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「でね、ここはこれで吹っ飛ばして…… そうそう」
「あ、やられちゃった」
「あー惜しい」
「次はもっと上手く出来るもん」
あれから賄さんは結構ゲームに夢中になっていた。 あまりはしゃがないのにキャッキャと珍しく喜んでいた。
「げッ……」
「どうしたの?」
「もうお昼だよ、あたし夢中ですっかり……」
「あッ、ホントだ」
時計を見ると11時45分、賄さんは慌てて下に降りて行った。 ゲームやらせてたの俺だし母さんのことだから怒らないと思うけど俺も一応一呼吸置いて下に降りた。
「あはははッ、しっかり椿の遊び相手になってあげてたのねぇ鈴音ちゃん」
「は、はぁ…… ?」
「別にお昼ご飯なんて適当でいいんだから出来るまで遊んであげててもよかったのに」
なんと俺の遊び相手をしてもらってることになっていた賄さん。 いやまぁ責められてなくて良かったけど。
「そういえば椿達に買い物頼みたいんだけど行って来てくれる?」
「「え?」」
母さんが唐突なことを言い出す。
「母さん行ってもいいんだけどねぇ、ちょっとこれからママ友来ちゃうのよ。 椿は役に立ちそうにないしそういうのは鈴音ちゃんに頼めばバッチリなんだけど荷物持ちくらいなら椿でも使えるでしょ?」
人を役立たずみたいにこのババア…… ってそれより2人で買い物ってちょっと。 賄さんも少し困惑したような顔してるし。
「やっぱりダメ?」
「い…… え、行き、ます……」
「あらー、良かったわぁ」
「マジで?」
賄さんめっちゃ渋々そうだったぞ?
「じゃあお小遣いあげるから2人とも好きな物何か買ってきていいから」
母さんに賄さんにお金を渡された賄さんは一旦部屋へと戻って行った。
あーあ、母さん余計なこと頼みやがって。 俺と賄さんが一緒のとこなんて見られたらどうすんだよ? どっか2人で行く時も敢えて地元避けてたりしてたからなぁ。 でもたかだかこんな買い物で遠くに行くなんてのもな。
なんとなく賄さんが気になったので賄さんの部屋のドアをノックした。
「賄さん? いる?」
「うん」
「買い物だけど……」
言おうとしていたらドアが開いて賄さんの部屋に入れられた、前もこんなパターンだった。
前に見た賄さんの部屋の中はスッキリしていていつでもここから引っ越し出来ますよーな感じだったけど今はよくわかんない小物とかそこらに置いててちゃんとここに居るんだなって思えるような部屋に…… ってそんなのは今どうでもいい。
ん? 賄さん着替えたのか、パーカーにスキニーパンツ。 地味…… 地味なんだけど賄さんって素がいいから大抵何着ても目立つなぁ、良い意味でなんだけど賄さんにとってはイヤなんだろうな。
「買い物行くよ」
「へ? あ、ああ、そのことだけど俺だけでもいいかなって」
「ううん、おばさん一緒にって思ってるしお金も貰っちゃったし」
「じゃあここから二駅くらい行った辺りのスーパーにする?」
「えっと…… そう気遣ってもらえて嬉しいけど近所のでいいよ、出来るだけ目立たないようにするし」
賄さんは髪を後ろに纏めて結んで帽子を被って更に眼鏡を掛けた。
「賄さん目悪かったっけ?」
「度は入ってないからこれ」
ああ、伊達眼鏡…… なんでそんなん持ってんだ? と思ったけどまぁいいや、恐らくこういう時の為だろう。
「これなら目立たないかな? あたしだってわかる?」
「ううーん」
「え? わかっちゃう?」
こちらにグイッと賄さんは顔を近付けた。
賄さんは賄さんだし変装したつもりだけど俺には丸分かりなんだが。
帽子被って眼鏡掛けてるってたって賄さん美人だしクラスの連中とかだったとしてもすぐに賄さんだってわかっちゃうと思うけどわかるって言うと外に出たくなくなっちゃうだろうし。
「わからない…… とは思う、俺にはわかるけど」
「わからないけど宮下君にはわかるってそれって他にあたし知ってる人から見たらどっちなの?」
賄さんは?と少し考え込んでいたが仕方ないのでこれで出掛けることにした。
「じゃあ行ってきます」
「気を付けてね、荷物持ちちゃんとよろしくね椿。 あれ、それより鈴音ちゃん目悪かったっけ?」
「あ、ええとはい……」
「いいから。 もう行くからな」
まぁ眼鏡掛けだしたらそうなるわな。 でもそんな些細なことはどうでもいいとして、賄さんと近所を一緒に歩くことになってしまうなんて知り合いに見られたらなんて言えばいいんだ?
「賄さん、ここはとりあえず離れて…… って遠ッ!!」
俺が言う前に賄さんは俺から遥か後ろに離れていた、別にそれでいいんだけどなんか少し複雑だ。
すると携帯が鳴った、どうやら誰かからメッセージが届いたようだ。
『ごめんね』と賄さんからだった。 『気にしないで』と返し賄さんの方を見るとコクコクと頷いていた。
程なくしてスーパーに着くと賄さんは母さんに頼まれた物をカゴに入れていった、俺はまぁ離れて見てるだけだけど。 会計が終わったら取りに行くだけでいい。
どうせまだ掛かるし俺もお菓子でも買っていこうかなと思ってお菓子のコーナーに行った。
そういえば賄さんコアラのマーチとか好きだったよな、案外きのことかたけのこ系も好きかもしれないと思って手に取ろうとしたら……
「ありゃ、宮下?」
「高野? な、なんでお前ここに?? つーか最近出くわしすぎじゃね?」
「なんつー失礼な! こっちこそ何が悲しくて宮下と出くわさなきゃいけないのよ? 私はママと買い物中なの。 あんたはひとり?」
「ひとりに決まってんだろ」
賄さんと一緒なんて知れたら面倒そうだもんな特に高野は。
「ふーん、コアラのマーチとかってお子ちゃま! えー、宮下ってまだこういうの好きなんだ?」
「お前だってお子ちゃまだろ」
それ以前に賄さんもそういうのが好きだってお前知ってるだろ多分。
「まぁスズも好きだしねぇ、こういうの」
「ふぅーん、あッ」
気がそれていたので手に取ろうとしていた商品を足元に落としてしまった。
「まったく。 何してんの?」
高野はそれを何気なく取って俺に渡した時一瞬目を丸くさせた。 まさか賄さんが後ろに!? と思って横を向くがいない、それか一瞬で通り過ぎたのか……
「なんだよ?」
「あ、別に。 じゃあね」
「は?」
なんか腑に落ちないが高野はどこかへ行ってしまった。 となるのはマズいのでバレないように尾行する、そうしないとまた店の中で会っちゃったりするからな。 しかもそんな時に限って賄さんと一緒だったり。
てか賄さんと高野が会っても…… いやそれは別に不自然ではないか、そんな時もある。 うん、それで済むだろ。
だが高野はその後賄さんに会うこともなく親と一緒にスーパーから出て行った。
そして賄さんも会計が済んだようで荷物を取りに行く。
「あ、宮下君。 なんかごめん、ほんとに荷物持ちみたいにしちゃって」
「ううん、まぁ後はまた離れてるからさ」
そう言うと賄さんが俺のレジ袋に注目した。
「宮下君それって」
「ああ、賄さんこれ好きだって言ってたから」
「…… そっか。 嬉しい」
賄さんはニッコリと笑うと……
「あたしも買ったんだよそれ」
「え?」
本当だ、被ってるし。
「宮下君も好きでしょ?」
「え? なんで??」
「なんとなく。 前にくれた時そんな顔してたからさ」
「あ…… 好きだけどそんな顔してた?」
「うん。 一緒だね」
会計後の買った物詰めてる時しかほぼ一緒にいないけどなんだかそう言われると謎の満足感で満たされていた。




