暗殺者vs大魔王2
申し訳ありません。
1話飛ばして投稿していました。
12ページ目に『勇者パーティー3 〜 そして決戦へ』を挿入しています。
「かはっ」
黒い閃光に腹部を貫かれた。
大魔王の指先から放たれたのは魔力の波動。
攻撃魔法ではなく凝縮した魔力そのものを波動に変えて、飛ばしている。魔界の神の持つ膨大な魔力が凝縮されたそれは、途轍もない質量を持った魔力の槍だった。
「かはっ、くぅっ、はっ、はっ……」
呼吸が上手く出来ない。結構な量の血を吐いた気がする。攻撃を食らったのとほぼ同時に唱えた、初級治癒魔法が紙一重でほんの一握り分の命を残してくれた。
そうじゃなかったら、即死だった。
後方にジタバタと転がって逃げながら、道具袋から取り出した回復薬をガブ飲みする。傷口にもかける。
急速に傷が塞がっていくけど、まだ動けないので、追撃されたらかわす術が無い。
だけど、大魔王は何もして来なかった。
ただ沈黙して私の回復を待っている。
寸秒後、何とか戦闘を維持できるくらいに回復して、立ち上がったけど、まだ万全じゃない。失った血はすぐには戻らないから、ベストコンディションの状態と比べて八割くらいかな?
それでもいつもの回復薬を、勇者パーティーと同じ、ポトーさんの用意してくれた高級回復薬に入れ換えておいて、助かった。
いつもの回復薬だったら、この半分も回復してない。
これ、絶対普通の回復薬じゃないよね。
多分、ハイエルフの秘薬とかだと思う。
「……死ななかったか」
「おかげさまで。とどめを刺す隙はあったと思うんだけど、どうして黙って見てたの?」
「あのまま死ぬと思ったのだよ。随分と良い薬を持っておるようだな」
「まぁね」
ポトーさん、マジ感謝です。
「だが、力の差は歴然であっただろう。
そなたでは余の相手は務まらぬ。
せめて楽に死なせてやる故、次の一撃は抵抗せずに受け入れよ」
「冗談。さっきのはちょっと油断しただけだよ。これからが私の見せ場だからね」
「哀れな」
大魔王が再び指先を差し出した。
来る。大丈夫、今度はかわせる。
さっきのは、本当に油断しただけだった。
勇者を葬った一撃を目の前で見ていた私は、あれが、あの攻撃の最高速度だと勘違いしてしまっていた。
だから、その数段上の速さで放たれた一撃に反応が遅れてしまったのだ。本当に間抜けだ。
今日の私はどうかしている。
集中しろ。もう、二度とミスはしない。
「次は、頭を吹き飛ばしてやろう」
言葉通りに、私の頭部を狙って黒い魔力の波動が飛んでくる。
私は自分の魔力を両脚に流した。
魔力には魔力で対抗する。
「雷速一式!」
これは暗殺スキルと呼ばれる技術じゃない。
大昔に、ある天才暗殺者が編み出したという伝説の暗殺術【42の暗殺術】。その一つ、雷速一式。
両脚に刻まれた特殊な魔法式に、魔力を流すことにより発動して、私は雷の移動速度を得る。
「なんだと……」
雷速で移動して攻撃を回避した私の姿を、大魔王は視界から完全に見失う。
だから、次は私のターン!
空振りに終わった大魔王の攻撃が床石を砕く音を聞きながら、今度は両腕に魔力を流す。
魔法式が刻まれているのは、脚だけじゃない。
「雷速二式!」
魔力が反応して、今度は両腕が雷化する。
雷の移動速度を持つ私に、さらに雷の攻撃速度が宿った。
一瞬にして、大魔王との間合いをゼロ距離まで詰めて、相棒、血塗れの姫君を大魔王めがけて一閃した。
「ぬぅぅ…………!」
手応えあり。
血塗れの姫君は、大魔王の右腕を斬り飛ばした。
「なんと!……まさか……」
大魔王の表情に驚愕が刻まれた理由は二つ。
一つは、私が攻撃をかわして、反撃したこと。
もう一つは、私の攻撃が大魔王に通ったこと。
「驚いた? 大魔王ゼラクルスの肉体は【黒魔の衣】に覆われていて、如何なる攻撃も通さない……はずだもんね? だから、前の戦いで勇者アクセルのパーティーは為す術なく敗れた」
大魔王は、床に転がる斬り落とされた自身の右腕を見ていた視線を、私に移した。
「勇者アクセルの分析によると【黒魔の衣】の正体は、その名の通り、全ての属性魔力・生命エネルギー・物理エネルギーを減衰させる性質を持つ、魔族特有の闇属性魔力。
それを、莫大な魔力量を持つ大魔王が、超々高密度で展開することによって、あらゆる攻撃を無効化させる絶対防御」
「………………」
「正直、人類にはお手上げだよね。唯一、闇属性の魔力に対して、一定の耐性を持つ聖属性の魔法や魔力を使ったとしても、大魔王クラスの魔力量が相手だと単純に出力負けして通らないし。
伝説の勇者ソナタが使ったという神属性の聖剣グランドクルスとかでもない限り【魔力の衣】は破れない」
でも、聖剣グランドクルスって、大魔王を倒した後で、砕け散っちゃったらしいんだよねー。
「だけど、自然界に唯一の例外として、魔族の持つ闇属性の魔力にとても近い性質のエネルギーが存在するんだよ」
私は血塗れの姫君を見せびらかすようにかざして、刀身にキスをする。
「……呪われた魔法武具か」
さすが大魔王。
答えに行きつくのが早い。
「そう。私の相棒、血塗れの姫君の属性は【呪い】。使用者の持つ魔力・生命エネルギーを全て【呪い】の魔力に変換して攻撃する。
そして【呪い】の負の魔力は、魔族の使う負の魔力と、近似する。よって【魔力の衣】による減衰効果は十全には機能しない」
「呪われた武具などを装備して正気を保てる人間がいるなど聞いたこともないな」
「装備じゃなくて契約だからね。私と姫君は相思相愛。だから、私を傷つけずに無償で力を貸してくれるの」
「にわかには信じられぬ話だ」
大魔王の視線が探るように私と姫刀の間を往復する。
疑っても無駄なんだけど。
嘘なんてついて無いもんね。私は世にも珍しい呪われた魔法武具との契約者。
ある意味、大魔王の天敵かな?
これが、勇者が対大魔王の作戦に私を雇った理由の一つだ。
「本当は今の攻撃で腕じゃなくて、首を断ち切れたんだけどね。さっき一回待ってもらってるから、こっちもサービスしたんだよ。次が本番。今度はガチでお命頂戴するからね」
「ふむ。甘く見ていたことを謝罪しよう」
大魔王は床に転がっている右腕に視線を向けると、残っている左手をかざして魔力の波動を送った。斬り落とされた右腕があっと言う間に灰になり霧散する。
「もう暫くは、この姿でいたかったのだがな」
「な、………!」
私は絶句する。
大魔王の魔力が爆発的に膨れ上がっていく。
今までだって桁違いだった魔力がさらに尋常じゃなく増大する。
そして、魔力量の上昇に従うように大魔王の肉体もまた形を変えていく。
顔の皺が消えて、四肢に筋力が盛り上がり、
失ったはずの右腕が再生する。
莫大な魔力を従えるのに相応しい、若く強靭な肉体が、完成する。
「あまり肉体が若すぎると、王としては威厳がないと思ったのだがな。本気で戦うのならば、こちらの方が向いておろう」
大魔王の顔から老人だった時の理知の色が消えて、代わりに獰猛な獣のような殺気が、私に叩きつけられる。
「人の身で戦えること、光栄におもうが良い。
大魔王の完全体というやつだ」
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