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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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ラウンジで、てゐと世間話をして休憩時間が終わる。

ムラサがブリッジへ戻ると、なにやら慌ただしい雰囲気になっていた。

船長のパープルとブリッジの乗組員達が忙しく動き回っている。

「船長、なにかあったのですか?」

ムラサはラウンジとのギャップに戸惑いながらも質問。

「うむ、君が休憩中にもう一度火星地表のスキャンをしたのだが、どうやら人工的な物体が見つかったようなのだ」

パープルは簡潔に答える。

「え、さっきは何も見つからなかったのに…」

「同感だな」

パープルは頷いた。

船長の彼女が乗組員達の訓練のためにどれだけ同じ作業を繰り返していたかは想像に難くない。

「失礼しました、船長にこんなことを言うのは釈迦に説法でした」

「構わんよ、仕事というのは9割が繰り返し作業だ」

パープルは素っ気なく返すが、口元が自嘲気味に笑っていた。

『ラボよりブリッジへ』

「私だ、なにか分かったか?」

通信が入り、パープルは単刀直入に聞く。

『人工物は黒曜石の板だと思われます』

「黒曜石?」

『信じられませんが、走査をして、返ってきた波長から判断するに材質は黒曜石です』

「だが、黒曜石の板なんてものが火星地表で風化せずに残ってるなんてあるか?」

『普通ならあり得ません』

ラボの科学士官は困惑気味に答える。

ジュンコ・アズマ。

一日中ラボに籠もっていても平気という変人気質の持ち主で、それでいて話し好きでもある。

科学知識、分析能力は船長のパープルも信頼を置いている。

『俗にいうモノリスというヤツでしょう』

アズマが言うと、

「…高次元の存在か」

パープルはつぶやいた。


星間連盟はその歴史において既に宇宙の高次元生命体と接触している。

ムラサは士官学校の授業でそれを習っていた。

宇宙軍の著名人であるアール・グレイが、宇宙船ニュージャージーの船長として乗り込んでいる時に遭遇したのが高次元存在であったという。

その後も何度か姿を表したとされている。

高次元生命体の名前は、G意識体というらしかった。


『その可能性はあります』

「調査チームを降ろす」

パープルは即断。

「メンバーは、アズマ、イナバ、ムラサ。すぐに準備にかかれ」

『イエス、船長』

「はい、船長」

アズマの音声とムラサの返事が被った。



電送システムを妖怪に使うとどんな結果になるのか分かっていないため、シャトルで火星へ降りる事になった。

妖怪を電送する実験が進んで問題なしとならなければ、宇宙軍は妖怪士官の電送に許可は出さないだろう。

火星地表に着陸し、石板の所へ向かう。

全員、宇宙服を着用している。

ムラサは呼吸をしていないため必要ないのだが、皆に合わせた方が精神衛生上好ましい。

また宇宙空間は放射線が飛び交う危険な空間でもある。

火星の大気は地球のように宇宙から降り注ぐ放射線をシャットアウトしてはくれない。

いかな念縛霊でもどういう影響がでるかは分からないのだ。

石板の所に着くと、

「ではスキャンしてみよう」

アズマがスキャナーを使用した。

ボールペンくらいの大きさだが高性能である。

「測定データを見る限り、普通の黒曜石のようだ」

『石板の表面にはなにもないのか?』

パープルの通信が入ってくる。

「ええ、船長。表面はツルツルでなにも記されてません」

『軍本部に報告をする。君達はそこで待機してくれ』

「了解」

パープルが本部に連絡してる間、ムラサはアズマ、イナバと雑談をして過ごした。

ちなみにイナバはてゐのことだ。

テイ・イナバと名乗っている。

『待たせたな』

10分程度でパープルから通信があった。

『すぐに船に戻ってくれ、ブリーフィングをする』

「了解」

三人はシャトルで船に戻った。

戻ってすぐブリーフィングルームへ急行し、空いた席に着く。

「軍本部は、G意識体の悪ふざけを疑っている」

パープルが言った。

「副長、記録を映してくれ」

「はい、船長」

副長のイズマックがモニターに映像を出す。


イズマックはトライアイ人の士官である。

宇宙軍におけるトライアイ人の比率は低いが、徹底した論理思考と豊富な科学知識を有し、戦略・戦術にも通じていて肝も据わっている。

つまり高性能なチートキャラ扱いである。

隊の中で取り合いになるケースも珍しくない。


「これらはG意識体の仕業と考えられている事例です」

イズマックはいくつかの事例とともに簡単な説明を添えて紹介する。

どうやらいたずら好きで、トリックスター的な高次元存在らしい。

ムラサはそんな印象を持った。

「Gについてはあまり詳しい事は分かっていないのですが、人間がいう神に近い存在といえます」

「この幻想世界でGのような存在はいるのかね?」

パープルが聞いた。

ムラサは自分とてゐに聞いてるのだ、と一瞬遅れて気付く。

「幻想郷には神やそれに近い存在はいます」

ムラサは答えた。

「例えば、妖怪の山に住み着いたモリヤの神、道家の秘術で人から神霊へ変化した者達」

「ふむ、これまでそれらの者達がこれに似たような事をしたことはあるかね?」

パープルが更に聞いてくる。


(そういう事か)


ムラサは合点がいった。

軍本部はまずGを疑っているが、G以外の可能性もあると思っているのだ。

合理的な考えかもしれない。

「それならモリヤの神が過去に近いような事をした事があるウサ」

てゐが答える。

「もっとも、三世紀も前の話ですがウサ」

「最近はないと?」

「はい、ここ数百年は連中も丸くなって平和なもんです」

ムラサは笑みを浮かべて言う。

「分かった、二人とも協力ありがとう」

パープルは礼を述べたが、その表情は固かった。



ムラサたちはシャトルで火星地表へ再度降下していた。

監視カメラをモノリスの周囲に仕掛けるためだ。

パープルの下した指示は石板をモニターをするというものだった。

今のところ、何も危険が認められないので妥当な対策だろう。

「よし、これでどうだ?」

「大丈夫だよね?」

ムラサとアズマは映し出される映像を見ながらカメラの位置を調整した。

「うん、映像の角度、問題ないウサ」

てゐが映像のチェックをしている。

これで自動的に映像が撮影される。

その映像はエイラクマルへ送信され、コンピューターが常時チェックしてくれる。

「軍の仕事も地味ウサねー」

「まあね、そりゃ中には敵性種族との派手な戦闘もあるだろうけど、そういうのはスター選手だけに与えられた仕事よ」

アズマはおしゃべり好きらしく、てゐと無駄話ばかりしている。

しゃべっていても手も動かすからまあ問題はないが。

「ほとんどの隊員は地味で面白味のない作業の繰り返しよ」

アズマは肩をすくめる。

「船長、カメラセットできました」

『よし、船に戻ってくれ』

「了解」


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