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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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石板の監視を続ける一方で、宇宙軍の興味は幻想郷にいる神に向けられた。


可能性がある→疑われる


というのも難儀な話だが、力を持っているとどうしても払わなければならない有名税みたいなもんだろう。

「もちろん、外の世界でもGの関与についての調査も行っている」

パープルが言った。

シャトル・ハゴロモで幻想郷へ降りてきたのは、ムラサとてゐ、それに船長のパープルであった。

ムラサは最初はアズマが来るものだとばかり思っていたが、一介の科学士官では礼を失するというのがパープルの考えで、自ら同行することとなったのだ。

目的地は妖怪の山、山頂にある守矢神社。

「ホントは月の都基地司令が赴くのが一番良いのだろうが、そうも行かなくてな」

「そんな心配は無用です、船長」

ムラサは首を振る。

「あの神様達はそんな礼儀正しくしてやるような存在じゃないです」

「結構、無茶苦茶いうウサね・・・」

てゐが隣で呆れている。

「礼儀は守った方が良いウサ、船長。神様は悪魔と違ってフレンドリーじゃないウサ」

「だよな・・・悪魔?」

パープルの額に汗が浮かぶ。

その理由は徒歩で山道を歩いてるからだけではないのは明らかだ。

「悪魔も大概だけどなぁ」

ムラサがつぶやく。

「うるさいウサ。まあ、大分丸くなったとはいえ、守矢の神様は、一人は軍神、一人は祟り神ですしウサ」

「3名だと聞いてるが?」

「ああ、残り1名は現人神ウサ」

「現人神?」

「生まれながらにして神様というか、信仰を集めて神様になっているというか」

「よく分らないな、それ」

パープルは首を傾げる。

「行けば分るウサよ」

てゐはそれ以上の説明を諦めた。

概して、百聞は一見に如かずというのは正しい。



山頂の神社についた。

念縛霊であるムラサには体力的な疲労というのはないが、てゐとパープルは山道と階段に耐えかねて疲労困憊になっている。

「いつ来てもキツいウサ」

「飛んで来れば良かったんじゃね?」

「船長が高所苦手なんだウサ」

「すまん、宇宙なら平気なんだが…」

パープルはちょっと顔を赤らめた。

普段の姿からは想像できないくらい気弱に見えた。

「船長、誰にでも苦手なものはあるウサよ」

「そうですよ、気にしないでください」

「そういってもらえると助かる」

パープルは力なく笑った。


「あ!」

と、そこへ出くわしたのは緑髪の独特の服装をした少女。

東風谷早苗である。


守矢神社の巫女である早苗は一度は天寿を全うし天に召された。

しかし、妖怪の山に棲む者達の信仰が集まり、早苗の現人神の部分が蘇り再び世に現れることとなった。

聖と同じようにリアルババア経験者ということだな。

ムサラは口には出さないものの密かにそんな感想を持っている。


「あ、早苗」

「わー、村紗さんにてゐさん!お久しぶりです!!」

早苗は、うるさいくらいに大きな声を上げて抱きつかんばかりに近寄ってくる。

「元気そうでなにより!」

「お、おぅ、早苗はいつも元気だな」

「そりゃ現人神ですから!」

早苗はガッツポーズをしてみせる。

「あのー」

パープルが遠巻きに声を掛けてきた。

「紹介してくれると嬉しいんだが・・・」

「あー、そうだったウサ」

てゐが思い出したように言った。

「私達、二人とも連盟の宇宙軍に入ったのは知ってるかウサ」

「え!そうなんですね、知りませんでした!」

「軍に入れば衣食住ついてきて給料ももらえる、実家に仕送りできるよ?早苗も考えてみたら?」

ムラサが冗談めかして言うと、

「うーん、そーですねぇ」

早苗は考え込む。

「こらこら、早苗は真面目なんだから、からかうなウサ」

てゐがムラサをたしなめた。


「…という訳で、ちょっとお話を伺いに来ました」

「あー、そういうことですか」

早苗の視線が若干、宙を泳いでいる。


(これは神様達の怒りを買うな…)


ムラサは直感した。

いきなり来て「これはおまえらの仕業じゃないのか?」とか言われたら…。

ムラサでも怒るのに、一般の妖怪よりさらにプライドの高い神様達が怒らない訳がない。

「…いや怒られてもいいウサよ」

てゐは、パープルとムラサに言った。

「ナニをしたって怒られるんだウサ、正直に聞くのがいいウサ」

「それにしたって、失礼すぎだろ」

「今後の幻想郷の有力者との関係が…」

「慎重なのは結構ウサ、でも心配性になっても前に進めないウサ」

てゐは仁王立ちになって力説する。

「だいたい、神様がナンボのもんウサ、私だって月人に仕えて1300年以上になるウサよ、月人だって言っても自堕落だわ、研究狂いだわ、たいしたもんじゃないウサ」

「いや、後ろ後ろ!」

「てゐさん、ストップ、ストップ!」

ムラサと早苗が小声で背後を指し示す。

「なんだよ、さっきから・・・」

てゐが面倒くさそうに振り向く。


と、そこには、


(ははーん、たいした神様じゃなくて悪うござんしたねぇッ)


という顔で腕組みした八坂神奈子が立っていた。

怒りでこめかみに青筋が立っていて、眉と口元がピクピク引きつっている。


「ふぎゃーっ!!?」

てゐは驚いて逃げ出そうとするが、

「逃がすかバカ!」

神奈子がむんずとてゐの後ろ襟をつかむ。

「ぐえっ!?」

「私もいるよー?」

ひょこっと金髪、帽子の幼女が顔を出す。洩矢諏訪子だ。

「あ、神奈子、てゐを殺しちゃダメだかんね」

「ふん、死ねばいいのに!」

神奈子はポイッとてゐをぶん投げる。


「ひーッッッ」


てゐは数メートル宙を飛んで地面に叩き付けられた。



「先ほどは隊員が失礼しました」

パープルは平謝り。

「もういいよ、そんなに謝られたら決まり悪いじゃない」

てゐが散々怒らせたので、神奈子の怒りは一旦、発散されてしまい、逆に落ち着いてきていたりする。

「で、何の用ですか?」

「はい、実は…」

パープルは正直に事の次第を話した。


「…ふーん、なるほど」

神奈子はちょっと驚いた感じで言葉を切り、

「これは私達とは無関係だね」

「では、やはりGの…」

「いや、それも違う」

「え?…」

「私に言えるのはここまでだ、失礼する」

神奈子は唐突に言うと、席を立って奥へ消えていった。

「ごめんなさい、神奈子様はストレートでウソがつけない性格なんです」

早苗がフォローしようとしたが、

(フォローになってないウサ)

(フォローになってないぞ)

てゐとムラサは心の中で突っ込んでみる。

「あのね、この幻想世界はね、幻想の存在が棲んでるんだ」

諏訪子はいたずらっぽく言う。

「それってどういう意味ウサ?」

「私もここまでしか言えないよ、ヒントは出したから、あとは自分で考えてね」

諏訪子もそそくさと部屋を出て行く。

「えー」

あとに残された4人はぽかーんとするしかなかった。


早苗が何度も謝りながら見送ってくれたが、よく分らない神様達の対応に3人は混乱というか釈然としないというか、そんな気分で帰路についた。

「うーん、考えようによってはかなりヒントをもらった方かウサ?」

てゐは、あーでもないこーでもないと考えている。

「単純にいこう、守矢の神様でもない、Gでもない、ときたら他のなにかだ」

ムラサは深く考えないタイプだった。

「幻想世界には幻想の存在が棲む、というのは?」

パープルが聞く。

「ファンタジー世界には妖精や精霊、モンスターがいるってことでしょう」

「…てことは、幻想世界のなにかの仕業ってことになるな」

パープルがさっとまとめた。

その「なにか」が「なんなのか」までは分らないが、この世界由来のモノらしいってことは推測できる。

「ところでさぁ」

ムラサは言った。

「なにウサ?」

「ヤツらの姿がまるっきりないってどういうこと?」

「ヤツら?」

「今、ホットな話題の宇宙軍隊員がこんなところへ来てるってのに、一回も姿が見えないなんてありえるかってこと」

「ああ、天狗ウサね」

てゐはそこでやっと納得。

「天狗なんてのもいるのか?」

パープルはまた驚きの表情。

「天狗と言ってもそれほど恐れることはないウサよ、ヤツらは幻想郷では外の世界でいうマスメディアのようなものウサ」

「…はあ、それはまたよく分らん存在だな」

「気配がない訳じゃない」

ムラサは言って、周囲を見渡す。


「そこにいるんだろ?射命丸さんよ?」


そして、声を張り上げる。


シーン


静まりかえる山道。

風もなく、木々のさざめきもない。

しばらくして、自爆かとムラサが心配し始めた頃、


「………はあ、仕方ないですねぇ」


ムラサの耳に聞き覚えのある声が入ってきた。


忍者のように木の陰から、天狗が姿を表す。

射命丸文である。


「今回は取材の予定はなかったのですが、村紗さん、てゐさん、あなた方との友誼のために少しだけお話してもいいですよ」

「お、話せるじゃないか」

ムラサはまるで商売人のように手もみしながら言う。

「あの好奇心の塊の天狗が寄ってこないとかないもんねぇ、どんな裏があることかと思ってたよ」

「それについて具体的な事はお答えできませんね」

文は素っ気なく答える。

「具体的な…ってことは抽象的には答えられるってことだね」

「ご想像にお任せしますよ」

文は肩をすくめる。

「守矢の神様達が幻想世界のなにかだって言ってたけど、実際なんなの?」

「それは知りません」

「あー、私達には分らないなにかってことかな?」

「私にも分りかねますね」

「抽象的ですらないじゃん!」

「いえいえ、私達には答えられない類いのものなんて言ってませんよ?」

「言ってるじゃんか」

ムラサはあまりにも露骨な表現に呆れる。

「なんのことでしょう?」

「まあ、いいや。要は天狗や神様なんかの上位存在は知ってるんだな」

「ご想像にお任せします」

「だったら永琳先生も知ってるんだな」

「それは、ホントに知りませんね」

文は受け答えがグダグダだ。

故意にやってるのだろうが、隠そうという気が感じられない。

「うん、ありがとう。すごく助かったよ」

「なんのことか分りませんが、お役に立てたようならこちらとしても幸いです」

文は、お得意の嘘くさい、胡散臭い笑みを浮かべた。

このため、天狗は他の妖怪に敬遠されがちだが、ムラサは何らかの掟を破ってまで協力してくれた事に心中で感謝していた。

「では、次にお会いした時は連盟について色々と聞かせてくださいよ?」

「まあ、考えとくよ」

ムラサはにへらっと昔の顔をして見せる。

「では、私はこれで」

文が言うと、すっと姿が見えなくなる。俗に言う、天狗の隠れ蓑というやつだった。


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