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東方銀訪傳  作者: くまっぽいあくま
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2-5

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ムラサは青娥と芳香を連れて、エイラクマルの内部を案内して回った。

「Eiraku-maru、エイラクマル、永楽丸」

青娥は呪文でも唱えるようにエイラクマルを繰り返した。

「星間連盟の宇宙軍は西洋人が主体と聞くけど、日本の名称を取り入れた船もあるのね」

「今の外の世界の文化は一種の理想郷のような水準に達してるんだ」

ムラサは答える。

ちょっと誇らしげであった。

「貨幣経済から解放されて、人種偏見や貧富の差も克服しつつあるそうだ」

「ふーん、まさかヒトがそんな処まで到達するなんて…」

青娥は真顔で言ったかと思うと、

「ウケるわね!」

ブハッと笑いだす。

「ウケるのかよ!?」

ムラサは予測不能で意味不明なこの仙人にはほとほと手を焼いている。

いわゆるトリックスターとでもいうのだろうか。

まともに取り合っても論点をずらされ、体をすかされ、いつの間にか相手がペースを握っている。

連盟がいうところの『G』もこのようなものなのだろうか。

分らないことを考えても仕方が無い。

ムラサは深く考えないようにするしかなかった。


「ここは医務室」

ムラサは医務室のドアを開けて、中にいるてゐを手招きした。

「どーせヒマなんだろう?とか言うつもりウサね!?」

てゐは開口一番なんか言っている。

「いや、先回りしすぎ!」

「あら、兎さん、今日は」

「げっ…霍青娥!?」

てゐはムラサとまるっきり同じ反応をする。

「ななななんで、」

「法術の専門家、正式雇用」

「芳香もいるし!」

「幻想郷に放って置かれて暴れたら困るだろ」

「あら、芳香1人だけおいてくるなんて・・・」

青娥は心外という風に言って、

「なんて面白そうなのそれ!」

「なんて面白そうなのそれ!」

ムラサと青娥の声が重なる。

「…あら、私の思考を読むなんて、やるじゃなーい!」

青娥はどっかで聞いたような台詞を言った。

「ずっと一緒に居たら分ってくるわい」

ムラサは頭を振る。


「なるほどそういうことウサね」

てゐの顔に『霊夢の方が良かったウサ』と書いてある。

「まあ、いいウサ」

てゐはこの話題はさっと流して、

「とりあえず、芳香の体を検査させろウサ」

「えー、キョンシーってあのキョンシー?」

「○体が動くとかどういう仕組みなんだろう、ぜひ調べさせてくれ」

医療班の隊員達がぞろぞろと集まりだす。

みな、ヒマを持て余しているのだった。

「ダメー、私は玩具じゃないのだー!」

芳香は気圧されて、ぴょんぴょん飛び跳ねて医務室から逃げ出した。



「部屋が用意できたよ」

ムラサは青娥と芳香を居住区へ連れてきた。

2人が使うのは客用に空けてある部屋の一つだ。

「食事や飲料が必要ならラウンジ、娯楽は娯楽室、ハウスキーピングはなしだけどコンピュータが手伝ってくれるからほとんど何もしなくていい」

「物質複製器っていったかしら?それはないの?」

青娥はワクワクした様子で聞いた。

「エイラクマルは諸事情で物質複製器は設置してない」

ムラサは遮るように言い渡す。

「なによー、ちょっと聞いてみただけじゃないのー」

「絶対、よからぬことに使うだろ、あんたは」

「チッ…」

「舌打ちすんな!」

というようなやり取りをして、ムラサは案内を完了。

「用事があれば、通信機に触れて話すといい」

ムラサはワッペン型の通信機を指さした。

「無線通信機というヤツね」

青娥の表情がパッと明るくなる。

「ムラサ中尉、聞こえますか?」

「いや、聞こえてるけど、遠いところで使えし」

「それもそうねぇ、うふふふふ」

「なんか、変な使い方をしようとしてない?」

「いーえ、滅相もない。私がいつそんな変なことをしました?」

「毎回、やっとるやないかい!」

ムラサは額に青筋を浮かべて力説する。

その甲斐あってか、通信機では何も騒動を起こさなかった。

そう、通信機では。


「ムラサ、青娥さんが…」

アズマが慌ててブリッジに駆け込んでくる。

「なに、誰か殺したのか!?どこかの区画を爆破した!?」

「…どんだけ凶暴なのあんたの中の青娥さん像」

アズマはドン引きしたものの、

「えっとね、乗組員相手にアクセサリーとかを売ってるらしいのよ」

気を取り直して説明する。

「幸運を呼び込むなんちゃらとか、風水のなんちゃらとか言って」

「はあ、なにしてんだよ、あいつ」

ムラサは席から立ち上がる。

「船長、青娥の様子を見てきます」

「よろしい、アズマ代わりに航行任務を」

パープルは即座に許可。

ムラサはアズマと交代してブリッジを出た。



「こらー!」

ムラサが青娥を見つけた時、青娥が女性隊員にアクセサリー群を見せているところだった。

意中の相手に気持ちが伝わるお守り、とかなんとか言ってるのだろう。

「許可無く船内で物品を売買するのは禁止だー!」

「ひえっ!?」

女性隊員は驚いて硬直。

「えー、別にいいじゃないの、誰も損してないし、なんでそんな決まりがあるのー?」

「船内の風紀を守るためだ」

ムラサは有無を言わさず押し込む。

通信機をタッチし、

「保安部、人員をよこしてくれ」

『お、もしかして事件か?いい加減、退屈してたんだ特急でいくぜ』

返事が平和そのものというのがなんとも締まらないが、保安部が来て青娥はブリーフングルームへ連行された。


「青娥さん、こういうマネは困ります」

パープルは苦笑しつつ言った。

「でも、私、軍の規則はよく知りませんしぃー」

「契約書をよく読んだウサか?」

言い抜けようとする青娥だが、てゐが書類を見ながらそれを阻止した。

「雇用される条件に軍の規則を守ることとあるウサ」

「あ、そうなの」

青娥はあっさりと降参した。

「分ったわよ、もう売らないから許して、ね?」

「うるさいウサ」

てゐは青娥を一蹴して、パープルに向き直る。

「船長、こういうヤツは禁止しても隠れて続けるウサよ」

「じゃあ、どうするんだ?」

「いっそ、認めて販売の許可を出すウサ」

「はあ?」

「はあ?」

ムラサと青娥が一緒に声を上げた。

「いや、あんたは『はあ?』とか言うなよ」

「え、いや、普通は『何が何でも禁止!』とかいうでしょ?」

「そーだけど、お前が言うな!」

ムラサは何かイラッとして言った。


「エイラクマルにはラウンジの他には店らしい店はほとんどないウサ。

 一見、何の役にも立たなさそうな売店でも、買い物をするのは娯楽の一つとして捉えられるウサ。

 娯楽が多様になれば隊員達の士気の低下を防ぐことにもつながるウサ。

 特に当船の任務の性格上、地味で反復的な要素が強くなりがちですからウサ」

てゐはすらすらと説明を始める。

「ふむ、なるほど一理ある」

パープルはうなずいた。

「それから、軍が正式に認めることで軍規に沿って活動しなければならなくなるウサ。

 例えば効果の無いアクセサリーをこんな効果があると謳って販売したら、規則に違反しているから保安部が逮捕できるウサよ」

「なるほど、そういうこと」

パープルはてゐの意見を受け入れたようだった。

「さっすが、元詐欺師」

「うっさい、詐欺師じゃないウサ」

ムラサがニヤニヤしながら言うと、てゐはアカンベーをした。

「チッ…因幡がいたのは誤算だったわね」

青娥は「負け、負け、私の負け」と他人事のように言い、ヘラヘラしている。

「分った、言うとおりにしまーす」

「この女、何を言っても効かないな・・・」

ムラサはやはり頭痛の種だと改めて思った。



このような経緯があって、青娥の雑貨屋が生まれた。

ちゃんと効果があるのが売りである。

値段は高くなるが。


ともかく隊員達だけでなく、ブリッジなどで働いてる民間人にも受けがよいようだった。

そのうちに、軽食や飲料の類いまで売り始めた。

売り子は芳香である。

勘定はラウンジと同じでタブレット等の端末が勝手にやってくれる。

芳香がやるのは商品説明、商品の受け渡し、商品の補充・発注、返品の対応など。

どの業務も青娥が命令構文を組んで対応済みだ。

キョンシーはプログラムをインストールすれば、その通りに働く。

ルーチンワーク従事者としては極めて優秀であった。


「芳香、ニンジンジュースくれウサ」

「まいど!」

てゐが端末をかざすとすぐ売り買いが完了する。

「青娥は?」

ムラサが聞くと、

「娘々は仕入れ先に行ってるのだー」

芳香は即座に答える。

「逆に良かったのか、これ」

「青娥みたいなのは見える処で動いてもらう方が安心ウサよ」

「あー、そんなんもんなのかな」

「あのまま禁止してみろウサ、更に巧妙に地下に潜って手が付けられなくなるウサ」

てゐはなぜか商売や詐欺まがいのやり方に精通している。

ホントは医療士官として入隊してるはずなのだが、人員不足のこの船では以降、この手の案件にちょくちょく引っ張り出されることになる。



「船長、所属不明船が通信を求めてきています」

専門の通信技師などいるはずもなく、ムラサが兼任している。

「通信を許可する」

パープルはすぐに言った。

「モニターに映します」

ムラサが通信チャンネルを開いて相手の映像をモニターに出す。


『初めまして、こちらはアンフィビア商工連合に属するフログ商会船です』

緑色の蛙みたいな生き物が映し出された。

ユーモラスな見た目で、体長50cmぐらいか人間と比べるとかなり小さい。

直立した格好で、宇宙服のようなものを着用していた。


(3へ続く)


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