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イベリスの覚悟

「イベリス、どうしたんだい。さっきから様子がおかしいよ」


 仕事が終わり部屋に戻ると、リアンが心配そうに尋ねた。


「……何でも無いわ。少し疲れているだけよ」


 と言いながらも、彼女は視線を逸らした。


「まさかと思うけど、アーロン王に復讐しようなんて思ってないよね」


「……」


「やはり復讐を考えているんだね。でも、彼は恐ろしい魔法使いだと聞くよ。それに、あの黒騎士たちに護られているはずだ。いったい君に何が出来るというんだ!」 


 イベリスの覚悟を知ったリアンは、顔色を変えて語気を強めた。


「貴方は悔しくないの! ……所詮あなたは他人ですものね。私はあの時の事を思うと、怒りで胸が張り裂けそうになるわ。この館にアーロンが来るのは、神様のお導きだと思うの。だから、刺し違えても両親の仇を討ちたい、討ちたいのよ!」

 

 イベリスは、リアンを睨みつけて思いの丈を吐き出した。彼女は、両親の仇である憎いアーロンの訪問を聞いて、抑えていた感情が一気に噴き出していたのだ。優しく知性輝くイベリスは、もうそこには居なかった。復讐心に取り付かれて別人のようになった彼女に、リアンは驚きを隠せなかった。


(思い留まらせなければ大変な事になる……。そんな事になれば、ブローニュ御夫妻に申し訳が出来ない!) 


 リアンは焦りを抑えながら、イベリスを促してベッドの縁に座ると、優しく語り掛けた。


「そんな事、ご両親は望んでいないと思うよ。怒りに任せて君まで死んでしまったら、誰がお二人を弔うんだい。君が生きて幸せになる事こそ、御両親の願いだと僕は思う。

 それに、僕は君が好きだ。君のいない世界なんて僕には生きる意味が無いんだよ。お願いだから無茶はしないで欲しいんだ。どうしてもというなら僕が仇を討つ。でも、時間をくれないか。最強の魔法使いであるアーロンは、簡単に倒せる相手じゃないからね」


「……」


 リアンの懇願に、イベリスは怒りを収め、顔を伏せた。そして、更に話し合いを重ねる内、彼女は「分かったわ」と、頷いたのである。


 それ以降、イベリスが復讐の事に触れる事は無かった。



 アーロン王の到着まで、あと一日となった夜の事、リアンのベッドにイベリスが滑り込んで来た。


「? イベリス、何のつもりだい?」


 イベリスらしくない行為に戸惑うリアンの唇に、彼女の唇が重ねられた。


「?……」


 リアンがイベリスを押し離そうとするが、彼女は聞かなかった。その内、イベリスを思い続けているリアンの感情が溢れ出すと、二人は強く抱き合ったのである。



 そして、アーロン王到着のその日は明けた。リアンは、早朝から執事の使いで館を出なければならなかった。


「イベリス、くれぐれも短気はいけないよ。仇は僕が取るからね」


「心配いらないわ、行ってらっしゃい」


 イベリスの輝く笑顔に安心したリアンは、館を後にした。


(彼女は本当に分かってくれたんだろうか?)


 リアンは館を一度振り向いた後、思い切るように馬に鞭を入れた。



 リアンが出掛けてすぐに、イベリスは執事の部屋のドアをノックした。


「イベリス、今日は頼んだよ……。それで、何か用かい?」


「お忙しい時に申し訳ありません。執事様に言っておきたい事があるのです。実は、私とリアンは本当の夫婦ではないのです。今迄嘘をついていて申し訳ありませんでした」


 イベリスは、そう言って深いお辞儀をした。執事は、何でこの忙しい時にそんな話をするのかと、怪訝な顔を彼女に向けた。彼にとって、それは大したことでは無かったからだ。


「……その話は、今回の事が無事終わってからゆっくり話そう。いいかな?」


 イベリスは、「はい」と言って部屋を出て行った。

 


 陽が中天にかかろうとする頃、当家のルーベン公爵に案内されたアーロン王が、黒騎士や近習の者、数十人を従えて館の門を潜った。

 玄関前では、やや緊張気味の執事を筆頭に、使用人たちが両サイドに居並んで、恭しく出迎えた。

 黒猫を抱いたアーロン王は、普段着姿で馬車を下りると、鋭い目を皆に向けて「ご苦労!」と声を掛け、公爵に案内されて城の中へと入っていった。



「ルーベン公爵、良く誘ってくれた。当に景勝の地。骨休めが出来そうだ」


 広い客間に通されて一息ついたアーロン王は、椅子に寛ぎながら公爵を労った。


「恐れ入ります。田舎ゆえ何も御座いませんが、御ゆるりとお過ごし下さいませ」


 公爵が、恭しくお辞儀をする。そこへ、


「失礼致します」


 鮮やかな緑に金糸の刺繍の入ったドレスを纏い、アーロン王に挨拶したのは、お茶の接待に来たイベリスだった。


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