14影の同盟軍
夜の王城。調理室裏の物置小屋。
そこに、侍女や文官、衛士、庭師、調理頭など、カインの恋路を水面下で支える「影の同盟軍」がこそこそと集まっていた。
「はぁ……」
侍女長がどっかりと腰を下ろし、頭を抱えた。
「昨日の作戦、全部滑ったわね」
「ほんとですよ!」
若手文官がバンッと机を叩く。
「書庫で本を崩す段取り、俺が何日も計算して仕込んだのに…… アシュレイ嬢、見事に自分で避けましたからね!カイン殿下の腕の出番ゼロですよ!」
「しかもその後、すぐに文官室に帰っちゃって……」
文官が項垂れる。
「殿下の依頼も“他の者にお願いします”って断られてたじゃねぇか。あの瞬間、俺の心が折れた」
「庭園の仕掛けも駄目でしたなぁ……」
庭師がワインをあおる。
「わざわざ“薔薇の枝にドレスの裾が引っかかる罠”を仕込んだのに……セリーヌ嬢、真顔で迂回路を選びやがって。あれ、俺が悪いのか?」
「悪いのはアシュレイ嬢の真面目さだろ」
「いや、むしろあれは才能だな」
調理頭がドンとジョッキを置いた。
「才能とか言ってる場合か!こっちは殿下の大好物“蜂蜜入りアップルパイ”を焼いたんだ!なのに、よりによって腹ペコ文官が全部食いやがって!」
「それ見て殿下、普通に“ああ、彼はよく働いているからな”って微笑んでましたよね」
「ちくしょう、優しい笑顔が眩しかった!」
一同、どっと崩れ落ちる。
「結局……殿下もアシュレイ嬢も、昨日までは一歩も進まなかったな」
「むしろ後退してたぞ」
「文官室に引きこもられるなんて、前代未聞だろ」
場がどんより沈みかけた時、ぽつりと若い侍女が言った。
「……でも、今日は笑ってましたよね?」
「……ああ!」
全員の顔がパッと上がる。
「陛下が来て、“おおセリーヌ嬢か!カイン、一緒に行け!”って――」
「あれは神がかってたな!」
「いや、王だから神じゃなくて陛下だろ」
「細かいこと言うな!あの場をひっくり返したんだぞ!」
文官が羊皮紙を広げ、勢いよく書き殴る。
『結論:国王陛下、最強』
「異議ある奴いるか!?」
「ねぇよ!!!」
全員がジョッキを高々と掲げる。
「俺たちの努力?小細工?何の意味もねぇ!」
「最後に勝つのは――陛下の豪快さ!」
「もう陛下に直接頼んだ方が早いんじゃねぇか?」
「いや、それだと俺たちの存在意義が……」
「……でも楽だよな」
「楽だな」
全員が腹を抱えて笑った。
「よーし!明日からも全力で殿下を応援だ!」
「おー!!」
笑いと酒気に包まれた裏方反省会は、夜更けまで続いた。
「俺はいいところで働けてるなぁ」
庭師がしみじみワインをあおった、その瞬間。
「――ほう!なんだここは?」
重厚な扉がギイィ……と開いた。
現れたのは、豪快な笑みを浮かべた国王陛下その人だった。
「……!!???」
一同、石像のように固まる。
「む?なんだその顔は。怪しいのう」
国王はズカズカと部屋に入り、壁一面の羊皮紙を目に留めた。
「ふむ……これは……『作戦と結果』?」
しん、と静まり返る秘密の部屋。
陛下は羊皮紙を一枚一枚読み上げていった。
「第一作戦、書庫崩落……失敗。第二作戦、庭園薔薇罠……失敗。……ふはははは!」
王の大笑いが小屋に響き渡る。
「お前たち、こんなことをしておったのか!実に愉快じゃ!」
「い、いえ陛下、これはその……」
「わ、我々はただ、殿下のお幸せを……!」
侍女長と文官が慌てて弁解するが、国王は手を振って止めた。
「よいよい!よくぞここまでやったものだ。見よ、この羊皮紙の数!まるで戦の記録じゃないか!」
国王は涙を拭いながら笑い続ける。
「――だが、最後に勝ったのはやはりこのわしよな!」
「……」
誰も否定できなかった。
「よし、面白い!わしもこれからは、この“同盟軍”とやらに正式加入するぞ!」
「へ、陛下が!?」
「そ、そんな、恐れ多い!」
「何を言うか。わしがいれば百人力だろう!」
王はドンと机を叩いた。
「作戦はわしが考えてやる!次は……そうじゃな、舞踏会にかこつけて二人を組ませるのはどうじゃ!」
「……」
一同、ぽかんと口を開けたあと。
「「「――陛下万歳!!!!」」」
その夜、実行隊改め同盟軍の反省会は急転直下、“国王陛下加入祝賀会”に変わった。
ジョッキは打ち鳴らされ、笑い声が響く。
「我らの新しい同志は国王陛下!」
「最高すぎる!」
「この国、安泰だな!」
こうして、王城全体を巻き込む「カイン殿下恋路応援団」は、ますます勢いを増していくのだった。




