3回戦 後編
「“白い花“、3人目、前へ!」
審判に言われて、3人目が壇上に上がる。すると、観客席がザワつく。
「おい、あれって!」
「エイーダじゃねぇか!」
「あのドラゴンスレイヤーか!」
「キャー、エイーダ様~!」
歓声に包まれながら、エイーダがレイナの前まで来て、
「ふん、こんな子供にやられるなんて、あの子たちも大したことないね。」
「なんですって!」
「1つ言っとくけど、あの子たちと私を一緒にしないようにね。殺すつもりできな。」
そう言って、踵を返し、所定の位置まで下がった。
「お二人とも、準備はよろしいですか?」
2人ともコクリと頷いた。
「それでは、始め!」
始めと声がかかるが、2人とも間合いを空けたまま動かない。
「ど、どうしたんだ!?」
「馬鹿、隙をうかがってんだよ。」
「それほどの相手か、“天の子猫“は…」
しかし、それを知ってか知らずか、2人の考えていることは、
(く、この子、隙が無い!)
(…隙だらけなんだけど、この人本当に強いの?)
全く逆のことを考えていた。勿論、並みの人ならエイーダに隙は無さそうに見えるだろう。しかし、ラトリスから特訓を受けたレイナには、相手の隙は観察眼で既に見切っていた。
「そっちが来ないなら、こっちから行くわ!」
レイナは思いきり相手に向かって進むと、横凪に剣を振るった。すんでのところでエイーダが攻撃を躱すと、今度は袈裟切りをレイナに見舞う。しかし、それを予測していたかのように、打ち下ろされた剣先を、ラトリスのように指で摘まんで防いでしまった。
「なっ!」
「このスピードなら、マリアの方が圧倒的に早いわ。」
剣を摘まんだ指をスナップさせると、剣に圧力がかかり、中程で折れてしまった。
「どんな力なの!?」
「すげえよ、マジですげぇ…」
観客席からは喝采の嵐が吹き荒れる。
「剣も無くなったし、勝負ありよね?」
「くっ、まだだ!」
そう言って、剣を捨てて、懐に隠していた小型のナイフを取り出し、レイナに襲いかかるが、
「ふっ!」
気合を入れて、ナイフを握っていた手をレイナが蹴りとばした。愕然として、エイーダは動く気配が無いので、レイナは首筋に手刀を決めて気絶させた。勝負は呆気なくついた。
「勝負あり!」
審判からも、レイナの勝利が告げられた。
「実のところ、ちょっと油断してたんだけどね。」
レイナは独り言を言っていたが、それを聞いていたものはいなかった。壇上からエイーダが降ろされると審判が、
「4人目、前へ!」
と、声がかかった。“白い花“の4人目は、化粧の少し濃い人だった。
「エイーダまでやられるなんて、思って無かったわ。」
「どうするの?やるの、やらないの?」
「ふん、小娘が。やるに決まっているでしょう。」
そう言って、壇上に上がると、所定の位置につく。準備は出来ていたので、審判に合図を送る。
「それでは、始め!」
審判の号令と同時に、
「フラッシュ!」
いきなり強い光が会場を照らした。対戦相手が目潰し用の無属性魔法フラッシュを使ったのだ。会場内がザワつく。
「くそっ、目が見えねぇ!」
「うわぁ!」
「キャー、誰よ、変なところ触らないで!」
そんな声が響く中、
「クックックッ、どうかしら?あれだけの光をまともに受けたんだ。暫く何も見えないでしょう?あなたは特別に痛めつけてあげるわ!」
そう言って、ゆっくりとレイナに近付いていき、次の瞬間、レイナの回し蹴りが対戦相手のこめかみに直撃した。
「ふぎゅ!」
変な声を上げて気絶したのか、全員の目が元通りになるまで襲ってこなかった。目が慣れて、全員が壇上を見るそこには、普通に立っているレイナと、倒れている相手選手がいた。審判は、
「て、“天の子猫“の勝利です!」
と、叫んだ。次の瞬間、観客席からは大喝采が起こった。
「すげえ、4人抜きだぜ!」
「最後の試合が見れなかったのは残念だ。」
「Gクラスなのに、凄いわ!」
そんな声が響いていた。レイナが壇上を降りると、
「レイナ、お疲れ様!」
「おめでとうございます。」
「お姉ちゃん、強いね!」
マリア、ミーア、ミーナが声をかける。
「まあ、相手があの程度なら負けはしないわ。」
レイナはふふんと自慢げに鼻を鳴らした。
「最後の回し蹴りは見事だったな。」
「そうでしょう、って、ラトリスさん、見えていたの!?」
「まあな。以前、お前達に始めて会ったとき、俺は仮面を付けていただろう?」
「そういえば…」
「あれは、視力などの強化を施した仮面でな。あれを付けて特訓したお陰で、あの程度の光の中なら目はしっかり見えるんだ。」
「そんな効果が…」
「ともあれ、4人抜きおめでとう。」
「あっ、有難う。」
「さて、明日もまだ試合があるからな。今日は宿に泊まるか。」
そう言って、会場をあとにするラトリス達だった。
読んでくださっている方々、有難う御座います。