G.女の子は皆、気にすること
日直当番入れ替え事件(?)の解決へと、やっと動き出します。徐々に紗明良の心に変化が見られます。これで恋愛も、少しは進歩あり……?
「紗明良さん、おはよう。先週帰宅した後、大丈夫だったかな…?」
教室に入ろうとしたところで、誰かが声を掛けてくる。聞き覚えのある声に、一瞬私の足が止まった。数秒してから漸く、ギギギとぎこちなく目線を動かせば、その人物とバチっと目が合う。つい顔が強張ったけれど、彼の所為だと言いたい。どうして、無駄にキラキラしい笑顔を、振り撒くの?
家まで送ってもらった所為で、姉に色々と勘繰られてしまった。あまりに恥ずかし過ぎて、ズル休みしたくなっていたら、実際に翌日から週末まで、学校が臨時休校になった。休校の詳細は知らないが、何となく想像も付く。
「明日は臨時休校となりました。止むを得ない理由でもない限り、来週月曜日には当校生徒の皆さんは、必ず登校してください。万が一登校しない生徒には、停学処分ほか厳しく罰する所存ですので、覚悟しておいてください。」
学校から帰宅した日の夜、緊急メールが届いた。厳めしい文面ばかりで、詳細な説明は全くない。その後、最終的には翌日だけでなく、その週は全て休校となった。お陰で余計に、悶々と過ごしたんだけど……
今日は臨時休校から、初の登校である。未だ頭の中が整理できず、散らばった状態のまま、登校直後から出くわした。想定範囲内であるとはいえ、休校明けてすぐ顔を見たいとは、思わない。無意識に現実から逃れたいと思った所為で、私の悪い癖が出たようだ。
「今の時代は戦争とは無縁で、特別不幸でもないけれど、今が平和だからこそ余計に、ちょっとしたことで不満みたいね。だけどそれは、自己欺瞞だと思う。」
臨時休校の間に朱里さんから、20世紀頃は身近な人が様々な形で、戦争体験をしたという話を聞いた。今の私達はネットで、他国の戦争の現状だけでなく、実際に体験した人の話を知ることができる。相手が自分の知らない、無関係の国民の体験談だからこそ、他人事に思えるのかもしれない。
彼女の指摘通り、平和で恵まれた環境に、慣れてしまったのだろうか。今の幸せが永遠に続かないと知っていても、自分達がどれだけ恵まれているか、忘れているのだろう。人間はちょっとした不満に、満足できなくなるらしい。
戦争のある国と比べたら、学校での不満は大した問題にならない。しかし、戦争のない国で平和な毎日を過ごし、学校という狭い場所で見ている、私達子供にとっては大問題だ。大袈裟かもしれないけれど、未成年の私達にできることなど、とても少なく選択肢もほぼないだろう。
「…紗明良さん、聞こえてる?…それとも、まだ体調が悪い?」
「………っ!!………」
現実を避け考え事をしていたら、私の目と鼻の先まで近づいた彼の顔に、私は飛び上がるほど驚く。いつの間にか目の前に来て、私の顔を覗くようにして。ちょっとは慣れてきたのか、悲鳴を上げずに済んだけど……
「……な、な、なっ………」
いくら免疫がついたとしても、この距離間には驚くと思う。返事がなかったとは言えども、覗き込む必要なんてあるっけ?…別に揶揄う気はなさそうで、本気で心配してくれているのか、眉を下げ困惑気味の表情であった。どこか既視感のある彼の顔に、私は戸惑ってしまう。
……もしかして、本気で心配してる?…だけど…この距離は、ちょっと…
思わず飛び退るように、慌てて距離を取ろうとした私に、彼は安堵したように苦笑した。普段の私に戻ったというのに、彼の苦笑した顔にチクりと、胸の痛みが広がっていく気もして。
「…良かった、何ともなくて…。先週君が気を失ったばかりだったし、無理して登校したのかと思ったよ。朱里さんに聞いてもこれまでとは違って、君の心の声は彼女に届かないらしいから…」
如何やら私の回想中に、朱里さんから確認を取ったようだ。先週私が気を失ったのが理由で、また心配をかけてしまったと気付く。部屋まで運ばせるという、迷惑極まりないことをしたというのに、また今日心配を掛けさせたなんて。彼には本当に悪いことをした、と反省する。せめて異性を嫌うような態度は、これから直していこうと思いながら。
「…こ、この前…迷惑をかけて、ごめんなさい!!…家に着く頃には、殆ど覚えてないし…。高峰君が運んでくれたと、朱里さんや家族から話を聞いて…。それで私はその…重かった、でしょ…?」
恥ずかし過ぎて、声がどんどん小さくなる。それでも、何とか言い切った。穴があったら入りたいなんて、こういう時に使うんだね……
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「……あ~。君が気を失った時、お姫様抱っこして部屋に連れてった、その話のこと?…それぐらい別に、大したことない。それに全然重くなかったし、寧ろ羽のように軽かった。だから、気にしなくていいよ。」
私自身にとっては、嘘のような話だ。迷惑をかけただけならば、謝まればいいだけだろうが、お姫様抱っこは…恥ずかしいという気持ちより、体重の方が気になってしまう。だから余計に、彼の顔を見るのが恥ずかしかった。女の子にとって、そちらの方が一大事なんだもの。
私の場合は異性が怖いというより、どちらかと言えば苦手だ。幼い男の子には母性を感じて、可愛いなあと思っている。成人男性には相手によって、平気で話せることもある。だから、五十三君のように距離を取ってくれるのなら、わりと普通に話したりもできるんだよね……
異性との恋愛全てを、私も否定するつもりはない。もしも将来的に、異性に対する苦手意識が直った暁には、普通に恋愛してみたいとは思う。今のところ本当に苦手なのは、同年代の男子だ。私も成人すれば、直る可能性がある。
「…羽のように軽いのは、大袈裟でしょう。本音では重いと言われたくないとしても、相手によっては大袈裟な表現で、逆に傷付くかもしれません。軽々しく言わない方が、いいですよ。」
高峰君は男女問わず誰にでも優しいが、流石にこれは噓っぽい。何歳だろうと女性であれば、自分の体重は常に気にするものだ。あまりに軽々しく気遣うと、相手を更に傷つけることになる。
五十三君なら「ちょっと重かったぞ」と、正直に言うのかな?…それは、ちょっと凹むかも。どちらにしても良いとも悪いとも言えず、ケースバイケースだと言えそうだけど、羽のように軽いと言われるのは、だいぶ恥ずかしい…
「…いや、嘘じゃない!…女性に対するマナーだと思うし、よく例え話で使う良い例だと、されているからね。但し…君は他の女子より、卑下し過ぎだと思うが。過去のことが君に、自己否定をさせているのかな?…僕は今までずっと、気付かずにいたのか…。君はもっと、自信を持っていい。今だけは、僕を信じて?」
高峰君は、本当に優しい。家族や親しい友人にも、彼と同じことを指摘されたことはある。今まで彼を避けていて、申し訳ない気持ちになる。自己評価が異常に低いことは、自分でも分かっているけれど。取り敢えず彼を信じてみようと、私がこくんと頷くと。
「……信じてくれてありがとう…」
逆に、お礼を言われてしまった。お礼を言うのは、私の方なのに。私自身が自信を持てば、一番話が早いことだろうが、それが出来たら苦労しない。それでも彼に恩返しのつもりで、少しずつ克服していこうと決心した。
「…あれ?…そういえば、朱里さんは…?」
「彼女は、隣の空き教室にいる。君がボ~としている間に、移動したよ。」
朱里さんの姿が見えないと思えば、知らないうちに移動していた。最近の彼女は何気に、私の傍から離れることが、以前より増えている。彼女が移動できる範囲は、離れてもそう遠くまでは行けない。それでも、彼女がしょっちゅういなくなって、ちょっぴり悲しいやら寂しいやら。
声が届かなくなって、余計に寂しいのかも。この状況が、当然なのだろう。だけど私はもっと、朱里さんと一緒に過ごしたい。もしかして…心の声が聞こえなくなった時は、彼女も同じ気持ちだったのかな…?
「…ふふっ。朱里さんったら、高峰君の守護霊様みたい…」
「…君が笑顔になれて、良かった。彼女と心の会話ができなくて、元気がなかったみたいだし…」
「………え?」
まるで高峰君の守護霊みたいだと、つい笑ってしまったら、思いもかけない言葉を言われた。高峰君は私の本心に、気付いたの?…擽ったくてムズムズするような、不思議な気分だ。何だか段々落ち着かなくなり、そわそわしてしまう。
私達以外はまだ教室にいないし、それが更に居心地悪く感じる。どこかそわそわした様子の私を見て、笑顔を返してきた。私は現実から目を逸らすも、何故か負けたような気がする。クラスメイト達が登校して来る直前に、やっと解放されたと安堵した私である。……ふう~。
「皆さんに非常に残念な事実を、お伝えしなければなりません。生徒数人が日直当番を勝手に改ざんし、一部の生徒に嫌がらせしようとして、ペアを入れ替えたという事実があった、と報告を受けています。」
授業が始める直前、担任教師から休校理由を聞かされた。日直した後、五十三君から聞かされた話とは、何となく違うような…。自分が好きな異性とペアになりたくて、当番を入れ替えたのでは?…それが、一番の目的じゃなかったっけ?
「やっぱり、そういう意味だったんだ…」
「彼女が…犯人だよね?…他にも、誰かいるの…?」
同じ疑問を持つ人はいないのか、クラスの大半が納得したらしい。小声でボソボソ話す声が、耳に入る。一部の生徒に嫌がらせしたのは、本当のようだ。そういえば私とペアにした男子との件は、嫌がらせに入るのかな?
……高峰君は…全部、気付いてたの?…彼が全部、報告したの?
「今回の一件は虐めに含むと認識し、厳しく罰することになるでしょう。関与した生徒達も、そのつもりでいるように。」
全生徒が登校するはずにも拘らず、1人だけ不登校だという事実を、私は未だ知らない。また自らも、渦中にいると思わずに……
諸事情から暫く更新できませんでしたが、本日久しぶりに更新しました。お待たせして申し訳ありません。
改ざんをした生徒達が、罰を受けることになりそうです。寄付金が多い家は優遇される、ということでしょうか。当然ながら、主人公もその優遇される側ですので、教師達も厳しくせざるを得ないのでしょう。
次回は加害者側に、重点を置きたいと思います。




