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暗殺者vs大魔王1

申し訳ありません。

1話飛ばして投稿していました。

修正→この話の前に『勇者パーティー3』を挿入しました。


 はい、というわけで、長い説明終わり!

 

 時間は現在に戻って、こちら大魔王前(げんば)のルイカちゃんです。


 偉そうに策とか言ってた馬鹿勇者のアクセルが、予定外(・・・)に秒殺されちゃったので、私は今から大魔王と1対1で戦います。




♢♢♢


 と、言いたいところなんだけど、ちょっと身体が動かない。だって大魔王の発する気配がヤバ過ぎる。さっきから恐怖に手足が震えてガクブル状態なのだ。


 アルパネ神聖国の王様の肉体を依代にして復活したという大魔王ゼラクルス。

 死ぬ前のアルパネ国王はかなりの高齢だったので、目の前にいる大魔王も、外見だけなら人間の老人にしか見えない。

 

 やたら眼光が鋭いこと以外は、痩せこけたと言ってもいい筋肉の衰えたその肉体に、脅威を感じる理由はないはずだ。

 

 なのに、今まで見てきたどんな敵よりも圧倒的にヤバい気配がする。

 絶望的、と言い換えてもいい。

 頭の中で、これまで私が重ねて来た戦いの経験値が警鐘を鳴らしてる。

 これは勝てない。私はもうすぐ殺される、と。


 だけど、相手が強者だからと諦める暗殺者は無能だ。越えられない相手とのギリギリの命のやりとりを、不屈の精神で生き延びる。

 そうやって、私はSランクまで成り上がったんだ。

 ……どうせ逃げられないんだし。


 ようし! 殺ってやるぞ、大魔王!

 

 ……とか言いながら、ぴょんと横方向に跳んで、近場にある大きな柱の陰に隠れてみる。

 だって、怖いんだもん。


 そもそも暗殺者って、基本的には正面からやり合う戦闘スタイルじゃないし、安全圏を確保しながら不意を突く作戦で行きたいよね。


 とりあえず丈夫そうな柱の陰に身を隠しながら、大魔王の様子を確認しようと、慎重に首だけを伸ばして覗き見する。


「悪いが、そこでは隠れたことにならぬよ」


「!」


 冷たく重い大魔王の声が響くと同時に、背後に悪寒が走る。慌てて振り返ると、床から気持ち悪い触手が生えてきて、私の足首に巻きついた。


「うわわわっ」


 まずい! すごい力で引っ張られて体勢を崩された。血塗れの姫君(ストロベリー・ハニー)を振り抜く角度がとれない。


「ちぃっ」


 身体ごと引きずり出される寸前で、足首に仕込んでおいた投擲用スローイングナイフを抜いて触手を切り裂いた。自由になった足で地面を蹴りつけて、後方に飛ぶ。


 追加で触手があと三本追ってきたから、ポケットから同数の火炎札を取り出して、投げつけてやる。


「爆炎となれ」


 私の声に反応した火炎札が激しく爆ぜて、触手を焼き尽くした。さすが黒神教会謹製の札。威力が邪悪だ。ポトーさん、ナイス商品! 


 だけど、この札って、一枚金貨15枚の計算だから、あんまり使い過ぎると、お財布に優しくない。ただでさえ、現在確定している報酬は勇者に値切られた前金だけなんだから、余計な出費は避けたいのに! 早くも三枚! 金貨四十五枚分!


「えーん」


 悲しい気分になりながら着地してから、ちょっと舌打ち。

 なんか腹が立つ。報酬が少ないのに、余分な浪費をしてしまったことも勿論だけど、それよりも初手から相手のペースに乗せられている自分が許せない。

 

 今、私が立っている場所は、さっき粉々になった床のすぐ隣。つまり、まんまと元の場所に連れ戻されたのだ。勇者を葬った大魔王の必殺の一撃が当たる間合いまで。


 素早く視線を走査して、新しい安全圏を探す。けれど、そんなの見つかるはずがない。

 私はプロの暗殺者なんだから、この大魔王の間に突入した直後に、安全圏の見積もりはちゃんとした。

 それで一番安全だと踏んだのがさっきの柱の陰だったんだから、それ以上に安全な場所が見つかるのなら、さっきの私が間抜けだったということになる。

 安全圏はなくなった。

 さぁ、どうしよう?

 

「……少し話をせぬか、可愛い勇者どの」


「はい?」


 あれ? お話するの? 誰と?

 大魔王からの突然の申し出に周囲を見回す。 

 うん。私しかいないよね。

 戦う気満々だったんですけど。

 お客様、私をご指名ですか?


「えと、私は勇者じゃなくて、暗殺者だよ。さっき名乗ったのに聞いてなかった?」


 とりあえず、会話に応じてみることにする。

 戦って勝てる未来ビジョンも浮かばないし、時間稼ぎにはちょうど良い。


「勇者はそこで死にかけてる奴ね」


 端っこに転がっている半死体を指差して、教えてあげると、大魔王は眉を顰めた。


「当代の勇者はかなりの強者だと聞いていたのだがな」


「んー、強いと言えば強いけど、どっちかというと策士系、ていうか詐欺師系かな? 戦闘力は上の下くらいだと思うよ。汚い作戦とかいっぱい駆使して、相手の裏をかいて勝つタイプ。

 魔王軍がわざわざ魔界から召還した魔神を、落とし穴に落として袋叩きにしたこともあったよ。しかも人類連合軍の主力二十万を囮に使って」


「…………珍しい勇者だ」


 大魔王、勇者の評価に困るの図。

 普通の勇者は、伝説の聖剣とか持って正面から戦うもんね。


「まぁ、アンタもそこそこ珍しいけどね、大魔王」


「余が何かしたか?」


「勇者が玉座の間に入ったとたんに不意打ちで倒すとかありえないんですけど。普通は「よくぞここまでたどり着いた」とか余裕ぶって勇者を出迎えるものでしょ? 

 

 そんで「余の配下に加われば世界の半分をくれてやろう」「断る!」みたいなお決まりの問答やってから、やっと戦闘開始がお約束だよね。様式美を大事にしてくれないと興醒めなんだけど」


「……それはすまないことをした。世事に疎くてな」


 あれ? なんか大魔王ショック受けてる?

 もうちょっと押してみる?


「あとあれね、さっきの触手! 十六歳の少女相手に触手で攻撃とかエロすぎでしょ! 

大魔王って、そういう趣味の人? もっと王としての品格とかって、考えた方がいいと思うよ」


「……言葉の意味はよく解らぬが、触手での攻撃は以降使わぬこととしよう」


 おお。適当に悪口並べてみたら大魔王の武器が一つ減ったよ。十代の女の子、口喧嘩最強説! 

 このまま言葉攻めで、大魔王倒せるんじゃね? 


「ところで、他の仲間はどうした?」


 ちっ、話題を変えられた。


「まさかたった二人で余を倒しにきたのではあるまい?  他の仲間はどうした? 途中で死んだのか?」 


「戦士のガイガンさんは、城門の所にいた黄金三頭龍とタイマン中。魔導師のお姉……カリンさんも城の中にいた……魔界公爵だっけ? なんか上級魔族と一人で戦ってる」


「魔界龍種の王、黄金三頭龍と魔王軍最高幹部の魔界公爵デフレア。どちらも人間風情がたった一人で戦える相手ではないぞ」


「んー、私もそうだろうとは思ったんだけど。本人達がやる気まんまんだったし、勇者もそれで作戦通りだって言うから、アリなのかなって」


 だめですか? てへぺろ、なんちゃって。


「あ、あと武道家の蒼龍さんは一つ下のフロアで、城内にうじゃうじゃいる強い魔物達がここに来ないように、ひとりで食い止めてる」


「上位種ばかり三千体はいるはずたが?」


「そうなの? ここに来るまでに私と勇者で百体くらいは殺ったから、あと二千九百だね」


「それも人間一人が許容できる数ではないな。

 なるほど。そなた達は、仲間を1人ずつ捨て駒にして、たった二人を余の下に送り込んだと言うわけか。無意味なことをしたものだ」

 

 大魔王の言葉に侮蔑の色が混ざる。

 まぁ、そう思うよね。ていうか、私もそう思ったし。


「捨て駒かどうかは知らないけど、ここまでは予定通りかな。そこの馬鹿勇者がやられたこと以外は」


「それで、そなたの役割は?」


「勇者のサポート役の予定だったけど、勇者がやられた時は、私が大魔王を暗殺する契約になってる」

 

 勇者はそんなこと言ってなかったけど、勝率を100%に引き上げるというのは、そういうことだ。私はそのつもりで契約した。


「人類最後の切り札ということか。そなたのような少女が、人は見かけによらぬものよな」


「あなたもあんまり大魔王っぽくないね」


「そうか。では、何者に見える?」


「……人間の王様に見えるよ。世界一優しい王様と呼ばれたアルパネ神聖国のケヴィム三世に」


 もし、私にSランク暗殺者としての誇りやプロ意識がなければ、泣いちゃうくらい……。

 それくらい、目の前の大魔王は私の知っている(・・・・・・・)王様にしか見えない。


「その名を持つ者は、もうこの世のどこにもおらぬよ。余は大魔王ゼラクルス。世界を呪う破壊者だ」


「………………」


「少々、話し過ぎたな」

 

 大魔王の顔から表情が消えた。 

 次の瞬間、大魔王の放つ殺気が急激に膨らんでいく。


「世界の半分を……と言ってやりたいが、全てを滅ぼすつもりでな。やれるものは何もない。せめて楽に死なせてやろう」


 私に向けられた指先が怪しく光る。

 勇者を葬った時みたいに。 


「死ね」


 放たれた波動が私のお腹を貫いた。


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