羽化登仙
兄サマ、小夜は心配です。
兄サマはアベコベになさらないと気がすまないと聞いております。
すなわち、男に女の着物を着せ、女に刀を握らすのがお好きだとか。
私に光を与えると言っておきながら、目を潰し、伊勢参りに行くと言って足を切り、念仏を唱えよとけしかけ、舌を引き抜いておしまいになった。
いいえ、決して恨んでいるのではありません。
兄サマに連れだしてもらえなければ、私はずぅとあの洞穴の中にいたでしょう。
洞穴の中には蛇がいて、私を縛り付けて穴という穴を犯すのです。
それにくらべれば、なんのこれしき小夜は耐えて見せましょう。
兄サマが本当の兄サマでないことも小夜は存じております。
アベコベですから姉サマですか、弟サマですか、それとも小夜が弟になるのですか? もはや何が何やら。
変わらず言えるのは兄サマは兄サマで、小夜は小夜であることです。
小夜が滅んでも蝶になって舞い戻ります。
だから、
だから、
ね?
もうアベコベはやめにしませんか。
小夜は蛹になったから、
兄サマだけの蝶になるから、
だからもう……