、効かん!!!」


 グシャッ


 召喚された二体の毒蛇は、リックの聖剣によって瞬く間に斬り裂かれ、消滅した。

 そのまま聖剣の切っ先が、一直線にシャノンの心臓へ迫った。

 目の前に突きつけられた鋭い刃に、シャノンは思わず息を呑む。

 命を奪われる―――。


(これが―――、勇者の実力)


 やはり、光を携えし者には抗えないのか。

 終わりを目前にしたシャノンの細い指はかすかに震えていた。


(シャノンさんが危ない!やっぱり人数的に不利すぎるのよ…!)


 自分に敵意を向けている、シャノン・ヴェーネの危機。

 勇者の一撃を回避するには間に合わない―――

 そう察したコルディは、小さな声で魔法を唱えた。


「……“ブレスト・シールド”神の恩恵… あの者に守りの盾を……!」


キィィンッ


 見えないシールドに弾き返された聖剣ルシフェル。

 リックは目を見開く。


「なぜだ……」


 低く呟きながら、信じられないものを見るように剣へ視線を落とした。

 シャノンも突然の出来事に、何が起きたのか分からず目を見開いた。


(―――今のは、コルディ・ホープの防御魔法!?

っち、あの女、どこに隠れてるのよ。

あたしに殺されかけたのに…… 守ろうっての? ほんと、馬鹿な女ね!!!)


 シャノンは周囲を素早く見渡したが、コルディの姿を見つけられなかった。

 隠れ場のない渡り廊下。

 どこに潜んでいるのか、まるで見当がつかない。


(こそこそ隠れて、何がしたいの?)


 憎むべき存在に守られたという事実。

 腑に落ちない状況に、シャノンの戦意はみるみる削がれていった。

 彼女は両手を腰に当て、勇者たちを鋭く睨み付ける。


「ふん、今回は身を引いてあげるわ…… だけど、あんたたち、魔王様を見くびらないほうがいいわよ。あの方は本当にお強いんだから…!」


 そう言い残して、闇に消えていく。






♦ ♦ ♦


 自室に戻ったシャノンは、枕に顔を埋めながらコルディの顔を思い出していた。

 

(何よ…あたしを守るなんて……

あの女ぁ…… コルディ……… 

もう、キスしてあげないんだから………!)


 頬が次第に赤く染まり、その表情には隠しきれない小さな喜びが滲む。

 コルディの光は、魔族の心を溶かしてしまうような、不思議な力を秘めているのかもしれない。






♦ ♦ ♦

    

「何の真似だ。コルディ」 


 シャノンが姿を消すと、勇者リックは再びコルディを壁際へと追い詰めた。

 まっすぐ向けられたその瞳には、確かな疑いの色が滲んでいた。


「あれは“ブレスト・シールド”光の防御魔法だった。お前、なぜあの魔女を庇った!?」


 リックは違和感を覚えていた。

 彼自身は光魔法の使い手ではない。

 だが、光を宿す聖剣に選ばれし者として、光の力については誰よりも理解しているつもりだった。

 本来、光は闇を制するものだ。

 それなのに―――

 目の前の光の魔法使いは、闇を制するどころか、庇ったのだ。


「―――お前はいったい何がしたいんだ!?」


 リックには理解が追いつかなかった。

 だからこそ、ただ問い詰めるしかなかった。


「……はっきり言いますけど」


 コルディは苛立ちをぶつけるように、きつい口調で言い放った。


「こっちは五人。相手は一人ですよ?加担して何がいけないんですか!?」


「―――なに!?」


「こんなのいじめです。私、そういうの嫌いで~す」


「てめぇ!!!」


 コルディのあまりに素直な態度は、勇者一行の神経を逆撫でした。

 ダリドはコルディの横の壁を拳で叩きつけ、鋭く睨みつける。


「魔族に慈悲を向けるだなんて……あんた、本当に光の魔法使いなの?」


 ヘレナは呆れたように小さく息をつくと、コルディに冷めた視線を向けた。


「はい、結構強いんですよ?」


 ウィンズは相変わらずだ。

 巻き込まれたくないのか、黙ったまま成り行きを見ている。


「はぁ、性格に難ありだが仕方ない。魔王討伐には必要な力だ。先へ進もう」


(性格に難があるのはあなたたちじゃない)

 

 先へ進むにつれて、パーティーの空気はどんどん重くなっていく。

 魔族を露骨に毛嫌いする勇者たちに不信感を抱きながらも、コルディは黙ってその後を追った。






♦ ♦ ♦


 魔王城、王座の間の手前。

 勇者たちの進路を遮るように、通路の中央に一つの影が落ちた。

 その影がゆらりと揺れると、次の瞬間、そこから一人の少年が姿を現した。


「ここまでたどり着くなんて、みなさん、お強いんですね!!!」


 明るい声が響く。


「ガキじゃねぇか」


「子どもを葬るなんて、あまり気は進まないわね」

 

 第四の試練。

 深淵の探究者。影魔法の使い手、ルハ・シャドー。


(し、師匠―――!)


 コルディに融合魔法を伝授した、最強の師匠。

 ついに、その男の出番である。


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