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最終話


12年が経った。 



賄さんとの最後の日、高野に賄さんに好きだと言わないで別れたことを言ったら物凄く怒られたのも今は昔だ。 



今は上京し、そこで就職して生活を送っている。



賄さんとはよく連絡は取り合っていたけど日本との時差のせいと段々とお互いに忙しくなる私生活とも相まって連絡が取り辛くなっていき最後に話したのはいつだろうと思い返したのはいつだ? と、そんな風になっていた。 



時の流れで次第にかき消されて賄さんとの思い出も青春の頃のいい思い出、そう振り返させるようになった年頃だ俺も。



昔のことが薄れていく分それから俺は何人かの異性と付き合った。 告白した時もあったしされたこともある。



これでいいんだ、あの時の俺は幼かった。



「ああ、俺も好きだよ」

「嘘!? 椿君私のことそんなでもなさそうに思ったけど当たって砕けろで告白してみて良かった」



つい少し前ひょんなことから女性に告白されて俺もそんなに深く考えずにOKをする。 歳を取るに連れてドキドキとかそんな若い頃のもどかしい時期特有のことなども俺の中で消えていった。



「ごめん別れよう」

「なんで?」



そして今、告白された女性から別れ話を切り出される。



「なんでって…… 私のことそんなに好きじゃないでしょ? 椿君全然私に興味ないじゃん」

「そんなことないけど。 でも別れたいなら別れた方がいいと思う、無理に付き合ってもお互い傷付くだけだし」

「傷付いてるのは私の方よ! いい、もう別れる!!」



あ…… またやってしまった。



けど付き合うのはいいがどれとも上手く行かなかった。 



俺の中で何かその人に夢中になれない? なんで? 心に何か引っ掛かりがあるから? まぁどっちにしろ最低だな俺。



賄さんに別れる前に好きと言ったら何か変わってたのかな? そう考えた時期もあったけどあの時の俺じゃどうにも出来なかったしな。 ああ、こんなシチュエーションだから思い出してしまった。 




そして正月の時期になると俺は何年か振りに実家に帰って過ごすことにした。 たまにはこんなゴチャゴチャした都会で新年迎えるより静かな実家で過ごしてもいいかもしれない。



そんな感じで実家で正月はゴロゴロしていた。



「あら椿お出掛け?」

「あータバコ買ってくる」

「タバコは身体に悪いんだしお金の無駄!」



うるさいなぁと思って家を出てコンビニに向かった。 



帰れば帰ったで親の小言が煩わしいんだなぁ、まぁご飯が出てくるだけ楽っちゃ楽だな。



タバコを買った帰り道俺はふと寄り道をした、前に実家に帰った時も寄り道した場所だ。 



賄さんの家だった場所だ。



今は他の家族が住んでいる、賄さんの家族が居なくなってからはそんなに古くないし売り家に出したからな。



寄ってみても意味がないことはわかってるけど賄さんへの気持ち的に俺の中でやり残した感があるせいか何故か足を運んでいる。



いい思い出ってことで踏ん切りついたはずじゃなかったのか? と俺は自分の家の方への向かっていた時向いから歩いてくる人が見えたので俺は何気なく地面を見ながら歩いていて通り過ぎようとしていたその時……



「待って下さい」



少し通り過ぎて後ろから女の人のそんな声が俺を止めた。



どこか聞いたことがある声……



俺は振り返るとそこには目を丸くさせて口元に手をやり驚いているその人を見て俺も驚愕した。



「み…… やした君……… ですか?」

「ま、賄さん!?」



長身で長い髪の毛に前と変わらず…… いや前よりも今は大人の女性としてより綺麗になったカナダに居るはずの賄さんがそこに居た。



俺は信じられなくてポカンとしていると賄さんは俺をマジマジと見ながら目の前に来た。



「どう…… して?」



賄さんが言った。



「わかんない、けどなんとなくここに帰ってくると賄さんの家を見に行ってそれで……



俺は自分が今何を言ってるのかわからないくらい心臓の鼓動が速くなっていた。 どうして急にこんなになるんだろう? 昔のことで最近は全然感じなくなった気持ち。



俺は今凄く緊張しているんだ、ドキドキしてまるで10代の時に戻ったみたいに。



「そうなんだ…… あたしも暇が出来て久しぶりに帰って来て、懐かしくなって前の家と宮下君の家を見てみようって思って。 そしたら宮下君も帰っててこんなところで偶然会うなんて思ってもみなくて凄くビックリしちゃった。 ごめん、仕事とか忙しくて音信不通気味で。 あたしから連絡取り合おうって言ったのにね」



少し気不味そうに笑う賄さんを見て俺は何を血迷ったのか突拍子もない、普通に考えたらいきなり過ぎだし後先考えてないことを口に出していた。



「俺は賄さんが好きだ」

「え?」



いきなり過ぎて賄さんは一瞬固まった、だけど俺は止まらなかった。 賄さんに12年以上間を空けてようやく自分の気持ちを伝えていた。 



俺は全然踏ん切りなんかついていなかった、心のどこかで小さくなっていったと思っていた賄さんへの想いはずっと俺をあの時伝えられなかった後悔として大きくなっていってたんだ。 寂しくて悲しくて忘れた方がいいって自分に言い聞かせても消せないくせに。



「俺もずっと賄さんが好きだった。 ずっと伝えたかった、けどあの時は賄さんに好きって伝えたら賄さんの決心が鈍るとか自分が賄さんが居なくなるっていう事実を受け入れたくなくて、伝えても余計に寂しくなりそうで臆病な俺は言えなかった。 でも賄さんと会ったらもう自分の気持ちを抑えきれなくなって今……」



もう滅茶苦茶だ俺……



「ぷ…… ぷぷッ」



賄さんは口を手で押さえて笑いを堪えている。 ま、まさか賄さんはとっくに恋人とか居て…… い、いや! 結婚してたりして!? 



順序も滅茶苦茶だ俺…… 普通は告白するにしてもそれとなくそこら辺をハッキリさせてから言うべきだろ!!



「宮下君ほんとにいきなり過ぎ」



賄さんは「ふうッ」と一息ついて言った。



「あたしが誰かと付き合ってたりもし結婚してたらどうするつもりだったの?」

「そ、それは…… ん?? え? それって」

「うん、あたし誰とも付き合ってもないし結婚もしてないよ。 だから、うん」

「うんってことは俺と…… 付き合ってもいいってこと?」

「あたし言おうとしたの」

「言おうとした?」

「宮下君と今会ってもう一度好きって。 だからいきなりなのはあたしも同じだったなって思ってちょっと笑えた。 でも宮下君があたしと同じこと考えてたって思ったら感激しちゃって」



ツーッと賄さんの目頭から雫が落ちた。



「あたしずっと宮下君を忘れたことないよ。 言ったでしょ? 宮下君の家で過ごした2年間はあたしの宝物だって。 ここに寄ったのも宮下君の家を見てみようって思ったのもそれがあったから。 でもいざ帰ってみてもあたし宮下君が今はどう思ってるかもわからないしもしかして誰かと付き合ってたりしたり結婚してるかもしれないし怖くなってこのまま会わないでいた方が傷付かなくて済むかもっても考えてた。 だけど……」



賄さんは俺の手を握って言った。



「あたしも宮下君が好き。 付き合って下さいあたしと」

「喜んで。 というか…… 結婚を前提に付き合って欲しい。 って俺全部急過ぎだよね」

「ううん、こちらこそ喜んで」



賄さんは握ってた手から俺の腰に手を回してギュッと抱きついた。



「あ、ええと…… 賄さん仕事は? それにカナダに」

「あたしはもう自分のことは自分で決めれる、だからワガママし放題。 誰に何を言われたってもう決めた、宮下君とずっと一緒だって」



俺の胸に埋めてた顔を俺に向けてニコッと微笑んだ。



「俺も何も言えないで賄さんを送り出した時とは違うよ、賄さんがそう決めたら俺も誰になんと言われてもずっと一緒に居よう」

「12年も空白があった分それを取り戻すくらい良い思い出をいっぱい作ろう」

「うん、一緒にいろんなところを見て旅行したり宮下君としたいことがいっぱいある」








fin




ここまで読んでいただいてありがとうございます、また次回作を思い出した頃に投稿したら目を通してやって下さい(^^)

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