自宅まであと少し
夏のホラー2023投稿用です。
!注意! 軽いイジメ表現や遺体描写が出てきます。
!?
「………………今日は変ですね?」
周囲もだいぶ暗い時間帯。
私は仕事帰りで、住宅街にある自宅まであと少しの所を歩いています。
暗いと言った通りに、あまり明るい道ではありません。
行政が節約したのか、街灯は安っぽくてLEDがいくつかビカビカに光る様なのであり、それが等間隔にポツポツ建っている程度しか明かりがありません。
そんな道でも普段はそれなりに安全で、今まであまり怖い思いをせず歩いてきた場所です。
ですが、今日はなんだか不思議な感じがします。
誰かに見られているような……でも男の人特有の、ネットリと言うか凶暴と言うか暴力的と言うか、そんな視線とも違う。
それは何というか……そう。 中学生の頃に居た、良く話しかけてくれるオカルト好きな友達が、瞳孔を大きく開けながら捲したてる様に好きな事を語っている時に感じていた薄気味悪さのような……。
あ、私。 実は中学1年の頃、軽いイジメに遭ってました。
原因は私の体つきです。
当時はなにも気にしてなかったのですが、男の人達が色めき立つような姿で、その状況が気に入らない女の子達によって軽い嫌がらせを受け続けていました。
具体的には、ひそひそ話をしているフリをして私にわざと聞こえるよう、悪口を延々としていたり。
言葉にはせず、私を見ながらクスクス笑いをし続けられたり。
消しゴムのカスや小さく切り分けた物をコンコン投げ付け続けられたり。
わずかに……でも明確に心の壁を感じるような会話をしてきたり。
そんな、明確で証拠が残るような嫌がらせはされず、ただひたすらに精神を針で刺し続けてくる様なイジメ。
そんな境遇で我慢をしていました。
その時に目敏く……と言って良いのか、近所の幼馴染の男の子が軽いイジメを見てしまって「君を助けるから。 何があっても、絶対に助けるから」とか私に言ってくれました。
でもその男の子は、それから少ししたら朝礼で先生に「転校した」と言われました。
親や改めて先生にどこへ転校したのか確かめようと訊ましたが、なにやら険しい顔で「凄く遠い所だ」「連絡出来ない遠く」と返されて、それ以降なにも言えませんでした。
私自身がソレだけでは納得できず、近所にあったその子の家へ行ってみましたが、その子のご両親はそろって暗い顔をしていて訊ける様子ではありませんでした。
そのまま訊けるタイミングを見付けようと少しの間、放課後の時間で家を監視していましたが、ある日空き家になってしまいました。
……まあ、イジメの解決が無理だと分かったのでしょう。 つまり逃げたのではないかと。
で、そう思ったら限界が来まして。
ヒトに頼ってばかりじゃダメだ。 となりまして。
イジメ脱却のための行動をいくつか考えて、実行してみようと試みました。
第一段階として“世界の拷問全集”とか“死体解説マニュアル”みたいな、私自身も怖く感じる物騒な本を、学校へ持ってきて読むようにしました。
そうしたら男女問わず“何このヤベーやつ”みたいな目で見られるようになって、距離をとられました。
…………更に考えていたのに、これだけで軽いイジメを受けている状況から抜け出られたので、拍子抜けな気分でした。
――――!!?
っと、また変な感じが。
「誰も、いませんよね?」
変な感じの発生源と思われる、街灯で照らせない部分を警戒して注視してみましたが、やはり何も起きません。
――――それでですね?
少し後にその脱却に使った本に興味が有ったのか、外見を気にしないタイプの女の子が私に話しかけて来まして。
……はい、オカルト好きな子です。
同好の士を見つけたと言わんばかりに、嬉しそうに話しかけて来まして。
それを無碍にしては申し訳ないと、それ以降は話友達になりました。
そんな日々を思い出す位には異質な感じが、こう……歩いているとたまにクるんですよ。
なぜか。
今日は。
!!!?
ほらまた。
今回は、町内会の班長さんのお宅の生け垣の向こうから。
ここはもう、徒歩2分くらいで自宅って距離です。
そんな時にコレは、ほんと勘弁して欲しい。
「生け垣に隠れている貴方、隠れているのは分かっていますから、出てきてはどうですか?」
それで、思い切って声を掛けてみました。
もちろん何かあってはコトなので、いつでも通報できる様にスマホを構えながらですが。
ガサガサガサッ!!
すると、私の呼びかけに反応したのか、生け垣から出てくる人影が。
その人影は出てくる勢いが強すぎたのか、ばったりと前のめりに倒れる人間臭さを見せます。
何かいるとは思っていましたが、ヒトでしたか。
起きがってきたら起こすであろう、次の行動を警戒して、人影をにらみながら身構えます。
あれ?
少し待ってみましたが、人影は地面……アスファルトにうつ伏せになって倒れたままで、全然動き出しません。
そして、例の不思議で変で異質な感じのナニカが、人影からは全く感じ取れないのです。
では、あの感じを出している主はどこですか?
なんて暗い道を見回していると……。
ぴとん。
「ヒッ……………………!!?」
首筋にいきなり水滴が当たりました。
こんな時に雨でしょうか?
驚いた後にそう思いつつ、空を見上げようと顔を上げたら、そこには………………。
昔、死体解説マニュアルで読んだ事のある、水を吸いすぎてふくらんだ湿布みたいに水を飲みすぎてブヨブヨになってしまった体と、呼吸困難で見ていられない凄絶な顔になってしまう“水死体”同然のナニカが、私を見ながらそこに浮いていました。
『おそくなった けど やくそく きみ まもる』
しかもその水死体みたいな浮くナニカは、さっき思い出していた近所の幼馴染の男の子と同じ声をしていました。
つまり幼馴染の男の子は、本当に助けようとしていました。
そして返り討ちに遭い、結果として水へ沈められてしまったと。
それをまだ幼い子供に言うわけにはいかないと、転校したと誤魔化したわけですね。
以下、2023/08/22追記
最後にアスファルトへ倒れ込んだヒトは、変質者だと想定しています。
が、そこは物語の都合上説明をしたら不自然だろうと考えて省いた部分だし、省いた以上本当に変質者だったのかの解釈は読者様それぞれにお任せいたします。