K.改めて友達として宜しくね
テスト後の話となります。前回の直接的な続きではなく、また別のお話になっています。
「おはよう、高峰君。」
テスト期間が終了した翌日、私は早めに家を出る。高峰君との接触を最小限にしたくて、テスト期間中は態と登校時間を遅らせたけど、今回のテストで自信をつけたお陰で、高峰君と正々堂々向かい合う、と決心した。
学校に着くと、自らの教室にそっと近づき、廊下から教室の窓を覗く。高峰君は読書しており、私に気付いていない。彼と向かい合う第一歩として、自ら声を掛けると決めていたものの、いざ声を掛けるという場面で、声が震えそうになる。それでも何とかさり気なく、声を掛けられたと思う。
パッと顔を上げ私を見た彼は、私が先に挨拶したことに動揺したのか、ポカンとしたまま固まっている。彼の間の抜けた顔を見た瞬間、私は思わず吹き出してしまうぐらいに、気が抜けた。
「……おはよう、紗明良さん。紗明良さんから僕に、挨拶してくれるようになるなんて…。今朝も待ち伏せしていて、良かったよ…」
高峰君は我に返った途端、ぱあっと花開くような明るい笑顔を見せ、感動したように目をウルウルさせると、私にも聞こえるような声音で、独り言を呟いた。私から挨拶したことが、どれほど嬉しいかという風に。
…んん?……待ち伏せ?…もしかして、私を待っていた…とか?…高峰君と約束した覚えは、特になかったと思うけど…?
これには私も、困惑した。あれからずっと毎日欠かさず、高峰君は私に何かと声を掛けてくれた。「おはよう」の朝の挨拶から始まり、「バイバイ」の帰りの挨拶まで、何かと気遣ってくれる。だけど…その頃はまだ、例の件で頭が一杯だったし、無意識に返事するだけだったように、思う。
頭で理解できても、簡単に割り切れない。結果的には私が、尾上さんを追いやったのでは…と、そんな思いが捨て切れず。自分は偽善者だと後悔し、自らを責め続けたこともあったし……
朱里さんが私を信じてくれていなければ、未だ割り切れなかっただろう。そして今回のテスト結果が、今まで以上に良い点数でなければ、若しくは順位が下がっていたとしたら、未来永劫自信を持てずにいたかもね。それなのに…高峰君はずっと、私を見守り続けてくれていた…?
「…私が何か行動をしていれば、尾上さん達の未来も変わった…なんて、思っていた時期もあったわ。尾上さん達は自ら進んで選んだ道で、私がどう行動しようと変わらない、と朱里さんに言われて…。自分を責めてばかりでは、相手の気持ちを汲み取ることはできないと、漸く気付いたから…」
「紗明良さんは自信がなさすぎだと、常々僕も思っていたんだけど、自分が悪いと後悔することで、相手の悪意を受け入れたんだろう。優しくて思いやりのある君は、他人を悪く侮れないという、不器用な一面があるからこそ…」
「………」
私は意を決し、自分の本音を伝えるべく告げれば、私を美化し過ぎているというほどに、高峰君が言葉を吐き出した。彼の言葉があまりにこそばゆく、私は本気で逃げ出したくなる。
「…それで君は、自信が持てたのかな?」
「……ええ。少しは…」
「それなら…良かった。」
私は何とか耐えつつ、言葉を紡ぐ。自信を持つことの本当の意味を、高峰君は私に教えてくれた。そして、その勇気を与えてくれた。直接私自身の口から伝えたい。切っ掛けを作ってくれた彼に、お礼の言葉を。
「…高峰君。私に話しかけてくれて、ありがとう。私が男子と話せるようになったのも、高峰君のお陰だよ。高峰君がいなければ、永遠に話せなかったかも。私に自信を持たせてくれて、本当に感謝してるわ…」
「僕も、凄く嬉しい。紗明良さんの笑顔が、また見れて…。これで漸く、僕と向き合う気になれた?」
高峰君のさり気ない優しさや、私を励ます時の真剣な顔に、本気で私を気遣う様子が見られ、彼を怖いと思う気持ちは、失くしていた。いつの間にか以前より、男子のことが平気になったみたい。
「…高峰君。改めて、私の友達になってくれますか?」
少し前に高峰君から、友達になりたいと言われた。あの頃はまだ私に何の覚悟もなくて、男子と友達になりたいとは、思っていなかった。それなのに、今は自分から友達になりたいとすら、思っている。だからこそ今度は、私から言うと決めていたのに、いざとなると怖くて……
もし、友達になりたいと言ったことを、今は後悔していたら…。高峰君はそんな人じゃないと思う傍ら、不安な気持ちでいっぱいだ。数秒の沈黙が、倍以上に長く感じられるほどに、息苦しくて。
「…僕と友達に?…夢を見ているようだよ。勿論OKだよ、喜んで!…今日から友達として、宜しくね?」
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「……あ、うん。こちらこそ、宜しくね…」
怖くてまっすぐ見れなくて、俯いていた私のすぐ前まで、高峰君がゆっくり立ち上がり、私に近づく気配を感じながらも、動けずにいた。すぐ目の前で立ち止まった高峰君が、私の頭上から返してきた言葉は……
今日から友達という、浮かれた返事が返された。思わずガバっと勢いよく顔を上げれば、すぐ目の前の彼と目が合う。にこにことご満悦な顔で、キラキラ瞳を輝かせながら、得意げな顔をしている。目が合った途端、へにょりとだらしなく笑った。心の底から嬉しげだと、言わんばかりに。
「……っ!!(…うわぁ~!)……」
これほど緩い表情の高峰君を、初めて見た。彼の頭の上に動物の耳が、見えたような錯覚が起きて、私はちょっとだけ引いた。動物の耳のついた彼を、子犬みたいで可愛いと思いはしたものの。
…こんなに大歓迎してくれるなんて、夢にも思わなかったわね。もっと早く勇気を出せば、良かったかも。
私の悩みや後悔を、返してほしい…。流石に言葉には出さないが、それぐらい馬鹿馬鹿しくなってくる。その一方で、何故これほどに喜ぶのかと、不思議に思う気持ちもありつつも、彼の歓迎ぶりに私もつい微笑んだ。
「……くっ!…破壊力があり過ぎる……」
「………はい?」
気の抜けた私は、女子友に向ける笑顔と同じ顔で、微笑む。ところが、彼は両手で顔を隠すようにして、くるりと私から背を向ける。「一体、どうしたんだろう…」と首を微かに傾けた時、高峰君がポツリ呟いた。小声だったにも拘らず、直ぐ近くだったことが幸いし、ばっちし聞こえた。
彼の呟きに、私は耳を疑う。破壊力って、何?…あり過ぎるって、どういう意味なのかと問いたい。
「…あの、もしかして…私の笑った顔って、変…?」
「……っ!…いや、全然、大丈夫だよ!…君の笑顔は、可愛いから!」
「…お世辞は、要らないけど…」
「…いいや、お世辞じゃない!…僕がただ、耐えられなかっただけで…」
「……?……」
もしかしたら私の笑顔が、破滅的にキツかったのかと、恐る恐る問うた。高峰君は私に背を向けたまま、手や顔をブンブン激しく振って、否定してくる。笑顔が可愛いなんて、流石に褒め過ぎだと苦笑する私に、彼が耐えられなかったという、意味不明な文章が返される。
後ろから覗き込もうとしたら、高峰君に察知されたようで、またクルリそっぽを向かれた。私の笑顔が酷すぎるとも取れるが、如何やらそうではないと言いたいらしい。ふと彼の両耳が、赤いことに気付いた。何となく彼の沽券に係わる気がして、気付かぬふりをする。
その日、私と高峰君が堂々と話す姿を、クラスメイト達はとても驚いたように見ていたものの、数日経つと誰も気にしなくなり、皆いつも通り接してきた。特に何も問われないのをいいことに、私は何も説明せずにいる。
「どうしたの、紗明良さん?」
「…誰も何も言わないし、自分から言うべきかどうか、迷っていて…」
「…ああ、そうだね。周りが敢えて訊かないようだし、自ら言う必要はないと思うよ。そんなに…気になる?」
「…うん。何だか、余計に気になっちゃって…」
「寧ろしつこく訊かれた方が、居心地が悪い…」
他の生徒達の目が気になる私は、私と彼の話題にしない彼らに対し、余計に困惑していた。普通なら「付き合ってる?」と勘違いされたり、「本当に友達?」と怪しまれていても、おかしくない。
『居心地が悪い』と現実的な言葉が出たのは、高峰君は実際にそういう目に遭ったのか、渋い顔をする。だとしたら私は、どうして何も言われないの?…ただ友達になるだけで、勘違いされたりしたくないが、「友達になったの?」さえ訊かれないのも、何だか悲しい……
勿論、彼の言う通りしつこく訊かれるのは、嫌だった。それに、私を揶揄うと思われた好華ちゃんも、何も触れてこない。あれだけ彼を嫌悪していたから、何か言われると思っていた。但し、今は以前ほど嫌っていない様子も、見られて。
逆に全く話題にされないと、どうしていいか分からず、本当に困る。希空ちゃんは何か言いたげにも拘らず、態とスルーする様子が見られた。あれほど私にくっつき虫のカルラも、高峰君と話す時は近づいて来ない。彼女達が彼を嫌う様子もなく、異性として興味もない様子である。
「君の友達は、何か言ってない…?」
「……え?…何も言わないけど…」
「…いや。寧ろ、嫌味ぐらいは言われるかなっと…」
好華ちゃんが自分をよく思っていないと、彼も気にしてたのか。確かに嫌味は言いそうだと、私も違和感を感じていた。しかし、彼女は私だけじゃなく高峰君にも、何も訊かなかったのか。
「好華ちゃんも希空ちゃんもカルラも、不自然なぐらい話題にしないし、いくら何でもおかしいわ。だけど、友達になったと敢えて報告するのも、恥ずかしいし。どうして何も、訊かないの…?」
「…なるほど。彼女達が何も言わないということは、心の中ではきっと祝福してくれているんだろう。紗明良さんがやっと自信を持てたから、黙って見守ってくれているようだね。君の友達は皆、よくできた素晴らしい人達だ。」
確かに…恋人になったわけじゃないんだし、ただの友達になっただけで、報告するのも変だよね…?
テスト後に、高峰君の気持ち(?)に応える気になり、彼と友達になることを決意した、主人公。そして無事、彼と友達になりました。彼女の友人やクラスメイト達も、彼女自身が変わろうとする姿を見て、何も見ていないふりをしているようです。敢えて誰も口出ししていないと、いうところでしょうか。
紗明良にとってはそれはそれで、不安になるようで…。もしかして高峰君はクラスメイトの男子達に、しつこく訊かれたのかな…?
次回は、続きからになるのか、それとも…別の話となるのかは、まだ悩んでいるところです。




