勇者vs大魔王2
ブックマークありがとうございます!!
♡ฅ^•ﻌ•^ฅニャ
「ハイエルフの秘匿禁術【魔族転生】とは、その名の通り魔族以外の種族を魔族に生まれ変わらせるという儀式魔術だ。術の行使に必要なものは三つ。身体に刻む転生用魔法式、黒神教会が作る錬金術の秘薬。そして、触媒となる魔族の血液」
言葉を重ねながらもアクセルの剣は、連続してゼラクルスに襲いかかる。ゼラクルスも自らの剣で撃ち返して、二人は剣戟を重ねていく。
「この三つの内で最も重要なのが、触媒となる魔族の血液だ。低級魔族の血液では低級魔族にしか転生できず、大きな力を求めるのなら出来るだけ上級の魔族の血液を触媒としなければならない。そして、大魔王との戦いを想定する俺が触媒として使ったのは……」
一度後ろに大きく跳んで、距離をとったアクセルは、ポケットからナイフを取り出してひらひらと見せびらかす。
ゼラクルスはそのナイフに見覚えがあった。
ルイカ=コジカが触手を断ち切る時に用いていた小振りのナイフ……。
「まさか……」
「そう。暗殺娘が戦いの最中にアンタの血液を採取して、このナイフに塗りつけた。そして隙を見て倒れている俺に投げてよこしたんだよ」
アクセルは、くくく、と意地悪く笑い、不要になったルイカの投擲用ナイフをゼラクルスの顔面めがけて投擲した。
ゼラクルスはそれを容易く受け止めて、魔力を込めた手の中で消滅させる。
「俺が暗殺娘に依頼したのは、大魔王の血液を手に入れること。俺が死んだふりをして魔族転生の儀式を行っている間、大魔王の注意を引きつけておくこと。この二つだ。
アイツはまんまと依頼を完遂して、俺は魔族に転生した。大魔王の血液を触媒とした、最上級の魔族としてな。
暗殺娘にしては上出来だ。誉めてやるぜ」
「そうまでして魔族に転生したところで何になる? よもや魔族になっただけで、大魔王に勝てるなどと勘違いしてはおるまいな?」
種族として魔族と人類の戦闘能力を比較した場合、肉体的強度・運動能力・限界魔力量、そのどれをとったとしても、魔族の平均は人類のそれを遥かに上回る。
勇者が人類から魔族に、しかも最上級の魔族に転生したというのなら、その戦闘能力は各段に跳ね上がったと言えるだろう。
だが、それだけだ。
基礎となる魂の器が違うのだ。
大魔王の血を触媒としたからと言って、たかが人間が大魔王に転生できたわけではない。魔族化した勇者の肉体から感じる気配は本人の言うとおり、精々、最上級魔族止まりだ。
勇者が魔族転生によって爆発的に向上したと勘違いしている戦闘能力は、ゼラクルスにとっては誤差の範囲でしかない。
最上級魔族如きに、魔界の神である大魔王ゼラクルスを、脅かす力など無いのだから。
ゼラクルスにとって勇者アクセルは、この玉座の間に突入してきた時と同じく弱者のままだ。
「ばーか。学習能力ねーのか、大魔王? 魔族に転生したってことは俺の魔力は闇属性に変わる。つまり暗殺娘の呪われた魔法武具以上に、アンタの【黒魔の衣】の減衰効果を受けない。攻撃が一切無効化されないってことだぜ?」
アクセルは騎士剣に魔力を流して刀身に纏わせる。闘気剣と呼ばれる技術だ。
「もう大魔王には、俺の剣は防げない」
「馬鹿が」
【黒魔の衣】に対抗する手段を手に入れて満足げに勝ち誇る勇者アクセルに対して、ゼラクルスは彼を警戒していた自分の行いを悔悟した。
情けなくも自分がアクセルに対して感じていた違和感の正体は、取るに足らないものだったのだ。
脆弱な人類だと思っていた男が魔族転生を果たし、魔族の肉体と闇属性の魔力を手に入れた。そこには血液を触媒とされたゼラクルス自身の気配が少なからず混じっていたのだろう。
何のことはない。ゼラクルスは勇者の気配に混じる、自身の影を警戒していたのだ。
種を明かされれば、たったそれだけのこと。
【黒魔の衣】に対抗できるからなんだと言うのだ。
この男に与えられる魔族化の恩恵は、結局の所、多少の身体能力向上と闇属性の魔力のみ。
ルイカ=コジカのような武勇を持たず、強力な武具も持たないのならば【黒魔の衣】以前にゼラクルスの身体に触れることすら叶わぬ。
「我としたことがくだらぬ時間を過ごしたものよ。
勇者を名乗る道化師よ。
死して、我の前から疾く消え失せろ」
「つれないこと言うなよ、大魔王。ここからが俺の見せ場なんだぜ?」
大魔王ゼラクルスの剣が虚空に閃く。
「十文字」
それはルイカ=コジカにも放った二つの斬撃を十文字させて同時に叩きつける、ゼラクルス得意の剣技。
対して、勇者アクセルは唇をニヤリと歪ませて、迫りくる剣撃に合わせるように騎士剣を振るう。
「十文字」
勇者の口から呟かれたそれは大魔王の放つ剣技の名と同じもの。そして、その剣が描く軌道もまた大魔王のそれと同様に二つの剣撃が十文字していく。
互いにの剣が全く同じ軌道で衝突して、弾き合う。
「な、………!?」
驚愕するゼラクルスへと、再び間合いを詰めたアクセルは、さらに剣を振るう。
「こんなのもあるぜ? 阿修羅」
アクセルの剣が繰り出す左右同時の六連撃。これもまた大魔王の得意とする剣技と全く同じものだった。
「ぐ、阿修羅!」
寸秒遅れて、ゼラクルスもまた同じ技を返す。
六つの剣撃が激しくぶつかり合って、互いを弾き合った直後、再度剣を振るう姿勢を見せたアクセルが次に放つであろう剣技がゼラクルスには予測できた。
否定したい。
しかし、この男が使える訳が無いと思いつつもここまでの流れがそれを示唆している。
「百華」
「百華」
予測通り。二人が同時に放ったのは同じ剣技だった。
数え切れない程の刺突の雨。
互いに降らせる高速の百連突きがぶつかり合い、アクセルの突きがゼラクルスの足を、ゼラクルスの突きがアクセルの肩を際どくかすめた。
ここでアクセルが再び距離をとったので、剣戟は一時的に止まる。
「何故、貴様が余の剣技を……」
大魔王の口から茫然と呟かれた言葉は問いの形をしていた。
強さを持たぬ愚か者と侮蔑していた勇者が自分と同じ剣技を使って見せたことに動揺を隠さない。
「何故ってことはないだろう? 逆にアンタはこの剣技を何だと思って使ってんだ?」
「…………何を言っている?」
問いに問いで返される不快感よりも、疑問が強く勝る。
何故、この男は余と同じ剣技を使う?
この男は、何を言おうとしている?
「そもそも【十文字】【阿修羅】【百華】は、大魔王の剣技なんかじゃない。二百年前の勇者ソナタが、大魔王打倒の為に編み出した剣技だ。
そして大魔王ゼラクルス討伐後、ソナタによってアルパネ神聖国に伝えられ、代々の王家と騎士団長が受け継いで来た神聖な技なんだよ」
「!…………違う、この剣技は余の……」
勇者の語る言葉の衝撃がゼラクルスの混乱を深めていく。
違う。この剣技は、余のものだ。
それは間違いなく、確信している。
しかし、目の前の男が嘘を言っていないということもなぜか理解出来てしまう。
なんだ? ……余の身になにが起こっている?
「……どういうことだ」
「こっちが聞きたいくらいなんだよ。
どうして大魔王が勇者ソナタの剣技を使える?
まさか二百年前に、ソナタと戦ったから覚えてました、なんて言わねーよな?」
「………………」
勇者の問いに対して、混乱する大魔王の返答はただ沈黙のみだった。勇者はそれを是とせず、さらに大魔王に問い続ける。
「そもそもアンタ、不自然なんだよ。大魔王のくせに弱すぎる。Sランク暗殺者とはいえ、たかが人間の小娘一人に苦戦して大きなダメージを負う? そんな大魔王いるか?」
「……ルイカ=コジカは、強者だった」
大魔王の苦し紛れの返答も、勇者アクセルは否定する。
「ああ。だが俺達の仲間四人分よりは遥かに弱い。アイツに苦戦するような奴が相手なら、俺達は前回の戦いで全滅なんてしてねーよ。たとえ【黒魔の衣】があってもな」
「…………我は、………違う? …………我は、大魔王…………ゼラクルス」
勇者アクセルは、わざとらしく肩を竦めて見せて、混乱し続ける大魔王ゼラクルスを名乗る男の言葉を無視する。
そして、ついに核心をつく問いを、口にする。
「アンタ、誰なんだよ?」
【お詫び】
すみません。
ここまで間違えて推敲前の下書き原稿を投稿していたみたいです(そして完全版の原稿の方は消去してました泣)。
1話から順次、推敲し直して改稿したいと思いますので最新話の投稿ペースがしばらくゆっくりとなります。
12月中には正常化させる予定ですので、ご迷惑お掛けしますがお待ちいただけると幸いです。
改稿状況は最新話投稿時にお知らせいたしますが、大筋は変わらないので読み直さなくても大丈夫です。
よろしくお願いいたします。
号ฅ^•ﻌ•^ฅ泣