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風の妖精シルフ①

  

 リアンたちが目指すソロモン国は、南北に細長い国で、その南半分は砂漠であり、人が住んでいるのは北部だけである。更に、西側の国は内戦が続いていて治安が悪く、東国は数千メートル級の山脈が延々と続いているため、どのルートを選んでも、大変な道程であることに変わりはなかった。


 馬で国境に辿り着いたリアンたちは、数百キロあるという砂漠の前に立ったが、馬で越えるには流石に無理があった。


「ここからはシルフの出番だな」


 何処までも続く砂漠を見ていたルークが、シルフを振り返った。


「空を飛んだとしても、半日はかかりそうじゃぞ。先ずは腹ごしらえせんとな」


「えっ、シルフさん、さっき食べたばかりじゃないですか」


 リアンが、信じられないと言った表情でシルフを見る。彼らは、一時間ほど前に朝食を摂ったばかりだった。


「うるさいぞ小僧! 途中で落ちても知らんぞ、それでもいいのか!?」


 シルフが可愛い声で怒る。


「……」


 馬の背に、ちょこんと乗っているシルフの頭には、食べ物のことしかないようだ。


「すまんが何か買って来てくれんか」


 困り顔のルークが、リアンに頼んだ。


「……分かりました」


 リアンは仕方なく今来た道を戻り、国境の町へと下りて行き、三十分ほどして、大きな袋を抱いて帰って来た。


「おお、飯じゃ飯じゃ!」


 シルフは袋の前にドンと座ると、一気に食べ始める。


「むしゃむしゃむしゃ、ごっくん、うまい! もぐもぐもぐもぐ」

 

 見る間に、袋の中身はシルフの胃に収まっていく。この小さな身体のどこに入るのだろうと、リアンは彼女の食いっぷりに驚くばかりだ。


「よし、これで大丈夫じゃ。ほらよっと」


 シルフは大きくなった腹を撫でると、小さくして背中に背負っていた絨毯を、元の大きさに戻した。


「出発じゃ! リアン、振り落とされないようにしっかり掴まっておれ!」


 彼らを乗せた絨毯は、勢いよく空へ舞い上がった。初めて空を飛んだリアンは、四つん這いになって絨毯にしがみ付いたが、ルークとシルフは、どっかと腰を下ろして余裕の表情である。


 最初は怖がっていたリアンだったが、暫くすると、眼下を見下ろす余裕が出て来た。絨毯はかなりの速さで飛んでおり、振り返ると、国境の町は遠くに霞んでいる。


 リアンが、何気なくシルフに目をやると、大きなあくびをしていた。彼は嫌な予感しかしない。


「眠くなって来た、寝てもいいか」


 シルフが、とろんとした瞼をリアンに向けた。


「眠るって、空の上ですよ。絨毯は落ちないんでしょうね!?」


 ここは、地上から数百メートル上空である。初めて空を飛ぶリアンは、落ちはしないかと気が気ではない。


「ん、これは儂の霊力で飛んでいるんだから落ちるに決まっとろうが……」


 シルフが当然のように言って、完全に目を閉じてしまった。その途端、絨毯は力を失って急降下を始めたのだ。


「うわっ! ルーク様、どうすればいいんです?!」


 リアンは、落ちていく絨毯にしがみ付きながらルークに助けを求めたが、彼は慌てる風もなく平然と腕を組んでいる。


「リアン、お前が飛ばして見ろ。風の精霊を操るんだ!」


「えっ! あ、そうだった」


 リアンは、気が動転していて、自分も風を操る魔法を使えることを忘れてしまっていたのだ。彼は、片手で絨毯を掴みながら杖を取り出し、必死で呪文を唱えた。


「風の精霊よ、この絨毯をソロモン国の街まで運び給え!」


 次の瞬間、絨毯は風の精霊たちに受け止められ、ゆっくりと高度を上げ始めたのだが、リアンは、集中力を切らせば落ちるかも知れないと、必死の形相を緩めなかった。


「そんなに力んでは、街まで持たんぞ。忘れたのか、心を穏やかにして、風に委ねるんだ」


(そうだった。操るのではなく委ねるんだ)


 ルークに言われ、リアンは風を操る修行を思い出していた。彼は、風で絨毯を飛ばすという応用が出来なかったことに悔しさを滲ませたが、気を取り直して、肩の力を抜き、心で精霊に訴えた。


(風の精霊よ。これは、この世界を救う大事な旅なんだ。力を貸してくれ!)


 すると、風の精霊たちは、高高度を吹き渡るジェット気流に絨毯を乗せた。スピードは格段に上がって、快適な空の旅となった。



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