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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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「船長」

副長のイズマックが声をかけてくる。

「青娥さんがレポートを提出してきました」

「早いな」

パープルはそう言ってタブレットを見る。

イズマックが送信したファイルが届いていた。

「ん、なんで2通?」

「一つはゴーストフィッシュに関するもので、もう一つは彼女が勝手に書いてきたものです」

イズマックは無表情のままで答える。

「はぁ?」

パープルは思わず声を漏らしていた。

「なに勝手に書いてるんだよ」

「お怒りはごもっともです。が、内容は一読の価値ありかと思います」

「てことは読んだのか?」

「はい、下らない内容であれば棄却するつもりでした」

イズマックはやはり無表情のままで答える。

「タイトルは?」

「『古代中国文明とアンフィビア文明、漢字文化のつながり』です」

「これはまたアカデミックなタイトルだな」

パープルは感心したような呆れたような顔をする。

正直、パープルは学問よりか現場で叩き上げてきたタイプだ。

通常の連盟軍士官はこのタイプが多い。

だが、必要とあらばレポート等の文章は読まなければならない。

必須技能の一つともいえる。


パープルはすぐに集中してレポートを読んだ。

意外に簡潔で分かりやすい文である。

トラブルばかり起こす異常者のように見えるが、仙人というのは伊達ではないようである。

古代中国の文化では、文章を書くことが重視されていたというし、教養が高いのかもしれなかった。


エウロパ・ゴースト・フィッシュについては、あれから何度か青娥の立ち会いの下で実験を行った。

エウロパの生き物を捕獲し、それに憑いてきたゴーストフィッシュを処理する。

青娥の術で、普通の人間にも見えるようにする、動けなくする、封印する、消滅させる、など様々な対応を試した。

見えるようにするのは機械でも位相のズレを修正することで可能になるが、機材の設置に時間がかかるし、使用する電力がバカにならない。

それに効果範囲が限られているので、活発に動き回るゴーストフィッシュすべてを捉えるのは難しい。

青娥の術で可視化するのが効率的だ。

見えさえすれば、調整したパルスガンで倒せる。

隊員達が何人かで一ヶ所へ追い込み、封印し、消滅させるのが一番効率が良かった。

ムラサのやり方と同じである。


ゴーストフィッシュの一例を見ても分かるように、この世界の宇宙には、霊的な存在が生息している。

これは幻想宇宙の特徴と言えるのではないか。

最後は考察をして終わっていた。


「うん、ゴーストフィッシュのレポートは期待に沿った内容だな」

パープルはつぶやいて、もう一つのレポートを開く。


漢字文化の発祥は、これまでは亀の甲羅や骨を焼いた時に現れる亀裂、つまり甲骨文字とされてきたが、その実、宇宙の彼方から伝えられたものと推測される。


かつて『商』という王朝があったが、これは商売の事を指している。

アンフィビア文明は、商工連合という組織で成り立っている。早い話、アンフィビア人イコール商売人だ。

彼らは異なる言語の間で、文字を使って商談をした。

読み方は違うが、意味は統一されている。

「木」ならwood、き、ムゥ、「金」ならgold、きん、ジン、「石」ならstone、いし、シィ、など読みは異なっても意味は同じだ。


アンフィビア文明においても、この商談用の文字から出発して、元々は異なる人種間に共通の言語をもたらしたとされる。

これが漢字文化の成り立ちだ。

そしてこの漢字からなにからを教えたのが「龍祖」と呼ばれる存在だ。


龍祖は星間宇宙を飛び回る事ができたそうだ。

その姿は巨大なサンショウウオとされる。

古代中国では水棲の生き物を龍と読んでいたという。


ここで青娥はピンと来たらしい。

中国神話に出てくる伏羲と女カだ。

漢語(中国語)では伏羲はフーシー、女カはニューワー。

アンフィビア人はタオとミンのような蛙型種族が大多数を占める。

蛙は青蛙と書き、チンワーと読む。

ニューワーとチンワー。

ワーが同じ音なのは偶然だろうか?


龍祖が地球へ飛来して文化を伝えた。

それが漢字文化である。

アンフィビア人も龍祖より文化を受け継いだ。

同じく漢字文化である。


「ちょっと待て、幻想世界と外の世界をごっちゃにしてないか、これ?」

パープルが疑問を口にしたが、

「それについては既に青娥さんに質問済みでして、幻想世界と外の世界は大昔には融合していたそうなんです」

イズマックは無表情のまま答える。

「人類がまだ未発達だった頃は神話が生きていて、幻想の存在も重なりあった状態だったと。それらは科学と理性の発展とともに剥離してゆき幻想世界へと解離するそうです」

「だが、トライアイは我々より遥かに先に発展しただろう?矛盾してはいないか?」

「それは私も聞きました。青娥さんの答えはこうです。宇宙は二枚の紙と同じ」

「どういう意味だ?」

「一枚は現実世界、一枚は幻想世界。場所により距離が近かったり遠かったりすると」

「宇宙モデルの話になってきたな…」

パープルは天を覆いだ。


「てことは、幻想世界には主に霊的存在が居て、我々のような物質により構成される生き物は少数派なのか」

「仰有る通りです」

イズマックはうなずく。

「これまでの活動で得た情報をまとめるなら、それが論理的です」


「幻想世界には幻想の存在がいる」


パープルの脳裏に先日、守矢神社で聞いた言葉が蘇ってくる。


「確かに、一読の価値はあったな」

パープルは言った。

「軍本部にレポートを二通送る」

「はい、船長」

「面倒なのは、今度は私が先程の君と同じ事をしなければならないってことだな」

「頑張って下さい」

「他人事だと思って…」

パープルは愚痴をこぼした。


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