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タカシマン~転生したら  作者: やわらか渓谷
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1話 文豪がここにいる

パンチ

〇ヤバいなと思った。彼女はおるけどそれ以外何もなくてヤバい。てか、おれ彼女がおっても救われないってゆう日記、高校の時からずっと書いてる気がする。進歩と言えば彼女がおるから大丈夫って日記も書くようになったことくらいな気がする。無力すぎて逆にポジティブなってる。わらけてる。今日から小説でも書く。てかhiphopしたい。バンドじゃなくてhiphopしよって頼もうかな。さすがにキレられそう。


 おれとか僕が主人公じゃない小説書きたい。書き方わからんけど名前のある主人公の小説。


やはりタカシでいいや。


ではいきます。




 タカシは激怒した。バイト先のマスターの女癖の悪さに激怒した。全く持って美しくない。こんな男が作る料理が美味いわけがない。なんでこんな男の店が10年ももっているのだ。世の中というのは美しく回らないものだなと思った。毎日店に来るの不倫相手の主婦。ダブル不倫である。この二人はいつもおれが17:30に出勤するまで夕方のニュースを見てるのだがダブル不倫のニュースが流行った時どういう感じだったのだろうか。


コメンテーター「不倫はけしからんですね」


二人「。。。。(気まずい雰囲気)」


なのだろうか。


コメンテーター「不倫はけしからんですね」


二人「パンっパンっパン(セックスする音)客席でするセックス気持ちいいいいい」


なのだろうか。


 マスターの不倫相手が二人店に居るときもある。片方はいつも店にいる本命、片方はたまに夜遅めに店に来る40女である。40女はたぶん本命女とマスターの関係を知ってるだろう。本命女とマスターの関係は常連客のほとんどが知ってる。しかし本命女はマスターが他の女とも不倫してるなんて夢にも思ってないだろう。マスターの女は嫁と私。いやむしろ嫁より私と思ってるだろう。嫌な世界である。世界は嫌なこととそれを知らぬという幸せで成り立っているらしい。


 タカシは激怒したのだが、別にメロスのように正義のために動くことはしない。不倫ごときでキレれる世界じゃない。これまでのタカシの経験上、嫌悪感を覚えるものはだいたい自分もその性質を抱えているものだ。糞の役にも立たない経験上の教訓である。毎度、嫌悪感を覚える度「この性質はおれも抱えてる」なんて考えていたら、嫌なものを嫌と言えなくなる。同族嫌悪だったとしても嫌なものは嫌なのだ。貞節を守ってる人間の方が珍しいし、メンタルが異常である。


 この前店に黒人がきた時の黒人の話である。


 彼女はいっぱい必要よ。14人必要よ。一人でいいわけがないよ。一人だと裏切られるよ。14人いても裏切られるがあと13人いる。おれは黒人だし嫌がられてるかもしれないよ。捨てられるかもしれないよ。だから一人じゃダメよ。いっぱいいる。女は汚いよ。かわいいが汚いよ。怖いよ。女の汚さにいちいち頭を悩ましてたら頭が固くなるよ。おれは黒人だから、いや、黒人だからなんか関係ないよ。黒人同士でもそうなるんだから。彼女はいっぱい必要よ。


 タカシは間違いないなと思った。マスターは黒人の話を笑っていた。確かにマスターの不倫にはこの黒人のような悲壮感はない。あるのはあるのだろうが無い。隠れている。タカシは黒人を可哀そうだなと思った。自分のことも可哀そうだなと思った。信じあえる世界は無いのか。信じる者も可哀そうだし、信じないものもまた可哀そうである。信じるものは救われるが、だいたい辛い思いをする。マスターの本命女がそうだ。私が嫁の次、いや、嫁より私と思って疑わないのだから幸せだが、本当のところはマスターは私の幸せを横目に他の客の女ともセックスしてるわけである。「信じる者は救われる」は真実だが、コケにされる。


 タカシは世界のすべての男女に嫌悪感と不信感を抱きながらその日帰宅した。


 タカシは自分をセンスの塊だと思っていた。何の?と言われれば困るがセンス塊なのは信じて疑わなかった。センスである。謎の自信である。この自信のありようがセンスと言ってもいいくらいだった。センスがありすぎてこの前、「逆にセンスって何?」と迷走する有様だった。センスのゲシュタルト崩壊である。


 はっきり言ってタカシのセンスには疑うべき点があった。


 先ず服装がダサいところである。ダサい服装で「おれセンス」と言われてもってヤバいって話である。ダサいくせに「おれヤバい」とか言われても逆にヤバいって話である。


 それから次に何もないところである。タカシには何もないのである。特筆すべき特技や性質が無いのである。あるのは自分のセンスを疑わない心だけである。それだけである。タカシのこの心は自分のミテクレの悪さが起因していた。タカシはイケメンはイケメンなだけという偏見があった。イケメンはイケメンなだけ、イケメンである故に何不自由なく暮らせる、他のものを必要としないから、他のものを持っていない。だからイケメンはイケメンなだけ。だけどイケメンじゃないおれにはその分何かがある。センスがある。ということらしい。しかしタカシには何もなかった。センスを疑わぬ心だけがあった。イケメンじゃないことと引き換えにセンスを疑わぬ心を手に入れたのだ。イケメンは「イケメン」という最強アイテムを手に入れ、一方、タカシは「センスを疑わぬ心」というやわらかアイテムを手に入れたのだ。肝心なセンスと言うものは手に入れれなかったらしい。タカシはセンスの無い服装をしながら今日も「おれセンスやべー」と言っている。

パンチ

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