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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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ムラサたちはシャトル・ハゴロモで月の都基地へ移動し、すぐにエイラクマルへ戻った。

「忙しくてすまんが、太陽系探査に戻ってくれ」

パープルは済まなさそうに言った。

「ずっとこの件だけに関わってる訳にもいかんのでな」

「はい、船長」

「はいウサ、船長」

ムラサとてゐは敬礼。

「ではお先に」

「船へ行ってますウサ」

足早に歩き去る。

2人を見送った後、パープルはその足で基地司令官の部屋へ。

「ルナ・パープルです」

司令官室のインターホンを通じて言う。

「待ってました、お入りなさい」

「失礼します」

パープルが部屋に入ると、司令官のセドミックは部屋の真ん中に立っていた。

部屋はオフィスの体を成していたが、私物が無造作に置かれていて、ほぼ私室と言って良いように見える。

セドミックはエイラクマル副長のイズマックと同じトライアイ人である。

イズマックより年上で軍での経験も遥かに上であった。

「グリーンティーでも煎れようか」

「はあ、ありがとうございます」

セドミックとパープルは備え付けのテーブルに着いた。

「…といった次第です」

パープルは守矢神社での調査結果を報告した。

「ふむ、そうですか」

セドミックは表情を変えない。

感情を表に出さない。

これはトライアイ人の持つ一種の信仰のようなもので、理性によって感情を制御していることがステイタスというようなことらしい。

「他の隊員達には話さないように願いますが、月の民も何かを隠していますね」

「え?」

「客観的に考えれば出てくる結論です」

セドミックは言った。

「ゴッド、テング、ムーンピープル、幻想郷の上位存在はある共通の隠し事をしています」

「隠し事…ですか」

「それぞれの立場でそれぞれの確執やしがらみのようなものはありそうですが、その対象は同一だと考えられます」

セドミックはそこでグリーンティーを一口すする。

「我々がここを訪れる以前から、月の都には軍備というものがありました」

「…確かにそうですね」

パープルは驚きを隠せず、一度上げたティーカップをまた置いてしまった。

「なぜでしょう?」

「防備でしょうか」

「その表現は的確ですね」

セドミックは一瞬だけ笑顔のようなものを見せた。

「防備を整える前提として、敵の侵攻というのがあります」

「敵が侵攻してくるから防備を整える」

「そう」

セドミックはうなずいた。

「なので、火星に現れた石板はその敵が関与していると考えるのが自然ですね」

「石板が出現して、幻想郷の面々に不審な行動が現れ始めた」

パープルは自答するように言った。

「筋は通ってますね」

「ここまでが推測」

セドミックは先を続けた。

「しかし、この先が難しい。我々の説を彼らに突きつけても、そう簡単には認めないでしょう」

「…じゃあ、どうしますか?」

パープルは聞いた。

「情勢を見守りつつ情報収集を怠らないようにします。一見下らないと思えるような情報でもできるだけ報告してください」

「はい、分りました」

パープルは立ち上がり敬礼した。



ムラサはブリッジでの仕事を続けていた。

モニターには巨大な嵐の神めいた惑星が映っている。

木星である。

木星はガス惑星だということもあり、調査はそれほど長くは行わない。

本命は衛星のエウロパである。

21世紀には地球の科学者達はエウロパに水があることを発見していた。

水があれば地球型生命が生まれている可能性が高い。

同時期に、地球の深海では陽の光が届かない領域で生命のサイクルが存在することが分ってきていた。

太陽光から完全に切り離された環境下に生命体がいるということは、地球外のどこか他の星においても、水があれば生命が誕生している可能性があるということだ。

エウロパは地表は氷に覆われているが、深海に相当する部分では圧力により熱が発生して氷が溶けており、地球でいう深海のような環境になっていると推測されていた。

人類は何度も探査機を送り込んで調べた結果、生き物が存在するということが分った。


ムラサは分校で習った歴史の授業を思い出していた。


その後、地球文明は衰退・混迷を繰り返した。

大国間のいがみ合い、経済の混乱、疫病の流行、虫害等など。

宇宙探査は進展せず、星間連盟が発足し宇宙軍ができるまで調査が進むことはなかった。


エウロパには独自の水棲生物が存在しており、それは地球の歴史でいうカンブリア期の生き物や深海の生物に似ていた。

幻想世界においてもエウロパの海に生命はいるのか?

既に行われた調査で、生命が存在するのは確認されていた。

それはチューブワームやイソギンチャクのような一カ所に定着する生き物達ばかりだった。


○これらの種は個体数がある時期は増加するが、しばらくすると減少する。

○増減を繰り返しているようだ。


「妙な習性だなぁ」

ラボより転送されてきたデータに目を通しながら、ムラサはつぶやく。

『スキャンします』

コンピュータの声がして、エイラクマルが広域スキャンを展開した。

結果は前回と同じだった。

自分で移動する生き物はおらず、一カ所に定着する生き物だけが確認された。

「移動が困難なのかな?」

アズマがつぶやく。

「海水の粘度が高くて動きにくいとか?」

「いや、スキャンの結果では海水の粘度は高くない。地球の海水と変わりないよ」

ムラサは席についたまま答えた。

「ラボで考えたら?」

「いや、誰かと話しながら考えた方がまとまるのよ」

「そうか」

アズマは変なクセを持っていた。

考えが煮詰まると誰かと話しをしまくるのだ。

ムラサは既に諦めている。


(どうせ、ヒマだしな)


「アズマ、あまりスタッフの邪魔をしないようにな」

パープルは何かの資料に目を通しながら、言った。

「了解、船長」

アズマはそう言いながらもムラサの周囲でブツブツつぶやいている。

「あれこれ考えるより、生け捕りにすればいいんじゃない?」

ムラサは投げやりに言った。

その途端、

「その手があったか!」

どっかの老柔術家のような事を言って、アズマは小躍りした。



電送は防疫上問題があるので、探査機を送って生き物を採取することになった。

未知の惑星を探査する時には、危険なウィルスや細菌などの微生物がいないことをしっかり確認しないといけない。

またこちらから未知の場所へ行くときも、同様に現地に危険な微生物を持ち込まないよう気をつける。

連盟には惑星探査のノウハウがあった。

探査機は微生物を除去してから投下する。

エウロパの環境を破壊しない素材であることを確認。

劣悪環境に耐えられるのはもちろんだが。


探査機は生き物を採取して戻ってきた。

環境が変わってしまったので死んでしまっているが、それでも貴重なサンプルである。

その死骸は透明な防護ケースに隔離された。

「地球の深海にいるチューブワームに似ているわね」

アズマはマニュピレーターの操作スティックをいじくりながら、解剖のようなことをしている。

「アズマ」

ムラサがラボへやってきた。

「船長が一次報告をしろってさ」

「あー、もー、いいところなのに!」

アズマはイラッとしたようだった。

「お、これがエウロパの生物か」

ムラサは面白がって死骸をのぞき込んだ。

透明な素材越しにではあるが。


その瞬間。


ザワッ


ムラサの背筋に悪寒のようなものが走る。


(なんだ、これ?)


「さ、いくよ」

「あ、ああ」

ムラサは気を取り直して、アズマの後に続いた。



ムラサは念縛霊なので眠る必要はない。

休まず働き続けることができる。

しかし、隊員である以上は、勤務シフトというのがあり、乗組員はみな休みを取らされる。

ムラサの非番の日が来た。

ムラサは一日の行動を人間と同じように過ごすことにしていた。

非番の日はレジャー施設に足を運んだり、映画を見たりして過ごす。

てゐや、アズマ、アズマが非番なら一緒に遊ぶこともある。

夜はベッドに寝っ転がって本を読んだり考え事をしたりする。

ちなみにムラサは念縛霊としての力が漏れないよう博霊神社よりもらったお守りを身につけている。

封印の護符と思えばいいだろう。

また誤って弾幕を出さないように力を封じる効果もある。

これは同じように弾幕能力を持つ、てゐも身につけている。

物質化は自分で獲得した能力だが、お守りのお陰で普通に宇宙軍士官として働いてゆけるのだ。


ピピピピピ。


アラームが鳴った。

「朝か」

ムラサは起きて身支度を整える。

「なにか残っていたかな?」

『サンドイッチが冷蔵庫にあります』

コンピュータが答えた。

「お、サンキュー」

『どういたしまして』

ムラサはサンドイッチを食べて、勤務に戻ろうと自室のドアを出た。

「…あれ?」


通路が暗い。


(どういうことだ?)


ムラサは首を傾げた。

光源が乏しくても見えない訳じゃない。

ムラサは通路に出てブリッジへ行く。


何かあったのならブリッジへ行って確認しなければ。


(2へ続く)


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