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『船長、セドミック司令官より通信です』
通信士が報告する。
ホールが視察団の面々で賑わっているので、コンピューターを介した船内アナウンスではなく、通信機を通してきたようだ。
「分かった、ブリッジに戻る」
パープルはそう言って移動した。
「繋いでくれ」
ブリッジに着くと、パープルは通信士にチャンネルを開かせる。
モニターにセドミックが映った。
「お待たせしました」
「ちゃんとブリッジにいるようですね」
セドミックは無表情である。
「視察団の皆さんに直接聞かせていい内容とは思えませんからね」
パープルは答える。
このタイミングでの通信だ、ろくなものではないだろう。
パープルは思った。
「月の都の幹部より情報を入手しました」
「お聞かせください」
「火星に石板を設置したのは、地球では天使と呼ばれる神の軍勢のようです」
「エノク語を使用してるのは、天使アピールだったという事ですかね」
「その点についてはまだ分かりません」
セドミックは続けた。
「以前、月の都に防衛体制がある事についての疑問を話題にあげましたが、これがその答えのようですね」
「…本当に天使なんてものが?」
パープルはまだ信じられないようだった。
「クライストやそれに連なる教典等の資料を調べてみました」
「なにか見つかりましたか?」
「黙示録という書の文言と石板の文字が似ているようです。完全に一致はしてませんが」
「それは幻想郷の名士からも指摘がありました」
パープルはうなずく。
確か、銀髪のメイドが言っていた。
「それから、これは推測ですが、天使が月の都と幻想郷を襲撃してくるのはそう遠い話ではないようです」
「つまり、今すぐにでもおかしくないと?」
「正確なところは分かりません。ですので、早急に迎撃準備を整えるべきでしょう」
「分かりました」
「軍本部へはこちらから報告します」
「はい、では幻想郷の視察団には私から説明をしておきます」
「頼みましたよ」
セドミックはそこで通信を切った。
「…妙な事になってきたな」
パープルは思わずつぶやいた。
*
「皆さん!お知らせしたい事があります!」
ホールに戻ったパープルは、声を張り上げた。
一同、静まり返る。
「基地より連絡がありました。火星の石板は天使の軍勢が設置したようです」
一同から反応はない。
パープルは続けた。
「そして、天使の軍勢は襲撃を仕掛けてくる可能性が高いとの情報です。従って、皆様には月の都へ移動して頂きます」
「お、なんだよ、せっかく面白くなってきたってのに。ここで降りろってのは酷だぜ」
魔理沙が文句を言ったが、
「宇宙で戦えるのは連盟の船だけっしょ?」
赤蛮奇が遮る。
「うちらは降ろさせてもらうよ」
影狼がその後を継いで言った。
ほとんどの勢力が降りるのを選んだ。
「私も残って…」
「お嬢様、アホなこと言わないで下さい」
「うー」
レミリアは咲夜に諌められて諦めた。
皆が皆、各勢力の代表だったりするので前線となる宇宙船に残る訳には行かないのだ。
そんな中で、魔理沙、射命丸、輝夜、永琳が居残りを求めた。
「こんな面白いこと、見逃せないね」
魔理沙は主張した。
「いいんですか、霊夢さんに心配かけるような事をして?」
射命丸が、ぐさりと刺すような言葉を投げる。
「う…いや、何言ってんだい、霊夢は関係ないぜ」
(いま、『う…』って言ったろ、『う…』って!)
ムラサは内心思ったが、口には出さなかった。
「私は幻想郷の記者として何が起こっているのか見届ける義務があります」
射命丸は、いけしゃあしゃあと言ったが、
「何が記者だよ、お前らのは学級新聞だろ」
魔理沙が口汚く罵る。
「余計なお世話ですよ、魔理沙さん」
フン。
とそっぽを向く射命丸。
(というか、天狗は明らかに事情を知っているだろ!)
ムラサは内心思ったが、口には出さなかった。
「私達は月の都では犯罪者なので…」
永琳は衝撃の告白をする。
「来るときは視察団という名目でしたし、月の都に入国せず連盟へ入ったという事でしたので問題ありませんでしたが、この形で月の都へ降りれば入国扱いにされてしまうでしょう。そうなれば逮捕は免れません」
輝夜がこくこくとうなずいていた。
これには皆、突っ込みを入れられずスルーしている。
(コイツらマジでしゃれならんでしょ!?)
ムラサは喉まで出かかったが、なんとか堪えた。
元来は月の都に入国監理局などなかったが、連盟職員が来訪するようになってからは設置され、出入国をキチンと管理していた。
入国前であれば、月の都の法は及ばない。
そんな理屈で視察団に混じって来るのは可能であった。
しかしながら、視察団といえど、一同が月の都へ避難する事になれば、お目こぼしが効かなくなることは十分に予想できた。
連盟は各国の文化や政治に介入しない方針なので、月の都からの抗議を覚悟でもしなければ、強引に輝夜と永琳を幻想郷へ帰すことはできない。
輝夜と永琳はエイラクマルに残留するしかない。
永遠亭に肩入れすれば、月の都の面子を潰す。
月の都に肩入れすれば、永遠亭の二人は罪に問われる。
どちらにも肩入れできないのだった。
『電送すればいいのでは?』
コマチが言ったが、
『それが、この世界の地球は特殊な位相をしていて、月の都からでないと入れないんだ』
ハープが通信機で解説する。
「ああ、だからシャトル・ハゴロモで移動してるのか」
ムラサが納得してると、
『ちなみに連盟の宇宙船が外の世界からワープして来る時は、なぜか幻想郷にピンポイントで出現するんだよね、不思議不思議』
またハープが解説した。
(…てことは、永遠亭勢揃いかよ)
ムラサは内心思った。
居残りは、輝夜、永琳、魔理沙、射命丸の4名。
エイラクマルの乗組員としては、ムラサ、てゐ、ニトリ、青娥、芳香、コマチ、フト、鈴仙、スイカ、ユウギの10名。
機関室にはモブのカッパも何名かいるようだが。
「では、永琳さん」
ムラサは、ここぞとばかりにしゃしゃり出た。
「その天使とやらについて聞かせて下さい」
どんな経緯で幻想郷へ移住したのかは知らないが、永琳は元月の都の幹部だ。
そうなれば、永琳が月の都が防備を怠らない理由、つまり天使の軍勢について知っていても不思議ではない。
「……」
永琳はしばし考えていたが、
「分かりました」
やがて観念したのか、口を開いた。
*
「我々、月の民は太陽系ではない、遥か遠くの星系よりやって来ました」
永琳は話し始めた。
「ふぁっ?!いきなりディープだなっ!」
ムラサは驚きのあまり口走ってしまう。
「人類が未達な深宇宙の彼方から、月の民は移住してきたのです。我々は物質面と霊的な面、どちらも強いのですが、それでも対抗し切れない外敵と出会ったからです」
永琳は淀みなく話す。
「天の川銀河に巣食う一大勢力、エンジェルと交戦をしてゆきましたが、我々は徐々に押され始めました。劣勢のまま押しきられるのを悟った我々は、新天地を求めて太陽系へとやって来ました。月に都市を建設して隠れ住んだのです」
沈黙。
永琳の話がにわかには信じられないのだろう、誰も口を開かない。
「天使どもは、月の民を追って来たってわけかい?」
しばらくしてから、魔理沙が言った。
「そう考えるのが適切でしょうね」
永琳はうなずく。
「マジか」
ムラサはつぶやいた。
月の民は、天使の軍勢と戦い、負けを悟って太陽系へ逃げてきた。
月に都を作り、隠れ住んだ。
軍備を整えているのは、万が一、天使どもに見つかった時のため。
今がその時。
ムラサの頭でも、これくらいの事情は理解できた。
「元々は私達、月人の問題ですから、連盟や幻想郷の皆さんには被害が及ばないようにと月の都の首脳達は考えていたはずです」
永琳は断言した。
「なので、天使については秘匿していました」
「…なるほど」
パープルは言った。
「そのお気持ちはわかります。ですが、既に関わった以上、私達が逃げる訳にはいきません」
「……そう仰有るだろうと思っていました」
永琳は深いため息。
「天使の軍勢は並大抵では退けられません。連盟の皆さんには外の世界へ避難することをお勧めします」
「確かに、論理的だ」
イズマックがうなずく。
「しかし、仮に天使とやらが月の都を征服したらどうなりますか?」
「それは…」
永琳は言い淀んだ。
「月の都の次は幻想郷、幻想郷の次は我々の世界。違いますか?」
「……」
永琳は黙った。
「月の都だけでは勝てるかどうか分からない敵だとしたら、幻想郷、連盟も各個撃破されて終わるのではないですか?」
「連合するべきだと?」
永琳はイズマックの言いたいことを察したようだった。
「その通りです。月の都、幻想郷、連盟が力を合わせて対抗するしか方法はないでしょう」
「……」
永琳はまた黙った。
月の都は単独で戦う方針らしい。
他の勢力に迷惑はかけられないということか。
だが勝てなければ、月の都だけでなく幻想郷が狙われ、外の世界にも侵略の手が伸びる。
皆で力を合わせて勝率を上げた方が良いと考えるのも分からなくはなかった。
*
「連盟は協力を惜しみません」
パープルは断言した。
「うひゃあー、なんか大事だな」
魔理沙が割って入った。
「私達だけじゃ決められないから、幻想郷の偉いやつらに連絡させてくれよ」
「そのつもりですよ。セドミック司令官を呼び出してくれ」
パープルは亜空間放送を開いた。
すぐにセドミックがモニターに映る。
『ちょうど良かった、こちらも連絡を取ろうと思っていたところです』
「幻想郷の名士の4名が居残りを求めています。そのうち、エイリン・ヤゴコロとカグヤ・ホウライサンのお二方から情報提供がありました」
パープルは報告する。
「それによれば、月の民は元は太陽系ではない別の場所より移住してきたそうです。なぜ移住したのか、その理由が天使の軍勢との遭遇とのことです」
『分かりました』
セドミックは無表情である。
『軍本部から月の都と幻想郷を守るよう指示がありました。早急に増援を向かわせるそうです』
増援が何隻かは明確ではない。
とりあえずエイラクマルだけで防衛するケースも考えなければならないと言うことか。
『それと月の都より、幻想郷の視察団は保護完了したとの連絡がありました』
「それはなにより」
『彼女らの一部は幻想郷に戻りましたが、大半は戻らず月の都で情勢を見ていたいそうです』
「危険ではないのですか?」
『皆さんも知っての通り、月の都と幻想郷の住人には弾幕という特殊能力を持つ者が多いのです。月の都の防衛線に参加を申し出ています』
「なるほど、それは心強い」
パープルはうなずいた。




