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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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2-1

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ブリッジに行く途中の通路で、隊員が倒れているのを見つけた。


「大丈夫か!?しっかりしろ!」

ムラサは駆け寄った。

確かハープという名の士官だったはずだ。

ハープはぐったりとしていた。

意識がない。


(…これ、どっかでみたような状態だな…?)


ムラサは直感したが、今はそんなことに構っている時ではない。

「しっかりしろ!」

ムラサは声をかけ続けたが、ハープは意識を失ったままだった。

「一体何が…?」

ムラサは仕方なくハープを放って、ブリッジへ向かった。

意識はないが死んではいないようだし、事態の把握が先だと思ったのだ。

途中、何人もの隊員が倒れていたが、ムラサはブリッジへ急いだ。



ブリッジのドアを開けて入ってゆく。

が、ブリッジのクルー達も同じように倒れていた。

1人として意識を保っている者がいない。

「船長!」

パープルは船長席から滑り落ちるようにして意識を失っていた。

「くっ…副長は?!」

イズマックは操作盤へ手を伸ばした状態で倒れている。

何かしようとしていたのか。

他の乗組員達も似たような格好で倒れている。


「どうなってるんだ!?」

ムラサは焦った。

何が何だか分らない。

目の前がグラグラと揺らいでゆく。


パニックを起こしかけたムラサの脳裏に浮かんだのは、遙か昔の記憶であった。


***


「般若というのは…」


尼僧がやってきて説教を押しつけてきた。

船を襲い沈めていた自分にである。


「大いなる知恵は皆、心の中にしまってあります」


「ボーローボロミー(般若波羅蜜)」


「雑念を捨て真に精神を集中すれば、道は見えてきます」


聖が、様々な場面で、ムラサに向けて言った言葉が次々と蘇ってくる。


ムラサは深呼吸を真似て精神を集中した。


(観自在菩薩は深く般若波羅蜜多行をしていた時、

 五蘊はみな空だと分かり、

 どんなことも苦にならなくなり、安らかな気持ちになった)


呪文のように経文訳を心の中で念じる。

意味の分らない経ではなく理解済みの文句を唱えることで、鎮静効果を狙ったのだった。


パニックを起こしかけていたムラサは次第に落ち着きを取り戻していた。

その姿はまさに仏に祈る敬虔な仏教徒であった。


***


「助かったよ、聖」

ムラサはつぶやいて、ブリッジを見回す。

やはり思いついたのは、どこかで見た状態だということ。

そして、このまま居ても自分には乗組員達を回復させることができないという事に気付く。

「そうだ、てゐなら!」

ムラサは医務室に向かった。

医務室のドアの前まで来た時、


「ぎゃあっ!!」


甲高い声が響いた。

聞き覚えのある声…てゐの悲鳴だ。

「てゐ!」

ムラサは医務室に入る。

床に倒れたてゐに何か不気味なモノが群がっていた。

体は魚のように流線型で、体表はヌメヌメとしている。

目は黄色に光る一つ目。

口の部分が象の鼻のように伸びて、先の方にギザギザの歯のようなものが並んでいた。

その歯で、てゐの体に食いついている。

てゐが身につけていたお守りは焼け焦げたように黒く変色して、床に転がっている。

黒焦げになって動かなくなった魚のようなモノが十数体、てゐの周囲の床に散乱していた。

お守りの力のせいだろうか?

「なんだ、こいつら!?」

ムラサは一瞬、戸惑った。


博麗神社

お守り

霊力

焦げてる

幽霊?

霊体?

ナニコレ?


ムラサの脳裏にパッと色んな単語が浮かぶ。

「そうだ、お守り!」

ムラサは身につけていた自分のお守りを外すと、てゐの体に押しつける。

途端に、群がっていたモノが苦しみだし、バタバタと床に落ちた。

てゐの体は新たなお守りに守られ、魚たちが取り付くことはできなくなったようだった。

ムラサは封印のためにお守りを身につけていた。

念縛霊の彼女は霊から身を守る必要は無い。

「てゐ!起きろ!」

ムラサはてゐを起こそうとしたが、目を覚まさない。


(そうか、幽霊に生気を吸われた人の状態だったっけ、これ…)


ムラサはやっと思い出した。

今はもうやっていないが、人の生気を吸っていた時代のあるムラサには馴染みのある光景だ。

「待ってろ、今、強壮剤を持ってくるから」

ムラサは医務室の備品の中から、それらしき薬品を探した。

生気を奪われた者には生気の元となる精力を注入し、休養させるのが良い。

「あった」

ムラサはてゐに強壮剤を処方した。

無痛注射で注入するヤツだ。

「ぐ…あ…う…」

てゐが意識を回復し始めている。


(さすが妖怪、回復が早い)


ムラサはてゐを医務室のベッドへ運んだ。


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