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3第二回ラブラブ大作戦・反省

 夜更け。

 舞踏会が幕を閉じ、王城の奥深く――煌びやかな会場とは対照的に静かな会議室で、ひそやかな集まりが開かれていた。


 出席者は王太子アレクシス、第二王子レオルド、第四王子ユリウス、そして王妃。

 もちろん、肝心の第三王子カインの姿はない。

 国王陛下はというと、別室で執務の山に追われており、この会議の存在すら知らぬままだった。


「では、『第ニ回カインとセリーヌのラブラブ大作戦』の反省を始めよう」


 議長席についたアレクシスが、羊皮紙に大きく「失敗」の二文字を書き込む。

 さらさらと力強い筆致で書かれたそれは、もはや反省というより墓標である。


「舞踏会という場の選択は悪くなかった」


 レオルドが冷静に報告を口にした。


「だがセリーヌ嬢の解釈は……“殿下が余ると国の威信に関わる。だから私が踊らねば”だった」

「……義務感」


 アレクシスが額を押さえ、ユリウスが鼻で笑う。


「しかも聞いたか? 踊りながら数を数えていたそうだ」

「リズムを解析してどうする。あれでは恋愛どころか軍事演習だ」


 ばっさりと切り捨てるユリウスに、全員が無言で頷いた。


「まあ、あの真面目さも愛らしいじゃない」


 王妃は両手を頬に当て、うっとりと微笑む。


「義娘に迎えたら、家計簿も完璧につけてくれそうだわ。支出の一銭まできちんと記録してくれるに違いないわね」

「母上、それは恋愛とまったく関係ありません」

「でも結婚後を考えれば大切な資質でしょう?」

「……議題がズレております」


 アレクシスの突っ込みはいつも通り、王妃には届かない。


「問題は……カインだ」


 レオルドがぽつりと告げる。


「彼の言葉が足りなすぎる。『踊ろう』だけでは通じない。セリーヌ嬢には“殿下の体裁を整える義務”と受け取られる」

「もっと直接的に“好きだ”と言えればいいんだがな」


 アレクシスは深々と頭を抱えた。


「無理だな」


 ユリウスが即答する。


「兄上たちが何度焚きつけても、あいつは“俺のタイミングで”と口を濁す。根本的に不器用すぎる」

「……弟のくせに、面倒がすぎる」

「そこがまた可愛いのですけれどねぇ」


 王妃は目を細め、胸に手を当てる。


「次の作戦は……どうする?」


 アレクシスの問いかけに、会議室に沈黙が落ちた。

 だが次の瞬間、ぱっと王妃の顔が輝く。


「そうだわ!二人を魔法実験に同席させましょう!」

「は?」

「危機的状況で庇えば、必ず恋が芽生えるのよ!」


 王妃の満面の笑みに、王子たちは顔を見合わせた。


「母上……それは、わざと爆発を期待していませんか?」


 ユリウスが冷ややかに問いかける。


「ええ。だって、危機は恋を育むもの」


 にっこりと答える王妃。


「母上、さらっととんでもないことを……」


 アレクシスは思わず額を押さえる。


「まあ、母上の暴走は今に始まったことではない」


 レオルドが肩をすくめた。


「カインが火の玉からセリーヌ嬢を守る。彼女が顔を赤らめる。……よくある筋書きだ」


「成功率は……?」

「三割」

「意外と高いな」


「では決まりね!」


 王妃が楽しげに手を打った。


「第三回カインとセリーヌのラブラブ大作戦――舞台は魔法実験室」

 アレクシスが羊皮紙に大きく書き込む。


「賛成」

「異議なし」

「……平和ですね、我が家族は」


 ユリウスのぼやきを最後に、会議は閉じられた。


 もちろん国王陛下だけは、この企みを何も知らない。

 執務室で「最近なぜか家族が集まっている……国家の大事か?」と真剣に頭を悩ませていることなど、誰も気づきもしなかった。

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