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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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ムラサは航海士の適正を認められたので、着任早々ブリッジへ配属され、操舵を任された。

月の都基地へ配属された宇宙船は一隻のみで、長期間の航行・探索が基本なので、少ない人員で運営されている。

外の世界の宇宙軍隊員は地球人がほとんどだが、異なる星の出身者も搭乗している。

トライアイ人。

長身で耳が尖っている種族で、元々は額に第三の目を有していたと言われる。

テレパシー能力を持っていて皮膚接触により相手の精神と融合することができる。

肉体的にも頑強で武術にも長けている。

最も特徴的なのは感情をコントロールし、自身の行動を論理に基づいて決定することである。

論理を尊ぶ種族として知られる。

副長のイズマックがそうである。


エイラクマル。

船の名前だ。

数十人で動かせる規模の小型船であり、戦闘力や速力よりも燃費効率と燃料積載量に特化されている。


「ムラサ少尉、現状を報告せよ」

船長のパープルが言った。

「現在地、宇宙座標X:○○,Y:○○,Z:○○、月の都基地を離れ、幻想宇宙の火星へ向けて航行中であります」

ムラサは答える。

「うむ、火星で我々がすべきことは?」

「火星の衛星軌道に乗って周回し、火星地表のスキャンにて定期調査を行うことです」

「よろしい、何かあれば逐次報告するように」

「はい、船長」


ルナ・パープル。

女だてらに豪快な性格と決断力を有する宇宙軍士官である

エイラクマルの船長だ。


月の都基地を出発。

一旦、地球の衛星軌道へ移り、重力による反動を使って火星への航路に乗る。

エイラクマルは、火星へは一時間もかからずに到着する。

隣の星に散歩気分で行けるとはすごい技術力だ。

ジャンプドライブを使えば更に外宇宙まで行けると言う。

航路の設定が済むと、あとはコンピューターが運転するので、ムラサは見ているだけになる。

一応、規則でブリッジから出たりしない事になっているが、高度に自動化された宇宙船では乗組員がやることは多くない。

この間に食事やトイレを済ませる事もできたが、ムラサは物質化させて体を作っているとはいえ、念縛霊なのでそういった必要がない。

案外、この特性を買われて航海士なのかもしれない。

ムラサはふと思ったが、考えても仕方がない事だと頭の中から閉め出す。

この先の行程を思い浮かべて、繰り返しやることを自分の頭に覚え込ませた。



無事、火星の衛星軌道に乗った。

ムラサは、直ちに火星の地表をスキャンする。

スキャン等の仕事は、航海士ではなくて専門の技師がやるべき仕事だが、人数を切り詰めたこの船では一人で何人分もの仕事を兼任しなければならない。

前任のアズマも同じように複数の仕事をこなしていた。

アズマはバックアップとして船に乗っており、他の任務に就いている。

時々、分からないことを聞きに行ったりしている。


「火星地表のスキャン開始します」

ムラサはスキャンシステムを起動させた。

この行為は訓練も兼ねたもので、既にエイラクマルは火星の探索は終えている。

ただ今後も火星に変化がないとは言い切れないので、定期的に調査を続けているに過ぎない。


幻想世界の宇宙は幻想宇宙と呼ばれている。

連盟宇宙軍の目的はこの幻想宇宙を探索することだ。

まずは太陽系から、となる。


地球は幻想郷のみが開放されており、他は閉ざされた空間で、目に見える景色は見せかけのものだ。

つまりリソースが幻想郷だけにしか割かれていない。

まるでサイバースペースだと茶化されていたが、あながち間違いではないかもしれない。

ムラサはそう思った。


月の都は幻想郷でも知られているように外からは見えないように隠されていた。

今でこそ、それを止めて連盟に開放しているものの、基本的には隠れ里の気質を有している。

月の民は排他的で気難しい。

地上を穢れた土地として嫌っているので、ムラサのような地上出身者にはよそよそしいのだ。


だが、論理を重んじるトライアイ人とは馬が合うらしく、積極的にその考え方を取り入れようとしていた。

月の指導者達が連盟に協力的な理由はその一点のみ。


いや、その他にもなんかあったような…。

永琳先生の厳しい授業でなんか教わってた気がする。

ムラサは気が散っている自分に気付いて考えを振り払った。


火星は外の世界と同じで、風化した惑星だ。

噂にあるような、先住民だとか人工建造物だとか生き物だとかは発見されず、であった。


「スキャン完了、データをタブレットへ転送します」

「うむ、ご苦労様」

パープルが頷いて、

「では、ここで休憩とする、交代要員には私からメッセージを送っておく。しっかり休息するように」

「はい、船長」

ムラサは敬礼して、ブリッジから退出する。


ラウンジに行くと、

「こっちウサ」

てゐが手招きしてくる。

「早いね」

ムラサは言いながら、てゐの対面の席へ。

「医療班はヒマだからウサ」

「まあ、この船はどさ回りみたいなもんだからなぁ」

「どさ回りいうなウサ」

てゐは悪態をついてから、ウェイトレスを呼び止める。

「Bセット2つ、1つはベジタリアン仕様で頼むウサ」

「かしこまりました」

ウェイトレスはお辞儀して注文を伝えにゆく。

ちなみに基地で働いているのはほとんど月の兎だ。エイラクマルのラウンジ等で働く民間人もほぼ月の兎である。


「飲み物取ってくる」

「ヤサイジュースな」

「へいへい」

ムラサはサーバーに赴き、ヤサイジュースとジンジャーエールをそれぞれコップに注ぐ。

「外の世界には物質複製器とかいう便利な機械があるんだってな」

「便利になればなるほど雇用は失われるもんウサ」

てゐはヤサイジュースを飲みながら言う。

「そーいうもんかねぇ」

ムラサはさしたる興味もなさげにジンジャーエールを飲む。

一応、飲み食いは可能だ。

体内で気に昇華されるだけで。

いわゆる練丹術でいう練精化気というやつだ。

「ここに複製器を持ち込んだら、今働いている兎が失業するウサよ」

「あー、そーゆー」

「BセットとBセット・ベジタリアン仕様になりますー」

ウェイトレスの兎が注文の品を持ってくる。

「ありがとう」

ムラサはお礼を言ってから、

「今日も御仏のお恵みに感謝します」

合掌して習慣となった文句を唱える。

「ブッデストめんどくせー」

てゐは肩をすくめる。


支払いはタブレットが自動で済ませる。

なので、ラウンジにはレジがない。

給仕と厨房の仕事のみだ。

タブレットは隊員に支給される。生活でも仕事でも使用する。


「そういや、ニトリも機関部で働いてるみたいウサ」

「士官だっけ、あいつ?」

「いや、外部のエンジニアとして招聘されてるみたいウサよ」

「アルバイトかよ」

「河童の技術力も侮れないウサ」

「そーかぁ?」

「あいつら独自で高い技術力を持ってるウサ、それこそおかしいくらいに」

「へー」

ムラサは定食をもりもり食べながら相づち。

今日のBセットは、焼き鮭、きんぴらゴボウ、マッシュポテトのサラダ、太巻き寿司、だし巻き卵、鶏肉の唐揚げと結構豪華だ。

「ブッデストのくせに」

てゐがその様子をチラ見して言った。

「既に調理されている食材を食べない方が命が無駄になるからね」

「ほーん、詭弁っぽいウサ」

てゐのプレートには、鮭のかわりに豆腐、唐揚げのかわりに麩が乗っけてある。

調味料など使用する食材も肉を使用していない。

「仏教徒は別にベジタリアンじゃない」

「まあ、いいウサ」

てゐは豆腐や麩には手をつけず野菜ばかり食べている。

「これ、やるウサ」

「お、サンキュー」

てゐが豆腐と麩をムラサのプレートへ放り込む。

ムラサは豆腐、麩が好きだった。

あと椎茸も好きである。

命蓮寺の皆のことを思い出すのだ。

裕福ではなかったし、仏道の厳しい修行もあったが、それでも楽しい毎日だった。

一瞬、ホームシックにかかりそうになるが堪えて、

「椎茸を食べると綺麗になるんだぞ」

「兎にキノコ食わすなウサ」

てゐはスプーン片手に力説。


(…いや、兎用のメニューを頼めよ)


ムラサは思ったが、口に出すことはなかった。


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