到着
城塞都市ノースローゼンは、ロンド大陸の六大王国の一つ、グランローゼン王国の北国境近くに位置する大都市だ。
「やっと着いたよー。遠かったー」
マリナちゃんに背中を押された勢いでカサンドラを旅立ってから約50日後。
私は、勇者に指定された城塞都市ノースローゼンの城門前に立っていた。
カサンドラからの旅路は、馬車→船→馬車と乗り継いで通常だと約40日。ただし、今回は港町トミナからのノースローゼン行き乗合馬車が大魔王復活の影響で運休していたせいで、最後の道程を徒歩に頼ることになって、50日かかった。
ノースローゼンから直ぐ近くの国境線を超えると、そこは旧アルパネ神聖国の領内、しかも魔王軍が本拠地として占領している聖都アルパネが目と鼻の先にあるんだから、確かにそこに向かうなんて狂気の沙汰だよね。
「大魔王ゼラクルスが復活したっていうこの時期に、魔王軍の本拠地がある方面に向かう馬車なんかあるはずが無いだろうが!」
って、トミナの乗合馬車乗り場で受付のおじさんにめっちゃ逆ギレされてから、トボトボと一人寂しく街道をひたすら歩くこと、10日と少し。
ようやくたどり着きました。
女の子の一人旅にしては、なかなかハードな旅程だったよー。
ちなみに暗殺者ギルド職員の目撃情報によると、勇者アクセルは転移魔法を唱えて一瞬で楽々と帰って行ったそうだ。
やっぱりアイツ嫌い。
♢♢♢
そういえば、報告。
私ことSランク暗殺者、ルイカ=コジカは、勇者アクセルからの大魔王暗殺の依頼(サポート)を受諾することに決めました。
長い旅路を進んでいる間中、ずっとどうするか考えてて、やっと結論がでた。
依頼を受ける決断をした理由としては、故郷のこととかギルド長代理むかつくとかマリナちゃん大好きとか色々あるけれど、一番の理由は誇りの問題だ。
あの日から、握り締めすぎてぐしゃぐしゃになってしまった依頼書を何度も読み返して、勇者に言われた言葉を何度も反芻している内に、私はあることに気がついた。
私は勇者に侮辱されたんだ。
『~お前が俺のサポートに入れば、1%くらいは勝率があがるかも、って程度の依頼だってことだ』
あの時はうっかり聞き流してたけれど、アイツは確かにそう言った。
Sランクの私にサポートさせて、上がる勝率がたった1%だけだ、って!
あと『お前は気休め』とか『1%如き』とかも言った!
暗殺者ギルドにおいて、最強クラスの実力を持つSランク暗殺者の私にだよ?
上等だよ。
暗殺者の業界は信用が第一。
Sランクの実力をそんなに安く見積もられたのでは、商売あがったりというもの。
Sランクの誇りに……いいや、暗殺者業界全体の誇りにかけて、勇者如きの60%しか無い勝率を100%に引き上げてあげるよ! そう思ったんだ。
私には、この依頼を受けたい理由と受けたくない理由の両方があって、その二つを天秤にかけて迷うのならば、暗殺者としての誇りを守る選択する。そう決めた。もう迷いはない。
それにノースローゼンまで、わざわざ来ておいて、依頼を受けないで帰りますって言うのも格好悪いしね。
ちなみに、マリナちゃんが手続きをしてくれた依頼書には、受諾印は押してあるけど、実はまだ仮契約状態です。依頼書の最後に特記事項として、本契約は、報酬について双方合意してサイン後に締結、とちゃんと書いてある。
さすがマリナちゃん。暗殺者ギルドで一番仕事が出来る女に手抜かりはないね。
よーし。報酬交渉を頑張って、勇者から出来るだけ沢山の報酬をぶんどるぞ。
そういうわけで、私は勇者アクセルと合流するべく城壁都市の堅牢な城門をくぐった。