第一印象はキモイ男?
第一幕 『それでも助けたい』
第一話 『第一印象はキモイ男』
「いやっ!離してください!」
「・・・・・・」
あることで女性を抱きしめていた人物は、女性を確認すると走り去っていった。
周りが騒がしくなってきたが、当たり前ではある。
車が暴走して、信号待ちしていた女性に突っ込んでいったのだから。
その暴走した車は電柱を薙ぎ倒し止まった。
信号待ちしていた女性は・・・、その様子を見ていた反対側で信号待ちをしていた人、歩いていた人等、その事故を目撃した人達は最悪の事態を想像した。
しかし、聞こえてきた声は信号待ちしていた女性のもののようで、何故か痴漢された女性が抗議するかのような避難するかのような言葉が聞こえてくる。
色々とあり過ぎて混乱するものの、声を上げた女性は間違いなく信号待ちをしていた女性で、その女性を認識していた人たちはとりあえず無事なことに安堵していた。
「大丈夫?」
「怪我はないのか?」
「あの状況でよく助かったな」
女性に駆け寄る人、事故を起こした運転手を救助しようとする人、警察等に電話をしている人、写真を撮っている人様々だが、事故の衝撃音で近所の住民が出てきたりで騒がしくなってきた。
「あの気持ち悪い男は?」
「男?」
「気持ち悪い?」
危うく命を落としかけた女性は、混乱しているようだ。
「いきなり抱きつかれたんです。
あ〜キモイ・・・・・・えっ、何があったの?」
女性は暴走した車の惨状を見て驚いている。
「暴走した車が、信号待ちしていたキミに突っ込んでいったんだよ」
「そうそう。キミが避けられるようなスピードじゃなかったのに、よく無事でいられたよね」
「?」
女性はやはり状況を把握できていないようだ。
事故を目撃していた人たちから一部を除いた一部始終を説明された女性は、命の危機にあったのだとやっと理解したようで、大破した車を見て自身の体を抱きしめて震え出した。
程なくして警察や救急車がきて、さらに野次馬が増えたりはしたが女性は少しづつ気持ちを落ち着かせ、信号待ちしていたときのことを思い出していた。
信号待ちしていた女性はスマホをいじりながらもイヤホンをして音楽を聴いていた。
そのため周辺の音は聞こえず視線もスマホにいっていたため、暴走して女性に突っ込んくる気配、女性の危機に声を上げる人たちに気づくことが出来なかった。
事故の話を聞いて、信号待ちしていたであろう立っていた場所にはタイヤ痕が残っていたのを見てさらに身震いをした。
本気で危なかったんだと理解してくると、先程の『気持ち悪い男』がいきなり抱きついて地面を転げた事も、どうしてそうなったのか?男は何をしたのかを理解していく。
私はその男に失礼な事を言ってしまったんだと思うと気持ちが沈んでいった。
私が抱きしめられたことに対して、迷惑な怖い怯え怒りの表情や視線をして送っていたのは明らかで、前髪が長くてチラッとしか見れなかった男の悲しそうな瞳が、今になって頭に焼き付いて離れない。
明らかに男は私を助けてくれたんだと・・・なんて失礼なことをしたんだと、自責の念が押し寄せてくる。
その男は女性の無事を確認すると颯爽と去っていてしまい、どこの誰かさえも分からない。
事故を目撃していた人も、暴走した車に意識が向いていたため、助けてくれた男を認識している人はいなかった。
☆☆☆☆☆☆☆
「はぁはぁはぁ」
き、きつい。
ほんとこの体は・・・。
年齢的なものもあるかもしれないけど、ことある事に俺の体はあらゆる負荷がかけられる。
自分が望んでの行動だけに文句も言えないが・・・。
今回は・・・体重が増えそうだな。
まぁ人一人の命が救えたなら・・・。
「はいどうぞ。
・・・・・・・・・お願いだからこんなことはもう止めて!」
俺はある喫茶店に逃げ込んだ。
この喫茶店の雰囲気が子供の頃から好きで、よく来ていた。外観は『甲子園?』と思われるように蔦が壁一面にビッシリと付いていて、子供の時は空想上のアニメキャラが出てくるんじゃないかとワクワクしていたものだ。
この店の現オーナーは、俺の過去を知る数少ない女性。
常連なだけあって、俺が先ず頼む飲み物を聞かずとも出してくれるのはありがたい。
俺の過去を知るだけに、今の俺の状態を見て『またやったな』とでも思ったのだろう。そんな視線を感じる。
彼女は大橋春香さん、明るく染めた艶やかな髪は肩まであって触ったら気持ちよさそうだ。
普段はほんわかな雰囲気があり、少しタレ目なのもあってか優しい人なんだと話さなくてもわかるような容姿で、美人というよりも可愛いの言葉が似合う人。
そんな大橋さん目的で訪れる客は少なくない・・・いや、相当数いるようだ。
まぁ他にも看板娘的な人もいるんだけど・・・。
「まぁ〜た来てるよ。
ブサキモおっさんが来ていいようなお店じゃないんだよなぁ」
「ほんとそれ。
おっさんが来ると人が寄り付かなくなるから営業妨害なんだよ」
「春香さん目的なんだろうけど、色々ありえないんだから近寄って欲しくないんだけど・・・」
この通り、大橋さん以外の店員さんにはかなり嫌われている。
なのに何故、この喫茶店に来てるかと疑問に思うかもしれない。
俺にも色々あるんだよ!としか言えない。
不覚にも知られたくないことを大橋さんに知られ、それ以来、あることをすると苦しんでいた俺の身を案じてくれる数少ない女性。
そろそろ潮時で限界かもしれない。
確かに俺がお店に入ると、さぁ〜っと客が引いていくんだよね。
大橋さんは『気にするな』『約束したんだから来ないとダメ』とか言ってきてはくれるけど・・・。
約束は確かにした。したけど、約束した時の大橋さんは強引だったし、無理やり約束させられた感は否めない。断ろうとすると怖かったし・・・。
俺の秘密・・・・・・。
まぁ秘密をバラされても信じる人はほぼいないだろうし、逆に、そんな事を周囲に話そうものなら大橋さんが変な人扱いされてしまうんだけど、それさえも良しとしているような気がしてならない。
大橋さんには強く口止めをしている。
俺のためにも大橋さんのためにもだ。
俺のい・・・。
「やめてください!
仮にもお客様です。
何度も言ってますけど、ユ、氷見くんは私にとっては大切な人なの・・・」
『・・・・・・』
大橋さんは滅多なことで大声を出したり怒ったりしない人。
いつもポヤポヤしていて口調も礼儀正しくはあるものの、のんびり喋るから、今の大橋さんを見れるのはレアではある。
レアである分、それを向けられた人は驚き何事かとなるだろう。
「・・・・・・ごめんなさい」
俺が悪いんだ。
ストローは刺したものの、店内の雰囲気を悪くしたくはないから、テーブルに飲み物代を置いて出ることにした。
「あっ、ゆ、氷見くん!」
後方から大橋さんの悲しくも申し訳ないような声が聞こえてくるが、聞こえないふりをして店を出た。
足早に帰宅することにした。
追いかけられても困るし、実際、過去に何度か大橋さんには追いかけられたしね。
もちろん代金を払わなかったからとかの理由で追いかけられたわけじゃないから。
視線をあらゆる方向から感じる。
この視線は怖い。
『キモイ』『うわぁ』『俺とあのキモイの、どっちが太ってる?』『近寄んな』等々、そう思われてるんだろうなと被害妄想たくましく考えてしまう。
さっきの喫茶店の店員さんたちから言われたような言葉が耳に残るし、あんな人を傷つける言葉を浴びせかけられるのは昔からだ。
それだけの期間、汚い言葉を言われ続けられ耐性がつくかと言われてもつくはずもなく、俺だって傷つく。
普通の人なら自ら命を絶っても不思議ではないのかもしれない。
それしない出来ない理由はある。
確かに死んだ方が楽なのは事実なんだけど・・・。
「ただいま」
誰もいない家に入りいつもみたく帰ってきた挨拶をする。もちろん無人なために『おかえり』と返って来ることはない。
それでも昔からの癖で言ってしまう。
「臭いからお風呂入るかな」
独り言は無人な空間に吸い込まれる。
俺は自身の体臭が嫌いだ。
臭い体臭を発している本人が、自身の臭いに嫌悪感があるんだから、他人には不快の何物でもないだろう。
こんな姿になる前は体臭は普通だったはずで、当時人との交流していたときは汗をかいてもいい匂いだったみたいで、男女問わず『どうして?』『何かしてるの?』と質問されたこともあるくらいだった。
「はぁ〜」
溜息なんて毎日の事。
もはや癖になっているようだ。
「早く限界がこないかな・・・」
俺のしていることで体に限界が来れば、肉体的にも精神的にも苦しむことも無くなるんだ。
だから俺は続ける。
俺の罪は未だにはらうことは無いのだから。