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賄さんが来て2日目のお昼でもう閉店の音楽が俺の中で流れていた。



「ご馳走様でした」



俺は賄さんにお辞儀した、上手く出来なかったとかは仕方ないし作ってくれて嬉しかったのと美味しかったのは本当だから。



「お粗末様でした」

「今日は俺食器洗うよ」

「いい、洗ったこともないでしょ?」



ギクリ…… まぁうん、やってもらってたし。 でもいいキッカケだしやろう。



「あー、うん。 そうなんだけど賄さん見てたら俺もやりたいなって思って」

「見てたんだ」

「そういう変な意味じゃないよ!? ほ、ほら、俺もそれくらい出来るようになった方がいいかなって」

「…… あたし居なかったら宮下君今頃楽しかったのにね」



?? んん? あ!! もしかして賄さんは俺がうちの親との旅行渋々断ったの見て責任を感じてしまってる? だとしたら迷惑だとか居なかったらとかなんか妙に言ってくるのも納得が行く、あれって俺が賄さんと2人きりになれてラッキーなのバレたら恥ずかしいからポーズなんだけど。



「これはこれで楽しいから」

「え?」



ヤバッ、下心見え見えみたいな発言だったか!? それに楽しいのは俺だけで両親と離れちまった賄さんは楽しくないだろうが!



「ごめん、賄さんは楽しくないってのに」

「うん……」



「うん……」!? そうだよな、やっぱり楽しくないよなぁ。 これはこれで凄くラッキーなことなんだけどこんな状態の賄さんをずっと見てると可哀想というかなんというか……



「あ、そういうことじゃなくてごめん、こうだからだよね、わかってるんだけど」

「どういうこと?」

「楽しいって思うんだって思ったの。こんな感じだしあたしって…… 前からずっと他人と関わるの苦手で友達も少ないし話し掛けられてもなんて返せばいいかわかんないし」



急な独白?? というか賄さんがこんなに喋るなんて珍しいなと思ってる。



「そのままでいいんじゃない?」



俺がそう言うと洗い物をしながらの賄さんの手が止まり俺の顔を覗き込むようにキョトンと首を傾げた。



「無理に変わろうとかしたって性に合わなきゃストレスになるだけだし友達は少ないって言ったって賄さんには友達は居るでしょ?」

「うん」

「だったら賄さんをちゃんとわかっててそれでいて友達なんだから認められてるってことだし賄さんと居ると楽しいんだろうし…… って、え??」



気付けば俺は両肩をガシッと掴まれて賄さんに見つめられていた。 



な、何これ?? 美人な賄さんの顔が真正面にあって見つめられると結構恥ずかしい。



「しーちゃんと同じこと言った宮下君」

「は、はい?」



しーちゃんって高野たかの しずくで今言ってた賄さんの友達だよな。 



「宮下君もしーちゃんと同じこと言ったの。 なんか凄い……」



と言っていて俺の肩に視線が流れていく。 



あ、洗ってる時に掴まれてたから泡が付いた手で触られていたんだ、そんなことどうでもよくなるくらい賄さんの顔が近かったので全然気にならなかった。



「ご、ごめん!」

「うわッ」



突き飛ばすように手を退けられたので俺は後ろによろめいた。



「危ないッ!!」



賄さんが手を伸ばして俺の服の前側を掴んで一気に引き寄せたから賄さんの身体に俺は頭から突っ込んだ。



柔らかい感触の次に良い匂い……



「大丈夫宮下君!?」

「だ、大丈夫……」



ここで余韻に浸っていちゃいけないと思い賄さんの身体から離れて身を起こして後ろを見た。



そうか、俺の後ろに戸棚あって後頭部ぶつけそうになっちゃったのか、所謂これはラッキースケベなのでは? って賄さんは純粋に俺を助けてくれたんだからなんとも思ってなかっただろと賄さんを見ると……



「あわわ、あああ……」



俺から大分遠ざかって動揺している、どうやら時間差できたらしい。



「ま、賄さん、とりあえず俺があとは洗っておくから」



賄さんは素直にコクコクと頷いてリビングに戻っていった。



あれは胸だった、賄さんの胸に顔から突っ込んでしまった。 しかも大きかった…… 身体も柔らかかった。 うッ!! 



違うところに力が入りそうになったので俺は親の顔を思い浮かべて平静を保った。 



よくよく考えてみなくてもわかることだけどこの生活ヤバいぞ。



洗い物が終わって先程のことを思い出すとちょっとドキドキして賄さんのところへ行くと床に座ってソファに頭を置いて賄さんは寝ていた。 やっぱり眠かったんだろう、俺がさっき寝てる時も賄さんは寝てないみたいだったし。



それから膝掛けがいいのか毛布がいいのかで迷ったが夏なので毛布とかありえないだろと考え直して賄さんに膝掛けをそっと置いて俺は自分の部屋に戻った。



はぁ、疲れたけど賄さんも寝不足みたいだったからちょうどよかったのかな?



しばらく映画を観て時間を潰していると俺の部屋のドアをノックする音が聴こえた。



「あたし……」

「開けていいよ」



2時間くらい経ったろうか? ドアを開けた手には俺がさっき掛けた膝掛けが持たれていた。



「これありがとう、宮下君の?」

「ううん、下に置いてあったやつのだから適当なところに置いてていいし賄さんが貰っちゃってもいいし」



ダサい柄だったから欲しくないだろうけど……



「それはいいや」

「ああ、そう……」

「あのね…… さっき言ってくれたこと」

「さっき?」

「うん。 ありがとう」



そう言って賄さんはドアを閉めた。



「ありがとう」の感じちょっと違った、昼前まではただ反射的に言ってたようだったのに。 もしかしてもっと賄さんと仲良くなれるのでは?




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