第2話 推定悪役令嬢!?
前回のあらすじ
前世の記憶を取り戻した私の現在位置は竜のお腹の中!?窮地を脱した私だったが心労と情報量の多さに気を失うのだった。
―「ううん……。」
目を覚ますと私はふかふかのベッドに寝かされていた。知らない天井、もとい知らない天蓋かなぁ……そんなことを思っていると。誰かが私が目を覚ましたことに気が付いたようだ。
「お気づきになりましたかな?」
豊かな口ひげを貯えた男がこちらに近づいてくる。おそらくは王宮の医官だろうが取りあえず聞いてみる。
「ここは?それに私は一体……?」
「ここは王宮の貴賓室。わしはここの医官じゃ。」
貴賓室、道理で部屋が豪華なわけだ。
「覚えてますかな?貴女は、ここで行われるお茶会に向かう途中で竜に襲われ一度は食べられた。」
「はい。」
覚えてますとも。本当に死ぬかと思いました。
「助けられた後気絶してここに担ぎ込まれたんですわね……。」
「そう、わしが処置をした後に。そして残念ながら腕のそれは消せられそうにない。」
そう言われて初めて私の腕に巻かれた包帯に気が付く。解くと手の甲から二の腕にかけて枝のような赤い跡が伸びていた。
「火傷のように見えるそれは、竜の呪い……竜のターゲットにつけるマーキングのようなものじゃ。」
「解く術はないのかしら?」
違和感はないがやはり傷物の身体というのは貴族令嬢としては致命的だろう。
「無い……というより分からない。文献ぐらいしか残っていないのじゃ。それにも呪いが解けたとは記されていなかった……。」
「うーん。順当に考えればあの竜を倒すことなんだけど……。」
え?あれ倒すの?無理ゲーじゃない?
「ところで貴女はほんとに5歳なのかのう?いくら何でも落ち着きすぎじゃ……。」
「え?それはもちろんそうですわ。」
いけない、今の私は5歳の少女だった。もう少し年相応にふるまわなければ……いけない?無理に演じないとダメ?
―「とりあえずこのあたりかしら?」
寝込んでいる間にお茶会も終わってしまっていたし、経過観察のためにしばらく王宮に滞在しないといけないらしく、暇を持て余した私は王宮の書庫に来ていた。
「えっと、ヴェルクハイム領は……。」
アールティーナ・ヴェルクハイム、今世の私の名前だ。ヴェルクハイム領は国の中央寄りに位置する土地でその領土内の山間部に竜の巣があるとされている国防の最前線にあたるらしい。
ゆえに王都に向かう時も境までは自領の騎士団が護衛についていたが、よもや王都方面から竜が来るとは誰も思っておらず最低限の護衛では太刀打ちできない状態だったらしい。
「とはいえ火龍はうちの領の騎士団でも手に余ったでしょうけど……。」
ため息をつきながら、地図を片付けつぎの本に手を付ける。
「やっぱりおかしい。」
そこに記されている文字は日本語ではないのだが、元のアールティーナとしての記憶もあるので読める。問題はそこではない。
「異世界転生だと思ったけど、サンドイッチやハヤシライスが存在するのよね……。」
書庫に来たのもそもそも出された食事に違和感を感じたからだ。あまりにも日本過ぎるのだ。
「どこかのゲームとかアニメの世界なのかもしれないけれど、アールティーナなんてキャラ知らないし、私が知らない機種のロボットがある……。」
自分が知らないロボットがあるということが少し悔しくもあるが、ここまでヒントが無いのも不思議だ。だいたい転生ものなら、あ!あの物語の誰々だ!って名前とかを聞いた時に分かるものじゃないのか?
「ミゼリコルデもそうだけど明らかに元の世界との繋がりは感じますのよ。」
固有名詞や地名が被る一方でロボットという単語はないというのだから余計に混乱する。
「……これ以上、悩んでも仕方ないですわね。」
取りあえず現状の確認だ。最前線ではあると同時に竜の素材の産地のなっているため、父は竜殺公と称されている。そう公爵なのである。
「もしも物語の世界なら公爵スタートはほぼ没落フラグなのでしょうけど……。」
我が家が没落となると領から国中に竜が溢れることになる。それこそ至る所で先日私があった事件が起こることになるのだから、そう簡単には没落とはならないはず……。
「お茶会も出れなかったし、この傷じゃ嫁の貰い手もいないんじゃないのかしら?」
没落物といえば婚約破棄、でもそれはそもそも婚約しなければ発生しないイベントなのだから今のままなら心配いらないのではないか?私はほっと胸をなでおろした。
―「ということでうちの第4王子と婚約ということでよいな?」
「承知いたしました。感謝いたします。」
「え?」
婚約が決まった。それも王子と。
「え?」
悲報。私、悪役令嬢かもしれない……。