“鋼魔“との対決
一時間後、ラトリス達は大会会場へ来ていた。そこには街中の人よりももっと多くの人々が集まっていた。
「凄い人の数ですね。」
「本当、緊張するわね。」
「ミーナ、迷子にならないようにね。」
「うん、ママ。手を繋いでていい?」
それぞれ思うことを言っていたが、ラトリスだけは、
「はぁ…面倒くさい。」
そう言っていた。
会場の入り口でギルド名を言うと、
「出場者はそちらの階段から上って下さい。」
そう言われたので、階段から上へあがる。階段を上がった先の部屋には出場者達が沢山いた。色々な話が聞こえてくるが、全てを無視して、受付に話をすると、
「“天の子猫“ですね。早速1回戦目ですから、もう出場していただきますが、よろしいですか?」
と、言われた。
「えっ、もう戦うの?」
「こちらでくじを引きまして、順番はもう決まっています。“鋼魔“の方々も、もう準備は整っていますよ?」
「解った、行こうか。」
そう言って、試合会場へ5人で向かった。
「あぁ、ドキドキしてきた。」
「マリア、あなたが戦う訳じゃないでしょ?」
「ラトリスさんの戦い方、とくと見せていただきますよ。」
「お兄ちゃん、頑張って!」
「…了解。」
そんな話をしながら進むと、会場に着いた。既に対戦相手の“鋼魔“の4人は準備万端だった。
「それでは始めます。準備は大丈夫ですか?」
「何時でもいいぜ、こっちは。」
「その前にルールはいいのか?」
「そうでした。相手の選手を全員倒せば勝利です。」
「殺してもいいんだよな?」
“鋼魔“の選手がそう言った。
「構いませんが、穏便にお願いします。」
「あれだけ大口を叩いたんだ、ギブアップは認めないよ。特に君はね。」
ラングがラトリスに向かって言った。
「…はぁ。」
「やる気あるのか、てめえ!」
「観客もいないんじゃ、実力出してもしょうがないだろう?」
ラトリスが乗り気が無いのはそういう理由だったようだ。
「それでは1名ずつ、壇上へ上がって下さい。」
ラトリスともう1名が壇上へ上がった。
「手加減は不要だ、かかってきな!」
「それはこちらの台詞だ。」
「それでは、始め!」
太鼓が打ち鳴らされると同時に、相手選手が突っ込んできた。それを冷静に見て、ラトリスは後ろへ回り込んで首筋に手刀を叩き込んだ。相手選手はもんどり打って倒れた。
「Sクラスだろうと、Gクラスだろうと関係無い。やることは一緒か。」
「そこまで!しょ、勝者“天の子猫“!」
「やったー!」
「相変わらず凄い早業ね。」
マリアとレイナは感激していた。
「ねー、今何をしたの?」
「一撃で昏倒させたの。早くてミーナには見えなかったわね。」
解らなかったミーナにミーアが説明をする。
「“鋼魔“の選手、前へ!」
「油断するな、落ち着いていけ!」
「解ってるわ!」
2人目の女が前に出る。
「それでは、始め!」
始まりと同時に、
「サンダーボルト!」
女がまほうを唱えた。しかし、
「クリア!」
ラトリスは冷静に相手の魔法を打ち消した。
「くっ、バーニング!」
「クリア!」
「アイスランス!」
「クリア!」
「さっ、サイクロン!」
「クリア!」
次々と魔法を唱えるが、掻き消されてしまい、為す術が無かった。
「はぁ、はぁ…」
「魔力切れか?じゃあ終わりだ。」
ラトリスは高速で接近して鳩尾に右拳を叩き込んだ。その一撃を受けて、女は倒れた。
「早い!」
「高速移動からのパンチ、凄まじいわね。」
「今のも見えなかった。」
「ふふ、しょうが無いわよ。」
あまりにも呆気ない幕切れだった。
「“鋼魔“の選手、3人目を。」
「くそ、どうなってるんだ!」
「相手はGクラスだぞ!?」
「次はどっちだ?早くしろよ。」
そう言われて、男が上がってくる。
「俺の剣でぶっ殺してやる!」
「やれるもんならな。」
「それでは、始め!」
試合が始まると、男は突っ込む事は無く、構えままジリジリとにじみ寄る。間合いをとって、用心深くラトリスの動きを見ていた。しかし、
「くっ、まるで隙が無い。」
冷や汗をかきながら、間合いを詰めようとするが、全く構えていないにもかかわらず、ラトリスには隙が全く無かった。
「来ないのならこっちから行くぞ。」
ラトリスはそう言うと、一歩一歩前へと進む。男は恐れをなして、
「まっ、待った!俺の負けだ!」
そう宣言した。
「威圧感が凄かったのかな?」
「いえ、殺気じゃない?」
何の苦労もなく、3人を瞬く間に倒してしまった。
「何だ、拍子抜けだな。最後のお前はどうするんだ?」
ラトリスが最後に残ったラングに対して言うと、ラングは、
「やるさ。」
と言った。壇上に上がって身構えるラングに対して、ラトリスは相変わらず構えもしなかった。
「…一体、何処でそれだけの実力をつけたんだ?」
「…?」
「その実力、まさしくSクラス並みだろう。」
「良く聞かれるが、ただのGクラスさ、俺はな。」
「嘘をつくな!私達全員Sクラスなんだぞ、それを楽々と破っておいて、白々しいにも程がある。」
「知ったことか。最強とか、最弱とか関係無い。俺は強くなるためなら何でもしてきた。実力をつけたいなら、努力するしか無いんだよ。」
「くっ!」
「始めて下さい!」
始めの合図で、ラングは剣を抜いて突っ込んで来た。袈裟切りに襲いかかってきたラングの一撃を、左手の、それも指二本でラトリスは受け止めた。
「Sクラスを誇りたいなら、1から出直しな!」
そう言って、ラトリスはラングの顔に右手でパンチを見舞った。ラングは吹き飛び、地面に落ちた。勝負は直ぐに決してしまった。
「“天の子猫“の勝利です!」
そう宣言されて勝負はついた。
「はぁ、面倒くさいな。」
ラトリスはそう呟いた。
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