蛇足章『夢界・少女・後悔』
――んー、あのね。こうかいしちゃった……。クスン……うぅ 『石島千寿々』
弘之が部屋から出た後、入れ替わるように沙良が部屋に戻ってきた。
千寿々は奇妙な表情だった。
泣いていた。でも、笑おうとしていた。
結果、ぐずくすと奇妙な表情になっていた。
沙良は千寿々をぎゅっと正面から抱き寄せて頭を撫でた。
よしよし、と。そっくりな外見なのに――まるで保護者のように。
千寿々も沙良に身を任せている。
「泣かないの。悲しいの?」
「うん。うん。ううん。うれしいけど、かなしいの。アタシ、ヒロユキさんをおこらせてたの」
「……あんにゃろうめ。苛めたらただじゃおかないって言ったのに……!」
苛立たしそうに沙良は呟くが、
「んーん。ちがうの。アタシがわるいから」
千寿々は首を振って否定した。
「悪いのは全部アタシよ。だから、気にしないの」
「んー、だめだよ。さらちゃん。わるいのはアタシなんだから」
「……強情なんだから。何を怒らせたの」
ほぼ記憶はないはずだけど……と沙良は口の中で呟く。
「んー、あのね。こうかいしちゃった……。クスン……うぅ」
「こうかい? 後悔……それってもしかして、あいつが夢の中で言ったこと?」
「ゆめ。うん、あのゆめのせかいでいったこと」
「もしかして、後悔させてやるってやつ? 怒らせたってそういうこと?」
「うん……」
「もう! 全然、千寿々は悪くないわよ! でも、後悔って何のことよ」
「んー、いわれたの。『きみはおれのすきな子のいもうとなんだからね!』って」
「えっと、それがどうしたの?」
「あのね、あのね……」
意を決したように千寿々は言った。恥ずかしそうに。でも、はっきりと。
「アタシをすきだっていってほしかったの」
「あー、あいつ……。ヒロユキは鈍感だからね。結局、最後まで華ちゃんの方を本体だと思い込んでいたし」
「うん。でも……ふられちゃった」
「あー……うん。あのさ」
「うん」
「ヒロユキが最後に言っていた言葉覚えている?」
「えっと、えすえふのこと?」
「そう。SFのこと。あいつの言葉」
「うん。えっと、おぼえているよ」
ヒロユキはあの世界で最後にこう言ったのだ。
『すこしだけ・ファンタジア。SFと言ったな』
『ええ』
『だとしたらこうも言い換えられるんじゃないか?
すこしだけ・振り向いて欲しい。SFだ。
だって、初恋なんだろう?』
「……何かね。誰かが言っていたらしいんだけどね」
「うん」
「初恋は実らないって! あ、あ、ご、ごめんなさい!」
「う……ぐ、うぅ、ぅうぅ。グスン……」
千寿々は涙を袖で拭って笑った。
痛々しいが、前向きに現実を見つめようと笑った。
「な、なかないよ。わらってっていわれたもん」
沙良は焦ったように両手をオタオタと振って、どうにか慰めようと必死に頑張る。
「う、うん。そうよ! 偉いわ! それにどうせもう会えなかったのに会えたんだから、そう、これは運が良いというか何と言うか!」
「う、やっぱりもう会えない?」
「あ、あ、う、うん。そ、そうかな?」
「うぅぅうううぅうぅうぅぅう」
「ああああああああ! な、泣かないで! アタシは千寿々と一緒にいるために具現化したんだしさ。アタシはずーっと一緒だから! ね、ね!
ううううう。
ヒ、ヒロユキカムバーック!」
〈Small girl`s First love〉Closed.
というわけで、『えすえふ』でした。
最後まで読んでくれた方に感謝を。
ありがとうございます。
あらすじにも書いていますが、これは私が十七歳(高2の冬)に初めて書いたそこそこの長さ(原稿用紙で150枚程度の中編)の小説です。
手書きで書いたので、そのものは実家のどこかにあると思うのですが、発掘しないと分かりません。
記憶を頼りにこの小説との違いを言うと、
『沙漠にて』『日本家屋と断頭台』『……死体』『熊の茶会』『死神の日々』『鈴と少女と恐竜と』
この6つのエピソードがもっと短い感じでまとまっていました。
それ以外の部分、特に『武道家』とか『旅人』とかのエピソードは、これを二十代前半の頃に書き直す時に付け加えられたものですね。
タイトルは『少しだけ幻想譚』でしたが、SFのタイトルにひっかけたのは後付けです。
そもそも、『夢界』の本体は華でしたしね。
内容そのものは『ブギーポップシリーズ』の『歪曲王』が好き過ぎて、そういうのを書こうとしたり、そもそも、一つ長い話が書けなかったので連作短編集にしようとしたり、とかいろいろありました。
あとは不思議の国のアリスですね。
沙良=ホワイトラビットです。
あと、『武道家』周りのエピソードを少し補足。
今、『七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?』を書いていますが、これ、元ネタは現代伝奇モノだったのですよ。
次のような世界観でした。
『二十三代目武道家』は病に侵された恋人(後に妻)を救うために、悪の組織である研究集団『壱式』に自分を実験体として差し出し、身を粉にして働きます。
その流れで恋人は病を克服するためという名目の実験で、異世界の獣=『獣王』を取り憑かれてしまいます。
結果、彼女は『獣姫』になってしまいました。
『二十三代目武道家』は『獣王』を倒すために、『石杜先生』と共に戦い、打倒します。
ですが、その結果『獣姫』と『石杜先生』は死亡してしまいます。
しかも、『二代目獣姫』として『石杜先生』の娘である石杜京華に『獣王』は取り憑いてしまいました。
みたいなことが下敷きになっていて、その『二代目獣姫』を巡るストーリーです。
石杜京華を監視する役目として『初瀬家の案山子』(こいつは和メイド)。
研究集団『壱式』と互助関係にある『戦家』の『弾丸』『玩具』『予知』の三兄妹とか、まぁ、当時の私が面白いと思ったものはガンガン入れていましたね。
で、割と『七人目の勇者はなぜ仲間に殺されたのか?』に転用していたりします。
もしかしたら、これはこれでそのうち書くかもしれませんが、その場合は、この『えすえふ』ともつながった世界観なのかぁ、と思ってくれれば嬉しいです。
思い出話は老人の特権ですね。
ではまた。




