模擬戦
バレてから大騒ぎになった講堂。
辺り一帯はざわめき、俺がいることが明るみになっってしまった。
本来こういう過去から本物の英雄が来たら〜的な話ってのは最初は信用がなく、後で本物だというのがわかる的なテンプレがあるから最初は本物ではないって話がよくある。
何より俺の時代でもそういう小説があったし、今もあるみたいだし。
ただ、俺の場合はそもそも今の時代辺りに来ると既に予測されていた。
更に言えば、俺が来たという情報は噂になってはいた。
もちろん、多くではないが。
しかし、この話をまさかのかつての弟子の子孫の彼女からは言われたら、それはもうこの場にいる人々は疑わないだろう。
なにせ、過去から人が来ているという実例があるのだから。
「…やばっ、逃げよ。」
俺は居場所がバレる前にその場から短距離転移魔術で離れた。
場所は講堂から食堂へ移動した。
「ふぅ…リエルのやつ子孫がいたとはな…しかも、マリエル=レーベルって子は見た感じなかなか優秀だったな。魔力の練り方が俺の時代ほどではないけど、なかなか綺麗だった。リエルと同じ魔力が膨大にあったから火力と手数を重視したタイプかな?」
すると、後ろから明らかに俺に魔力的な威嚇…いや、視線といえばいいのか当ててるやつがいる。
もしかしすると…
「マリエル=レーベルか?」
「はい、そのとおりです。」
早速、こいつも俺の転移先を予測して来てここへと来たのか。
いや、違うな。恐らく…講堂で俺を見つけて魔力のマーカーをつけていやがったな?
しかも、隠れていたこの俺を見つけて。
かなり優秀だな。
後ろを振り向くとそこにはリエルによく似たマリエル=レーベルがいる。
「流石はリエルの子孫だな、なかなか優秀みたいだな。」
「いえ、貴方ほどではありません。それに私には始祖マリエル=レーベルから今に伝わっていることが他にもあります。」
「それは?」
「貴方は子孫の私達が見つけたらすぐに逃げると予想してたみたいですよ。だから、バレないように魔力のマーカーを付けとけとね。」
「恐ろしいな…マリエルのやつ、子孫になんてことを残しているんだよ。で、俺にどんな用だ?」
「色々と教わりたいですが…まずはお手合わせをお願いします。この時代の魔術は決してアルセイル様を退屈させません。」
マリエルは獰猛な笑みを浮かべてこちらを見ている。
こいつ、俺を獲物くらいにしか捉えてない。
流石にこういう小娘はわからせてやらんとイカンな。
マリエルも初めてあった時は獰猛な笑みを浮かべていたしな。
「いいよ、どこでやるんだ?」
「付いてきてください。」
ついていくとファンタズムフィールドが設置された魔術競技場へと連れてこられる。
「さて、ここでやる感じか?」
「はい、ここがその場所です。」
「ちなみにハンデはなくて大丈夫か?」
「結構です。ハンデ上げたら負けたとか言われたら嫌ですので。」
おぉ、こいつはマジで生き写しか?
魔術に関しては負けん気が強いところも似てるな。
「わかった、じゃあ始めよう。先手は譲るよ。」
「ではもらいますね!」
刹那、彼女が展開したのは全方位から様々な魔術を6種類ほどだ。
しかも、炎、風、水、雷、土、光の種類の魔術である。
俺も無情な魔術を展開していたが、恐らく彼女はいわゆる魔術兵装ウィザードを使用しないで魔術を使っている。
なので、前回みたいに霧散せずに魔術の威力は減衰されるが、直撃するとまずい。
なので、俺はせっかくのなので本気でやるとすぐ終わりそうな気がしたので、遊ぶことにした。
「魔法、魔術、魔力の真髄の一つをお見せしよう。」
「何をみせてくれるんですかぁ!?」
俺は大量の魔力の球体を生成し、それを直接迫りくる魔術に全てに当て、消滅させる。
「なんですか今のは!?」
「今のはリエルにも教えてない魔力玉ガードだ。バリア系でも良いんだが、魔力の玉ってさ何にもまだ魔術へと変換されて無い分、実際に練り込んでおけばそれで防げるし、なんならそれで押し込めば相手のバリアや魔術を貫通してダメージ取れるんだよね。」
「そんなのがあるんですか!?でも、それで勝てるほど甘くはありませんよ!」
今度は意趣返しなのかなんと魔力玉を無数に出現させ、形は全て剣の形になり、こちらへ大量に降り注ぐ。
いやー面白いなー見てすぐに魔力玉の使い方をアレンジしてくるとはね。
「でも、その手は昔からあるんだよね。」
次の瞬間、降り注いでいた魔力の剣は全て空中で静止し、向きを変えて全てマリエルへ高速で放たれていく。
「なんですかこれは!?」
「これはねぇ〜相手の魔力玉のコントロールを奪う魔力の使い方だよ。うまくやると自分が魔力を使う魔術や魔力玉を生成するより安く済むからなかなか便利なんだよなぁ〜通称魔力ジャックとも言われているね。だからこそ、魔力玉は魔力ジャックされないように一つ一つ自分でしっかりとコントロールしなきゃならないんだよねぇ〜」
マリエルは防ぐに必死でバリア系の魔術で防いでいた。
「ぐぅ…これが伝説の賢者様ですか…なかなかお強いですねぇ!!」
「そうかい?でも、こんくらいはお遊びの範疇だよ。で?終わりかい?」
「まだまだですよ!私の最強の魔術を見せてません!」
すると彼女は魔術結界を形成し、俺と彼女だけがその世界へと取り込まれる。
「過去にはなかった現代まで積まれてきた魔術の極致をお見せしましょう。幻想結界「質量こそ正義」。」
魔術結界は形を変え、なんと魔術競技場が中から見えなくなり、なんと風景が何もない白い空間となっている。
「ほぅ…これは?」
「幻想結界といいます。言わば…ここは己が設定したルールの世界。なので、ここでは魔力こそが全ての力を左右します。どれだけ優秀な魔術を展開しようと魔力で物を言わせた魔術が最強なのです。」
「あ~なるほど。要は自分だけの最強エリアを展開したってことね。必殺の魔術式だね。」
「理解が早くて助かります。賢者様はどうやってこれを突破しますか?見たところ、私のほうが魔力は上みたいですが…」
ニヤニヤと勝ちを確信したかのような顔でこちらを見ている。
普通はそうだろう。
これは恐らく…本来は簡単には展開は出来ず、させたらほぼ負けみたいな必殺の魔術式だからである。
そして、俺はどんなものか見たいから放置した。
しかし、この程度は正直突破可能である。
「ゴリ押しなこういうのは割と好きだよ。ただ、このなんとか結界って致命的な弱点があるよね?」
「致命的な弱点…ですか?」
「うん、例えばだけどさ…これって乗っ取られたらどうなるの?」
「ありえません。そもそも、乗っ取れるような簡単な術式ではないので。」
「ふーん…いいんだけどさ…申し訳ないんだけど、俺って魔眼っていう魔法、魔術、魔力のながれとか色々見れる目を持ってるわけね。だからさぁ…こんなの解除余裕なわけよ。こんなふうにね。」
刹那、結界は崩れ去った。
「なぁ!?」
「だって、どこを魔力で流し込んで操作すれば崩壊するのがわかるから、余裕なんだよね。」
彼女はこの時、初めて余裕の顔が崩れ去っていた。