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第7話 unsteady heart

前回のあらすじ

王族専用のドライスフレームを見せてもらえることになった!……けど何で急に?

―時は少しさかのぼり……


「何なのだ、あの女は!」


アールティーナの部屋から侍女に連れ出されたウィルヴァンは自室で荒れていた。


(先ほど父上がいきなり決めてきた婚約者に会いに行ってみれば、俺の事を知らないどころか全く興味もないといった感じで冷たくあしらわれてしまった。あり得ない!王族だぞ!偉いんだぞ!)


「ウィルヴァン様、物にやつ当たるのはお止めください……。」


(うるさい!侍女が俺様に命令するのか?)


先日のお茶会では、貴族の子女達にチヤホヤされ自己肯定感がMAXだったというのに今は婚約者に冷たくあしらわれたという屈辱でどうにかなりそうだった。


「まぁ、普段優秀なお兄様達と比べられて劣等感を感じてるウィルヴァン様がお茶会では珍しくチヤホヤされてましたし?少し気が大きくなるのは分からなくもないですけどねー……。」


「いや、本当にうるさいぞ!」


痛いところを突かれてさらに声を荒げる。


王族に対してあるまじき態度をとっている彼女は宰相の娘のエレナ。ウィルヴァンが赤子の時から付いている専属の侍女で姉の様な存在である。


「ウィル!何を騒いでいるのですか。」


そしてその騒ぎに気がついた王妃が部屋に入ってきた。


「母上!その……。」


「婚約者に高圧的に接して相手にされなかったから拗ねてるだけです。」


「エレナ!」


「はぁ……こっちに来なさい。」


ため息をつきながら王妃はむくれる息子を向かいに座るように促し、エレナにお茶を用意させるため退室させたのだった。



―「あの娘も好き好んでこのような状態になっているということは分かりますね?」


ウィルヴァンは王妃から自分の婚約者が王都に来る前に起こった事件を教えられた。


「そんな……俺は……。」


龍に襲われたとは聞いていたが、まさか丸呑みされ消化されかけた上、その体に消えない傷を負わされていた少女に対して自分は何てことを言ってしまったのか。


「母上……。」


「賢いあなたならどうすればよいか分かりますね?」


「はい……。」


もう一度彼女と話してみよう。父上に相談したら機会を得られるだろうか?



―願っていた機会は思いのほか早く来た。彼女は既に中庭にいるそうだ。


「急いでくれ!」


「はいはい、殿下。そんなに余裕のない気持ちでまたやらかすんですか?深呼吸しましょう。はい!1、2、3。」


急かすウィルヴァンに対してエレナは落ち着くように促す。……人を待たせているのだが。


「落ち着いている!……多分!」


「そんなそわそわした顔で言われても、ねぇ。」


王妃の説教が効きすぎたかなぁ、とあまりにも変わりすぎた弟分に少し驚くエレナだった。



―「まっ……待たせたな……。」


緊張するな……。きっと彼女も自分にいい印象は抱いていないだろう。


「御機嫌よう、殿下。」


「っ……!?アールティーナ嬢も元気そうで何よりだ。」


そういって彼女が微笑んできた。その表情にドキッとする。


「……せっかくのお茶が冷めてしまうし、始めよう。」


先日のお茶会でも感じたことのない胸の高鳴りに少し戸惑いながら2人だけのお茶会を始めた。



―「アールティーナ嬢は、今何か欲しいものとかないのか?」


お決まりの話題も終わり、個人的な話に切り替わった。初手で欲しいものを聞くのは流石に露骨過ぎただろうか?


「専用のドライスフレー……今のは無しで。」


間髪入れずに答えてくれたが、それをプレゼントするのは流石に難しいだろうな。


「そうか、ヴェルクハイム領は魔物狩りが盛んだったな。アールティーナ嬢も何れはそれに参加するのか?」


「えぇ、そのつもりですわ。それが領民を守るために必要な事ですから。」


「専用機か……流石にプレゼントするのは難しいが、私の専用機を見せるぐらいなら出来るぞ。」


なら俺でもできそうなことをするだけだ。


「本当ですか!?」


思った以上に食いついてきた。本当にドライスフレームが好きなのだろう。


「う、うむ。そんなに喜ばれるとは思わなかった。」


「善は急げですわ。行きましょう殿下!」


手!手を取られた!おち、落ち着くんだ!


突然のことに驚きながら俺はアールティーナ嬢に格納庫へ引っ張られていくのだった。



ー「これは……!」


王族専用機の格納庫に来た2人を出迎えたのは白亜に輝く美しい機体だった。


「俺の専用機……の予定になっているレアーエ級オートクレール。」


そう、まだ正式に搭乗許可は下りてないのである。


「……乗ってみるか?」


「良いのですか?」


「あぁ。」


この時2人はそれぞれ大きな過ちを犯していた。気になる相手の興味を引くために、片や目の前に突然現れた機会に目を奪われて……。


王がなぜ許可を出さなかったのか、そしておやっさんが教えてくれていた警告を忘れ2人はドライスフレームのコックピットへ乗り込むのだった。



―「操作系は流石に子供が使うには大きいみたいね……。」


アールティーナは初めて間近でみる本物のコックピットの中を目を輝かせながら見まわしていた。


「指も足先も届かないんじゃ動かすことはできないか……。」


ウィルヴァンもシートに腰掛けてみるが手足とも太腿と二の腕までしかエティーライトストリングコネクターが届かないようだ。


「起動だけでもやってみるか。」


「え?まっ……。」


そこにきてアールティーナは自身の過ちに気が付いた。そして止めようとしたが一足遅かった。


「ぐっ……!?」


「殿下!?」


時遅くウィルヴァンはコンソールの中心の球体に手を触れて機体に火を入れてしまった。



―「なぁ、嬢ちゃん。どうしてドライスフレームに乗るのにこんな検査が必要なんだと思う?」


おやっさんが訓練疲れでぐったりしているアールティーナに問いかける。


「魔力が足りないと期待が動かないから……ですか?」


「惜しいが違う。魔力が規定値に達していないと機体に魔力を吸い尽くされて最悪の場合死ぬからだ。」


「え?」


「もちろんランクの低い機体には安全装置が付いているし、そもそも死ぬような高さの魔力の要求値ではないからな。ただ、軍用のレアーシ級を越えるとその危険が大きく上がる。」


だから細かくランクが分けられているのだとおやっさんは教えてくれた。



―「うぐ……あぁぁぁ。」


ウィルヴァンが魔力を吸われ続け苦しそうにうめき声を上げる。


「殿下!?しっかり!!」


まずい!機体の起動に魔力を持っていかれている!


「機体からエラー音が響いてるから少なくとも誰かは気が付いてくれてるはず……。なら!」


まずは殿下の手をコンソールから離……せない!?吸い付いてるのこれ!?


機体のエネルギーゲインはまだまだ足りない。今の殿下の命を吸い尽くしてもまだ足りないだろう。


私の魔力を足しても多分起動には至らないだろう。殿下の命を救うには……。


「もう他に手はない……か。」


意を決して殿下の顔に近づいた。



―「……はっ!」


見知らぬ……いや知ってる天蓋だ。ここは王宮の貴賓室だろう。前回もここに寝かされてたなぁと思っていると。


「ティナ!目が覚めたか!」


「お父様?」


「何があったかは、ある程度把握はしているが、お前の口からも聞かせてもらえるか?」


「はい。ところで私はどれぐらい寝ていたのでしょうか?それに殿下は?」


「お前たちが救出されてから2日、殿下もお前と同じく寝込んでいるが命に別状はない。」


2日?結構寝込んでしまったらしい。


「えっと……殿下と一緒にドライスフレームを見に行って、それから乗ってみようって話になって……。」


「殿下が起動に失敗して魔力切れを起こしたと。」


「はい。おやっさ……ドラモンドに危険性を教えてもらっていながら浮かれて忘れてしまってました。申し訳ありません。」


子供じゃあるまいし浮かれすぎてやらかすとか何をしているのか。


「それで殿下に魔力を?」


「はい、誰かが助けに来るまで命を繋ぎ留めないといけないと思いまして……。」


「概ね予想通りだったな。お前も無茶をする。自分の意識が無くなるまで魔力を与え続けるとは。」


そりゃあこんなところで殿下に死なれたらそれこと断頭台行きでしょとは言えない。


「それは……大事な婚約者様ですし。」


「ほう。言うようになったな。」


失言をしてしまった気がするが、あの子に対しての印象が少し変わったのは確かではあるので訂正はしなくてもいいか、と自身の心境の変化に驚きながらも悪くないと思うアールティーナだった。


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