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9王城は大忙し(仕込み編)

 秋晴れの昼下がり。王城奥の小広間では、恒例となった「王家ラブラブ作戦会議」の後、次回作戦の準備が着々と進められていた。


 アレクシス王太子は羊皮紙と羽根ペンを手に、机の上に広げた図面や作戦書を眺める。次回のターゲットは、もちろんセリーヌ・アシュレイ――王城の文官であり、第三王子カインが密かに(?)心を寄せる人物だ。だが、今日は二人とも城にいない。王家メンバーだけで、次回の「偶然感演出」と「心理的距離縮小」の舞台を整える。


「では、まず城内書庫の調整から始めるわよ!」 


 王妃は目を輝かせ、指示を飛ばす。


「魔導書の配置、通路の角度、軽い魔法トラブルの仕込み――すべて計画通りに!」

「……母上、あまり過激にやりすぎるとセリーヌ嬢が驚きすぎますよ」


 冷静にレオルドは補足する。


「心理的距離縮小が逆効果にならないように、安全管理を徹底しましょう」

「そこは任せなさい!」


 王妃は両手を広げて笑う。


「小さなトラブルはドラマを生むの。計画通りにいかなくても、結果オーライよ!」


 ユリウスは肘をつき、冷ややかに呟いた。


「……また兄上の恋路のために城中がてんやわんやか。どんどん厄介なことになっていくな」


 アレクシスは計画書にメモを加えながら頷く。


「書庫だけでなく、庭園、廊下、調理場も利用する。偶然の遭遇演出を各所で仕込むのだ」


 側付きや衛士は指示書を受け取り、城内各所に散らばって準備を始めた。廊下では衛士が角度を調整し、通りかかる二人を「偶然」出会わせる練習をする。書庫では若手魔導師が小規模魔法トラブルを仕込み、落下する紙片や軽い魔法光で二人が近づくチャンスを演出する。


 清掃係や侍女たちは、小道具や資料を絶妙に配置して通路や書架周りの偶然を演出。調理室では、お茶やお菓子をそっと運び、偶然セリーヌが手に取りやすい位置に置く。庭師は花壇の水やりや葉の配置で、自然に二人が接近するルートを作る。


「……この計画、本当にうまくいくんだろうか」


 ユリウスは机に突っ伏し、溜息をつく。


「本人たちは何も知らずに、城中の人間全員が一枚岩で仕掛けてるわけだが……」

「そうよ、ユリウス!」


 王妃はニコニコと笑いながら資料をめくる。


「偶然感が大事なの。セリーヌは任務に忠実だから、自然に距離が縮まるのよ」

「それにしても、兄上ために城全体がここまで……」


 レオルドは少し呆れた声を出す。


「確かに戦略的ではあるが、かなり派手だな」


 準備は順調に進み、王家メンバーの心は次第に高揚する。廊下を掃除する侍女が、小さく口元で「次こそ抱き寄せシーンが見られるかも……」とつぶやき、側付きや若手魔導師も肩をひそめて同意する。


 王妃はアレクシスの横で身を乗り出す。


「書庫の小規模トラブル、庭園での偶然の遭遇、調理場でのお茶タイミング……完璧に仕込みましたわ!次回は必ず距離が縮まるはずよ」


 ユリウスは冷ややかに腕を組みつつも、内心で微笑んでいた。


「……兄上の恋路、城全体で応援されてるのか。これはこれで面白い」


 その時、奥の執務室から国王陛下の声が聞こえてきた。

「…… 舞踏会でもないのに城中が妙に慌ただしいな……」

 執務室の書類に目を落としながら、陛下は無邪気に頭をかき、全ての準備作戦が自分の知らぬうちに進んでいることに気づかない。


「…… 国王陛下は別室で書類の山に埋もれていますから、気づきません。みんなで二人の恋路を支えるのです!」

 王妃が小声で告げ、側付きや衛士たちはくすくすと笑う。城中がてんやわんやでも、陛下だけは平穏無事。誰もがそのギャップに内心でニヤリとした。


 やがて準備は完了した。書庫、庭園、廊下、調理場――あらゆる場所が、二人の偶然の遭遇を演出する舞台として整えられた。王家メンバーは互いに顔を見合わせ、次回の作戦でどんな展開が待っているか、期待に胸を膨らませる。


「これで、次は距離を縮めるチャンスが増えるはずですわ!」

 王妃は満足そうに笑った。


 アレクシスは羊皮紙を押さえ、「第六回ラブラブ大作戦、準備完了」と宣言する。レオルドも頷き、ユリウスは冷ややかに眉を上げつつも、少しだけ心を躍らせていた。


 そして、国王陛下だけは、城中の大騒ぎも作戦の存在も知らぬまま、静かに執務に没頭しているのだった。


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