表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/17

勇者パーティー3 〜 そして決戦へ

 勇者とは、キャバクラで合流した後、すぐに別れた。


 私としては報酬の話し合いをして、さっさと正式な契約を済ませたかったんだけど、火炎札をくらった勇者が不機嫌になっちゃったし、キャバクラで酔っ払いを相手にする話でもないので「俺らの泊まってる宿屋に行ってろ」という勇者の言葉に従って、さっさとキャバクラを後にした。


 勇者達が逗留している宿屋は『流星とペガサス亭』と言って、ポトー商店が経営する最高級の宿屋だ。棟内には、三ツ星レストランや温泉施設、エステサロン等々、充実した施設が完備されていて居心地がとても良い。現在はポトーさんのご厚意で勇者パーティーの貸し切りになっている。



「ほほほ。もちろんルイカさんのお部屋もご用意しますぞ」


 ポトーさんがそう言ってくれて、私にも滞在用にめちゃめちゃ広いスイートルームが提供されたけど、勇者パーティーと一緒の宿屋に泊まる時はだいたいカリンさんに拉致られて、カリンさんの部屋のベッドで抱っこされて寝ることになるので、この部屋はあんまり使わなそうだ。



「それでは、第一回・大魔王ゼラクルス攻略会議を始めます。司会は私、ポトーが務めさせていただきますぞ」


 合流した日の夕食後、キャバクラから帰ってきた勇者から招集がかかって、私と勇者の仲間達は、『流星とペガサス亭』の棟内にあるVIP専用会議室に全員集合した。これから対大魔王ゼラクルスの作戦会議が始まるのだ。

 

 

「………………」


 と、会議が始まる前に勇者のパーティーメンバーをあと一人ご紹介。


「………………」


 会議室の片隅で椅子に座らず、床の上で座禅を組んで瞑想している男の人。勇者と同じ二十代前半くらいかな? 


 極東地方の出身者に多い、黒い髪と瞳が印象的な精悍な顔つきのお兄さんの名前は、蒼龍さん。武道家です。通称、沈黙の蒼龍。

 

 この人、全く喋りません。

 趣味、主義、目的、特技、家族構成…………その他もろもろ、全くわかりません。

 だって、喋らないから。


 だけど、このパーティーには珍しく『ある意味、魔王軍より質が悪い人類ランキング』に入っていないので、たぶん良い人。

 あと当然だけど、すごく強い。

 どれくらい強いかというと、蒼龍さんの流派では素手でドラゴンを殺せて一人前だそうです。そんな無茶な……。

 勇者によると、ガイガンさんと互角に戦えるのは、全人類の中で蒼龍さんだけらしい。

 何にせよ、頼れる味方です。


「蒼龍さん、頑張りましょうね!」

「………………(こくり)」


 試しに声をかけてみたら、微妙に首が縦に動いて、頷いてくれた(気がする)。

 うん。やっぱり良い人だ(と思う)。 

 

 ちなみに、勇者のパーティーに回復職ヒーラーはいない。『ある意味、魔王軍より質が悪い人類ランキング』の一位から三位までを独占している勇者パーティーは聖教会から忌み嫌われているので、聖属性の魔法を使える人が仲間にならないのだ。


「聖教会が、大魔王と戦う勇者パーティーに支援なしとか流石にあり得ないでしょ。どんだけ嫌われてるの?」


 って訊いたら、


「がはは、勇者が教皇をフルチンにして大聖堂の屋根から逆さ吊りにしたからな!」


「けっ、その後でお前が大聖堂をぶっ壊したからだろうが」


「私は聖堂騎士団をまとめて氷漬けにしただけですわ」


 と問題児三人からひどい返事が返って来た。

 いや、なにしちゃってるの? この人達。

 流石は『ある意味、魔王軍より質が悪い人類ランキング』の一位から三位だわ。

 聖職者が味方になってくれる方がおかしいね。


 まぁ、本人達も積極的には回復職ヒーラーの募集をしていないみたいだ。

 ポトー商店から仕入れる高級回復薬(ハイ・ポーション)があれば十分らしい。

 まぁ、本人達がそれで良いなら外部の人間の私に文句はない。

 私? 暗殺者は敵に察知される前に殺すのが基本なので、特に必要性を感じません。

 一応、非常用の回復薬(ポーションは持ってるし、初級の治癒魔法くらいは使えるけどね。



「それではアクセルさん。まずは作戦のご説明を」


 ポトーさんに促されて、上座に座っている勇者アクセルが、ああ、と頷いて立ち上がる。

 ぷぷっ、なぜか(・・・)髪の毛がちょっと焦げている。

 ざまぁ。あ、睨まれた。


「前回の戦いでクソ大魔王にはやられたが、魔王軍はあらかた壊滅させた。残った難敵は三つだけ。黄金三頭龍、魔界公爵、大魔王。三匹ぶっ殺せば俺達の勝ちだ」


「ちょっと待った。 なにそれ、聞いてないんですけど」


 なんか勇者の口から、さらっとメチャクチャやばそうな名前が二つも追加されたんでですけど。

 黄金三頭龍と魔界公爵って何? 標的って、大魔王だけじゃないの?


「言ってねーからな」


「言えよ!!」


「今から説明してやる。まず黄金三頭龍は大魔王と一緒に封印されていたクソ強い龍だ。 名前の通り、頭が三つある魔界龍種の最上位な。だいたい災害級魔物の百倍くらいの強さだと思え」


「はい?」

 

 災害級魔物って、一つの国の軍隊が全滅覚悟で戦ってギリギリ勝てるかどうかっていうレベルなんですけど。その百倍?


「魔界公爵の方は、前回仕留め損ねた魔王軍最高幹部の最後の生き残り、魔界公爵デフレア。これもだいたい黄金龍と同レベルで、単騎で国を滅ぼせる実力の魔法使いだな」


「はぁ?」 


 なにそれ。

 ほとんど大魔王×3になるんだけど。

 茫然自失で、お口あんぐりな私を無視して、勇者は話を進める。

 

「じゃあ作戦の説明をするぞ。黄金三頭龍をガイガン。デフレアをカーテローゼがそれぞれタイマンで仕留める」


「いや、そんなの作戦じゃないし! 無理でしょ!」


勇者が無茶苦茶言ってるから、即座に我に帰って突っ込む私。だけど、


「がはは、アレを独り占めか。悪くないな!」


「心遣い感謝致しますわ」


 指名された二人は思いっきり乗り気だ。

 なんなの、このパーティー。

 もうやだ。お家帰る。


「それから、大魔王の城の中にうじゃうじゃいる魔物は全部、蒼龍に任す。いいか?」


「………………(こくり)」


「あとは俺と暗殺娘が大魔王の所に突入してぶっ殺す。簡単だろ?」


「………………」


 勇者が私の顔を見て意地悪そうに、にやり、と笑う。


「いや、私と勇者だけで大魔王と戦うとか無理でしょ! 戦力の分散とか悪手じゃん」


「敵の本拠地の最奥部まで、全員無傷でたどり着いて、さらに大魔王(ラスボス)が一人で相手してくれるなんて、お伽噺なんだよ、ばーか。敵の戦力をこっちの駒で抑えつつ、孤立させた大魔王のもとへ送り込めるギリギリの戦力が、オレとお前の二人だけだ」


「いや前回、パーティー全員で戦っても負けたんだよね?

二人だけとか絶対無理じゃん!」


「安心しろ、今度はちゃんと策を仕込み中だ」


「策って?」


勇者の秘密(トップシークレット)だ」


「言えよ(泣)!!」


 そこでガイガンさんが酒瓶を取り出して、勇者と酒盛りを始めたので、私の精神にダメージを与えるだけの作戦会議は終了した。


 それからの数日間は、最高級宿屋『流星とペガサス亭』の誇る、豪華な食事と広いお風呂で旅の疲れを癒やしながら、作戦決行の日を待った。


 昼間はポトーさんのお店でアイテムを物色したり、カリンさんとエステに行ったり。

 身体が鈍らないように、蒼龍さんにお願いして組み手をやったり。


 勇者と報酬の交渉もして、前金を思いっきり値切られたりもしたけど、一応、契約は正式に成立した。

 作戦会議も、あの後何回かやったけど、破天荒な計画しか出てこないので、三回目からは出なかった。

 どうせ半分以上、酒盛りなので問題ない。


 そんな感じで、一週間が過ぎた頃、勇者アクセルから三日後に大魔王の城へ突入する旨を伝えられた。

 策の仕込み(・・・・・)とやらが、完了したらしい。

 この段階になって、ようやく勇者の()の内容を教えてもらったけど、想像以上に無茶苦茶な内容だった。

 私は、前代未聞で空前絶後で絶体絶命な策を頼りに、大魔王と戦わされるらしい。


 もういい。開き直ろう。

 大丈夫。こっちの準備はばっちり出来てるから。

 作戦は滅茶苦茶だけど、私はSランクの天才美少女暗殺者だから、なんとかなる…………はず!

 やってやるんだからね!




 そして、世界の命運を賭けた決戦の幕が上がる。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ