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次の日の日曜日、賄さんが高野や木ノ下、優と特仲が良かった3人にに昨日のことを伝えた。
すると高野の家に俺達は呼ばれた。
高野の家か、初めてだな。 それよりも俺は昨日賄さんに告白された、だが俺は何も答えてない。
だけど昨日は賄さんは同じ部屋で一緒に寝たいと俺のベッドで2人で寝た。 俺にくっついてしくしくと泣き疲れたのかいつの間にか賄さんは眠っていて俺は逆に一睡も出来なかった。
高野の家に行くならと賄さんは俺と一緒に家から出て今は手を繋いで歩いている。
これはデートに見えてるんだろうか? いや、デートと呼ぶには重苦しい雰囲気で俺達の表情は暗い。
「賄さん」
「いいの、あたし後悔してる」
「後悔?」
「もっと、もっと早く自分の気持ちに素直になってれば良かったって。 こんな土壇場で往生際悪いよね」
自傷気味に笑ってみせる賄さんが痛々しくて俺は目をそらすと賄さんは「困らせてごめん」と言って続ける。
「宮下君はあたしのこと好きじゃないのかな?」
「え!? あ、いや……」
「ふふ、意地悪言っちゃった。 やっぱり宮下君は誰か好きな人居るんだよね? なのにあたしキスなんかしてごめん」
「違う! あッ」
危ない、賄さん以外に好きな人居ないって言うところだった。
俺は取り繕おうとしたけど賄さんは手をギュッと握って立ち止まった。
「何が?」
「え?」
「何が違うの?」
真っ直ぐ俺の目を見て言われる。
「あたしこういうのはよくわからないし鈍いけど…… 宮下君嘘言ってる」
「う…… 嘘?」
「あたしが居なくなるから? あたしは……」
下を向く賄さんだけどさっきよりも手の力が強くなるとポツッと握る手に涙が落ちた。
バレてる、俺が賄さんを好きってことが。 なのに言ってくれない俺に対してこんな風になってしまってる。
「スズ!」
少し離れたところから高野の声が聴こえた。
「あ…… しーちゃん」
「遅いったら!」
高野が走ってこっちに近付いてくると賄さんは手で涙を拭った。
「あそこ、しーちゃんの家」
賄さんが指さす方向を見るともうすぐのとこまで来てたんだな。
「バカスズ! なんでそんないきなりなのよ!?」
高野は賄さんを押し倒す勢いでしがみついたけど賄さんはそんな高野を受け止めて「ごめん」と言った。
「どうにか…… どうにかならないの?」
高野がベソをかいてそう言うと賄さんもまた涙が溢れてきて首を横に振った。
「イヤだ、イヤだよスズッ!」
「あたしもイヤだよ、みんなと離れるなんて考えられないッ」
「そうだよ、せっかくスズはこれからどんどん友達増やしてもっとみんなで遊んで…… そう思ってたのに」
2人のやり取りを見ているだけで賄さんが居なくなるっていう事実が増してきて俺までつられそうになったので視線を地面に落とす。
それから高野の家に行って木ノ下や優とも話した。 そういえば優にはまだ賄さんと一緒に住んでるってことも言っていなかった、賄さんと優も結構仲良くなったのでそのうち打ち明けようと思っていたのにそれを賄さんが行っちゃうタイミングで言ったのでなんとも言えない顔になってはいたがそういう雰囲気でもないのでグッと堪えていた。
数日経ち、ついに別れの日の朝がやってきた、その日の前の前日の夜賄さんが俺の部屋にやって来てしばらく話をしていた。
「宮下君、あたしここで2年過ごせて本当に良かった、宮下君を好きになってなかなか告白出来なかったのはもどかしかったけど好きな人と2年も一緒に凄く身近に生活して…… だからありがとう。 これからどうなるかわからないけどそれがあたしの宝物。 あっちに行ってもここのこと思い出したら頑張れると思う。 本当にありがとう」
そう言って賄さんは部屋へと戻っていった。 俺は結局賄さんに自分の想いを伝えられないでいた。
携帯を見ると朝の5時半、全然眠れなかった。 そう思って携帯を枕の横に置いた時俺の部屋のドアが開く音がしたので目を瞑った。
バレないように薄目を開けて入ってきた人は賄さんだった。 ゆっくりと音を立てないでこっちに近付いて俺の方へ寄ってくると膝をついて俺の顔をジッと見て賄さんは俺に触れそうな髪の毛を手で背中に回したと思ったらキスをされた。
ビックリしたので思わず目を開けると賄さんがそれに気付いた。
「ごめんね起こしちゃった?」
「ええと……」
「しておきたかった、もう一度だけ…… あたしのワガママ。 うん、でもこれで大丈夫」
賄さんは俺の服の端を握って自分に言い聞かせるように言った。
「賄さん、俺…… 俺さ」
「言わなくていい、あたしどっちだったとしても宮下君に何か言われたら鈍っちゃう。 せっかく決心ついたのに。 だから言わないで」
絞るようにそう言う賄さんを見ると俺は何も言えなくなった。
ああ、本当に今日行っちゃうんだ。
そしてそれから賄さんの親がうちに来て俺の親と俺に今までずっと賄さんを預かってもらってありがとうとお礼を言われ賄さんは親の顔を見ると両親に抱きついて泣いてた。
なんだかんだで久しぶりの両親との再会だ、賄さんも嬉しいだろうし遠くへ引っ越すというのもあって複雑なんだろうけど来た時も泣いて別れて今も泣いて、その光景を見てると賄さんが俺の家に初めてやって来た2年前の夏休みを思い出した。
「あっちに行ってもたまに宮下君の声が聴きたい」
「うん、電話しよう」
「テレビ電話でね。 あ、結構お金掛かるかも。 パパ、ママ」
賄さんが親の顔を見て言うと「そんなの遠慮しなくていいよ」と言われると「うん」と言って俺にニコッと笑った。
「じゃあ行くね」
「元気でね、気を付けて……」
最後まで俺は自分の気持ちを伝えないで終わってしまった。




