5話 SFの匂い
パンチ
〇タカシはコアラと会った。自分のやばさを肯定してもらうため、と4:44分の話を聞いてもらうためだ。タカシは思っていた。自分のやばさは自分で肯定すれば良い、と。しかし、唯一のおれのことをやばいと理解した男、コアラ。タカシはこれまで肯定されることを知らなかった。一度肯定される嬉しさを知ってしまったら避けるのは難しい。
タカシたちは安居酒屋勝男でプレーンチューハイを乾杯した。覇気のないバイトが唐揚げを運んでくる。この男も自分の時間になれば元気なのだろうと思った。バイトなんか無心でしかできない。間違いない。
「なあ。コアラ」
「なに?」
「お前が小学生の頃4:44分の都市伝説ってあった?」
「なにそれ、そんなのあったかな」
コアラは唐揚げにかぶりつくのに必死で話には興味なさげだ。タカシは真剣に言った。
「4:44分に目が覚めると四次元に行く」
「嘘つくなって」
「だから、都市伝説だって。本気で言ってるわけないじゃん」
「ああ、都市伝説ね」
「そうだよ」
コアラは唐揚げをプレーンチューハイで胃に流し込んだ。タカシはピース・ライトに火をつけた。
「で、どう思う?」
「四次元に行くかって?いや、そんなわけないじゃん。都市伝説だろ」
「それはそうだけど。お前が小学生の時流行ったか?」
「いや、聞いたことないよ」
「じゃあ、おれの小学校だけか」
「なんで急にそんなこと思い出したの?」
「最近、4:44分周辺で起きるんだ。4:43分とかに」
「なるほど。たまたまでしょ」
「たまたまならいいけど」
「何、もしかして、四次元に行ってしまうかってビビってんの?」
「いや、そらビビるだろ。四次元はやばいでしょ。てか四次元ってどんなところだよ。やばいだろ。四次元で生きていける自信はさすがのおれもないよ」
「タカシ、やばいって。そんなんありえへんって」
「おれはやばいけど、冷やかしにやばいを使うな」
「えって、やばいって。真剣になやんでるのやばいって」
「お前、コアラ、まじで、えって、だるいって。お前にはわからんやろ。マジで今日も寝るの怖いねんから」
コアラはプレーンチューハイを一口飲み何か思いついたように言った。
「じゃあ、おれが4:44分にアラーム鳴らして起きてみるから、それでおれに何も無かったら安心じゃない?」
「まあ、そうやな。4:44分に起きて、何もなかったと言う実例があれば安心できる。まだ実例が無いからな。世の中の行方不明事件は、誘拐でも無く、児童買春グループの仕業でもなく、4:44分が原因かもしれんのだから」
「タカシ、お前、マジでやばいやろ。シリアスなりすぎやって」
「こんなんシリアスになるやろ」
タカシはコアラにバカにされてるみたいでむかついた。
「こいつはおれのことやばいって褒めときゃ良いんだよ。バカにしやがって。こいつほんとはおれのやばさがわかってないな。だましやがって。どうせこいつも笑ってんだ。」
タカシは「かごめかごめ」をまた思い出した。みんなが笑いながらおれの周りを回ってる。笑ってるのはわかるが、なぜ笑ってるかはわからない。ただみんな笑ってる。誰かがおもしろいことを言ったわけじゃない。なのに笑ってる。おれ以外みんな笑ってる。おれだけ笑ってない。みんなには共通の笑いの種があり、おれにだけそれが無い。みんな笑ってる。おれの周りで輪になって笑ってる。
タカシはゲロを吐きそうな気分で家に着いた。気分は最悪だった。
「おれはやべえ」
トイレに駆け込み、嗚咽した。
「おれはやべえ」
何も出ない。口の中に指を突っ込み。喉ちんこをつまむ。胃の中のものがポンプされマーライオンの如く取り込んだ食物がトイレに流れ込む。
「おれはやべえ」
「おれはやべえ」
「おれってやばくないの?」と言う言葉もゲロと一緒に吐き出しそうになったが飲み込んだ。
「おれはやべえ」
タカシはゲロ臭いまま布団に入り眠った。
目が覚める。即座にiPhoneで時間を確かめた。
4:45分が4:46分に変わったところだった。
タカシは頭を抱えた。また、この時間帯だ。もうやばい。そろそろ4:44分が来る。絶対やばい。毎日毎日この時間って流石に何かある。4:44分が絶対来る。
くれえ