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12 国王と有象無象の愚者

 偶然は必然に変わった。

 召喚術は不確定要素の多い魔術だ。現れる者がどういった奴なのかが予測できない。英雄か、それとも極悪人か、はたまた人ですらない怪物である可能性まであった。そのため、禁忌の術として忌避されてきた。


 だから、その術式が己の代で解明されたことは神からの祝福としか思えなかった。


「始めろ」


 号令に合わせ、円形に並んだ術者たちの詠唱が紡がれる。膨大な魔力が必要であるから、召喚は最低でも十人の術者で行われた。


「――【愚者に勇を。能を。力を。顕現せよ】――」


 短い詠唱。謁見の広間にまばゆい光が満ちる。何度やってもこの光量に目が慣れることはない。


 ようやくそれが収まった頃、広間には十名弱の人数が加算される。勇者である。


「――な、何だ? 何が起きたんだ?!」

「うわっ、ここどこだよ!」


 思い思いの悲鳴、混乱。それが徐々に収まる。()()()()()()()()()を選定し、召喚している。


「――よくぞ召喚に応じてくれた、勇者様」


 うっすらと笑みを浮かべたままそう言う。それに対する反応は画一的なものだ。


「ゆ、勇者。私が?」

「おい――これって、異世界転移じゃないか?!」

「マジかあ! やっと、俺にもツキが回ってきたぜっ!」

「異世界きた――――ッ!」


 それを見て、更にほくそ笑む。


「……この世界は未曽有みぞうの危機に陥っている……魔王軍による侵略、略奪。それを止められるのはあなた方、勇者だけなのだ」

「魔王……よし、俺がやってやる!」

「クク、ようやく俺の無双のターンか……」


 目を輝かせながら演説に耳を傾ける。

 召喚術の術式は解明された。だから、召喚する対象もある程度絞れるようになった。

 このように――善人で、人間に味方をし、魔族を躊躇ちゅうちょなく討つ、愚か者。そういった奴だけを呼び寄せられる。


「あなた方には一人ずつに恩寵ギフトがある。その力で、魔族を滅ぼすのだ」


「――マジだ……手から、炎が! チート能力じゃねえか!」

「嘘っ。未来が見える!」


 こいつらは一様に理解が早くて助かる。すぐに自身の異能に気づき、使いこなす。そういった特性がある。

 扱いやすいこまである。


 魔族領はまさに宝の山だ。豊かな自然、未知の資源。全て欲しい。

 それらをオーレリア王国が承服できたなら、大陸一の国家になることは間違いない。ただでさえ召喚の技術で先んじて勇者を従えているから、そうなるのも時間の問題であった。


 だが、いくつかの課題がある。

 まず一つに、現魔王はこれだけの勇者を集めても討伐できるか分からないほど強いことだ。だから、もっと勇者を召喚して戦力を補強する必要がある。

 そうなるともう一つだけ問題が発生する。


「目下の目標として、勇者様たちにはある者を討伐してもらいたい」


 勇者たちの目が輝く。彼らは闘争に飢えている。


「――元勇者……魔族に与する裏切り者、ユウリ。その女を殺せ」


 召喚術は未だ完璧ではない。あのユウリとかいう女のように、異分子が紛れ込むこともある。今はあいつだけだが、召喚の頻度が高くなればそういった奴も増えるだろう。

 だから、見つける度に芽を摘む必要があった。


 魔族を殺せないどころか魔族を助ける邪魔者。だが腐っても勇者。戦闘能力は高い。表立っての処刑も難しい。

 だから、勇者には勇者をぶつける。


「――あのう、それって、人間と戦うってことですか……?」


 召喚した女勇者の一人が言う。それに応える前に、他の勇者が言った。


「バカ! 魔族の味方をするってことは、俺たちの……いや、人類の敵だろ?! ためらう事はない!」

「えっ……あ、そうかも……うん、そうだよね」


 本当に、愚かで助かる。

 彼らは短絡的で流されやすい。人間兵器として最高の使い勝手であった。


「さあ、悪の勇者、ユウリを探せ! そして、討つのだ!」


 広間が沸く。

 大陸を支配する日も近い。


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