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勇者パーティー1

  グランローゼン王国の北部地方で一番栄えていると言われる大都市ノースローゼン。

 周囲を二重の分厚い城壁で囲まれたこの城塞都市は、少し前まで人類連合軍の主力部隊が駐留して、対魔王軍の最前線基地となっていた。

 しかし、現在、ノースローゼンでは勇者アクセルの敗北、そして人類連合軍の撤退という事態を受けて、人口が急速に減少している。

 

 旅の途中に聞いた話で知ったんだけど、多くの住民が魔王軍の侵攻を恐れて、街を離れているのだそうだ。

 毎日のように、遠方の街へ避難もしくは転居する人が続出して、街の中はすでに閑散としている状態らしい。

 この街を治めている領主さえも、すでに一族郎党を全て引き連れて他国へ逃げ出している始末で、街の入り口には門番すらいなかった。

 

 まだ街に残っている人達も、ずっと街に留まる覚悟をしている人は少数派で、ほとんどの人が避難の準備中なのだとか。

 このままだとノースローゼンは極近い将来に無人のゴーストタウンになってしまうかもしれない。

 まぁ、私と勇者のパーティーが大魔王をったら解決することなんだけど。



 さてと、とりあえず、勇者を探そう。

 勇者には「ノースローゼンに来い」としか言われてないので、勇者が逗留している宿屋の名前も解らない。この大きな街で、アテも無く人を探すのは、なかなか骨の折れるミッションだ。

 まぁでも、腐れ縁とはいえ、そこそこ長い付き合いなので、勇者がいそうな場所の見当は大体付いているんだけど。

 あの不良勇者は、絶対に酒場にいる。 


 街の案内板を見つけて、酒場のありそうな繁華街の位置を確認すると、西と東に一つずつあるらしい。

 とりあえず現在地からは、西の繁華街の方が近いみたいなので、行ってみよう。




 西の繁華街にやってくると、すぐにどこからか大きな男の人の声が聞こえてきた。

 たぶん、どこかのお店の中で話している声なんだろうけど、常識外れに声が大きいから外の通りまで聞こえてきている。

 んー、この声に聞き覚えがある気がするな。

 いきなり手掛かりを発見したかも。

 たぶん、勇者の関係者のあの人がいる。

 そう思って、声の発信源とおぼしき酒場の扉を開けて、中を覗いてみると、店の中では巨漢の男がテーブルの上に立って大声で話していた。



「いいかー、お前らよく聞けよ。

 たとえ、相手がドラゴンだろうがベヒモスだろうが勇者だろうが、この世に俺様の斧で真っ二つに割れない敵はいねぇ!

 何故なら、俺様は世界一の大戦士ガイガン様だからだ! がははははー」



 はい、勇者の仲間発見。

 テーブルの上に乗っかって叫んでいる酔っ払いは、勇者アクセルのパーティーメンバーの一人、戦士のガイガンさんだ。


 2メルトを軽く超える長身の体躯は、分厚い筋肉の鎧で覆われており、見た目はちょっと小さな鬼人族オーガみたい。だけど、その膂力は鬼人族のそれを遥かに上回る。

 必殺技は、大地を割り、海を割り、空を割るという『ガイガン・クラッシュ!!』シリーズ。

 比喩じゃなくて本当に割っちゃいます。

 

 ガイガンさんは、元々は傭兵をしていたんだけど、人間は弱すぎて戦ってもつまらないから魔物と戦いたい、という理由で冒険者に転向したという、完全脳筋タイプの戦闘狂です。

 その怪物級の強さと破天荒な性格で、冒険者ギルド発行の「冒険者のしおり」には、初心者が決して近寄ってはいけない、


『ある意味、魔王軍よりたちが悪い人類ランキング』 


 の三位として記載されている危ない人だ。

 酔っ払うと敵味方関係なく暴れちゃうしね。今も勇者のこと、斧で真っ二つ、って言ってるし。

 

「がはは。だーがなぁ、あの大魔王ゼラクルスは無理だ! まるで勝てる気がせん! ありゃ全力で戦ってもかすり傷一つ付けられんだろうな! がはははは」


 

 いや。なに言ってんの、この人。

 勇者の仲間が笑顔で敗北宣言とかどん引きなんですけど。勇者アクセルよ、本当に勝率60%もあるのか?


「おう? そこにいるのは暗殺者のお嬢ちゃんじゃねーか。奇遇だな、一緒に一杯やるか?」


 

 ガイガンさんが私を見つけて声をかけて来た。何度か一緒にお仕事したので勇者の仲間とは、だいたい顔見知りです。

 ちょっとガイガンさん、こっち見て口を開くだけで、超酒臭いよ。昼間からどれだけ飲んでるんだ。



「おひさしぶりー。別に奇遇じゃないよ、ガイガンさんのところのリーダーに呼ばれて来たんだから」

「ん? てことは、一緒に大魔王のとこに攻め込むのか? 俺様の獲物は横取りするなよ?」

「うん。取らないよ、絶対」


 だってこの人、自分の狙った獲物を横取りされるとキレて味方でも攻撃するからね。

 

「ところで、なに? さっきの弱気発言。大魔王ゼラクルスってガイガンさんでもビビっちゃう程強いの?」


「ああ、あれはな。最強の大戦士である俺様が大魔王の強さを説明してやるとな、みんな青い顔になって帰っちまうんだ。飲みかけの酒を置いてな。俺様はそれを頂いて、タダ酒って寸法よ」


 うわ、最低だこの人。タダ酒のために人々の不安を煽る勇者のパーティーメンバー。

 さすが『ある意味、魔王軍より質が悪い人類ランキング』の第三位。


「でも、お店の中にはガイガンさん以外誰もいないよ? 店員さんすらいないんだけど」

「おぉ、じゃあさっきのやつで最後だったか。よし、お嬢ちゃんも飲みな。今ならタダ酒飲み放題だぜ」

 

 がはははー、と近くのテーブルから他人の注文したお酒をかき集めるガイガンさん。


「私は未成年だから遠慮しとく。それよりも勇者がどこにいるか知ってる?」

西(ここ)の繁華街は俺様の縄張りだからな。アイツは東の方にいると思うぞ」

「わかった、行ってみる」


 話をしているだけで、強力なお酒の匂いに酔っ払いそうなので、ガイガンさんにお礼を言って、さっさと酒場を後にした。

 ていうか、繁華街が縄張りって、マフィアか!

  


♢♢♢

 

 通りかかった人に道を尋ねると、東の繁華街に向かうには、リュリュ通りを抜けていくのが近いそうだ。 

 リュリュ通りというのは、多種多様なお店がひしめき合う大商店街で、平時なら昼夜問わず買い物客が溢れて、商人や大道芸人の声が飛び交う活気溢れる場所らしい。

 ただ人口激減のこんな状況下では、開いている商店なんて殆ど無く、閑散としている……と聞いたんだけど。


「さぁさぁ、よってらっしゃいお客さん。

 ポトー商店・ノースローゼン支店、大魔王復活記念の『人類滅亡の危機・売り尽くしセール』だよー」


 通りに入ると、いきなり威勢の良い声が聞こえてきた。

 視線を向けると、一つだけ開いている大きな商店の店先で、ニコニコ営業スマイルの店員さん達が通りを歩く客を呼び込んでいる。

 しかし、なんて名前のセールを開催してるんだ。


「ハイ、そこの旦那さん。三ツ星レストランの料理長が監修した特製スープの缶詰はいかがですかな? 温めるだけで簡単に高級レストランの味が楽しめますぞー。避難先でも家族が大喜び! 今なら四缶セットに一缶おまけが付いてでたったの銀貨五枚だよ」


「ハイハイ、魔除けのお香は在庫まだまだありますよー。 魔物が嫌う聖樹クレハの葉から作った最高級品! これさえあれば魔物の群れに襲われても生き残れるかも? 大魔王には効きませんけどね! 一袋金貨二枚! 三袋購入だと金貨五枚になるのでお得だよー」


「ハイハイハイ、大魔王が攻めて来る前に、国外避難の手続きはお済みですかな。お薦めは軍事大国ダイドリアか大聖堂の街セントリンクですよー。ダイドリア行きの馬車がお一人様金貨八十枚。セントリンク行きは、馬車と船のセットでお一人様金貨百二十枚でお手配致します。どちらも売り切れ続出でもう他の店では手に入りませんよー」  

 

 見渡す限りほとんどの店が閉店しているリュリュ通りで、唯一営業しているそのお店。

 店名を聞いて、納得した。

 ロンド大陸全土に支店を持つ世界一の大商人ポトーさんが経営する、その名もポトー商店だった。


 このポトーさんという人も、実は勇者アクセルの関係者だ。ポトーさんは数年前に、まだ無名だった頃の勇者アクセルと知り合って以来、そのパーティーのバックアップを無償で行ってきた人だ。

 

 先見の明があったのだろう。

 貧乏だった勇者のパーティーに、武器・防具、各種ポーション等の必要物資から、軍資金となる現金・遠征先の宿屋の手配まで、先行投資の名目で、無利子・無担保・無制限に提供しまくった。

 その甲斐あって、勇者アクセルの名声が六大王国に認められ始めると、今度は勇者アクセルの紹介で、六つの王国全てで、王室御用商人としての立場を得て、瞬く間に大陸全土に支店を持つ巨大商家の主へと駆け上ったのだ。


 それにしても、こんなときでも商売をしているなんて、やっぱり大陸一の商人は感覚が違うなー。


「やほー、ポトーさん」


「やや、これはルイカさん。おひさしぶりですな。いらっしゃいませ」

 

 忙しく接客する店員さん達の中で、一際大きな声で客寄せしていた太ったおじさんに声をかけると、すぐに私に気づいて近寄ってきてくれた。

 ニコニコした笑顔は、東方のお土産にある招福饅頭みたい、といつも思う。この人から商品を買うと幸せになれそう。


「お久しぶりー。勇者に呼ばれて来たんだけど、どこにいるか知ってる?」

「たぶん、東の繁華街でお酒を召し上がっておられますな。最近はたしか『キャバクラ』がお気に入りだとか」

 

 やっぱりか。しかも、キャバクラ。

 アイツ、本当に世界救う気あるのかな?


「それよりルイカさん。掘り出し物の火炎札があるのですが、いかがですかな。黒神教会製の品が今なら十枚セットで金貨180枚でご提供できますぞ」


 あ、勇者の居場所を聞くために声をかけただけだったのに、ポトーさんの営業トークに捕まった。

 うーん、火炎札かぁ。

 黒神教会製のは、威力が強力だし、市場になかなか出回らないから買っておいて損は無い。

 大魔王戦を前に、少しでも手持ちの戦力を充実させたいところでもあるし、欲しいと言えば、欲しいけど……。

 うーん、ちょっと高いかな。


「金貨100枚でどう?」

「いやいや、ご冗談を。金貨200枚でも売れる品ですぞ」

「じゃあ、120枚。私、これから人類の為に大魔王と戦うんだし、出血大サービスしてくれても罰は当たらないよ?」


 だから、お願いっ☆ と美少女ウインクで値切ってみる。


「むむむ。……それでは金貨150枚! これ以上はまけられませんぞ!」

「買った!」


 やったぁ、値切り成功! 金貨30枚分、得したよ。

 そしてポトーさんの顔が若干赤くなっている。

 昔から私によくおまけしてくれるし、ポトーさんってば、もしかして美少女に弱い人なのかな?」


「ありがとう、ポトーさん、大好き!」


 試しに、両手を握って上目遣いでお礼を言ってみると、おまけにもう一枚火炎札をくれた。やったね。


「ああ、ルイカさん。東の繁華街に行くのなら噴水広場を通らない方がいいですぞ」


 火炎札のセットを受け取って、別れ際にポトーさんがそう忠告してくれた。

 理由を聞きたかったけど、次のお客様が並んでいたのでお礼だけ言って、ポトー商店を出た。

 






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