ラトリスの過去 その9
ソフトバンクが勝って嬉しいので書きました。ちょっと暗い話です。
三人が城に泊まって四日目の夜、ラトリスは不意に目を覚ました。
「…」
何か胸騒ぎがすると思い、部屋の窓から空を見ると、月の光に照らされて、何かが飛んでくるのが見えた。
「…まさか!」
ラトリスは急いでコートを羽織ると、部屋を出て物見櫓へ走った。物見櫓には兵士がいて、
「ラトリス殿、どうかしましたか?」
と、聞いてきた。
「空を見ろ!」
ラトリスは反射的にそう叫んだ。何事かと兵士が空を見ると、空を何かが飛んでいる。それも1つでは無い、複数の物体が空を飛んで此方へ向かっていた。
「なっ、なんだ、あれは。」
「…飛龍だ。」
「ひっ、飛龍!?」
「全員叩き起こせ!大変なことになるぞ!」
そう言って、ラトリスはフライの魔法で空へ飛んだ。迎撃するつもりだった。
「この数、半端な数じゃないぞ、くそっ!」
何とか街にプロテクトの魔法をかけたが、何体か侵入を許してしまっていたらしく、ファイアドラゴン4匹が街へ飛来してしまった。
「グギャオオオォォ!」
飛来したファイアドラゴンは火を吐いた。街が火の海になっていく。ラトリスは慌てず、ドラゴンの背中に乗り、剣を異空間から取り出して突き刺す。いとも簡単に心臓に突き刺さり、ドラゴンは息絶えた。同じ要領でフライの魔法を駆使し、4匹のファイアドラゴンを駆除した。
「やれやれ、こんなのが後何匹いるんだ?」
地上に降りて、ドラゴンの死体を回収したラトリスは、一旦城へ戻ることにした。城に戻ると、マリクとレイカがレイナード達と一緒に謁見の間にいた。
「ラトリスさん、一体何が!?」
「落ち着けよ。ドラゴンの襲撃だ。街が火の海になってる。レイナード、兵士や騎士達に街の救出活動の要請を。」
「わっ、解った。ラトリス殿は?」
「…俺はプロテクトの向こう側にいる奴らを片付けてくる。」
「大丈夫なのか!?」
「ドラゴン退治は慣れている。背中に乗れれば楽勝なんだ。」
「ラトリス…」
ララが近付いてきて、
「どうか無事で。死なないでね。」
と言った。ラトリスは笑顔で、
「大丈夫だ、ララ。お前達は必ず守ってみせる。無論、この城も街もな。」
そう言って、踵を返した。
「待てよ、ラトリスさん。」
「私達も行くわ。」
マリクとレイカがそう言った。だが…
「二人はここでララ達を守ってやってくれ。お前達じゃまだドラゴンの相手は出来ない。」
「でも…」
「…足手纏いはいらない。俺に任せろ。レイナード、兵士達にも言っておいてくれ。ドラゴンの相手は俺がするとな。」
「解った、ラトリス殿。宜しく頼むぞ。バーグ。」
「はっ!」
「皆に伝えよ、ラトリス殿の邪魔をするなとな。」
「解りました。ラトリス殿、御武運を!」
「任せておけ。」
それだけ言って、ラトリスは出ていった。
「くそっ!俺達に力があれば…」
「マリク、街の方を見に行きましょう…」
「でもラトリスさんが…」
「ここにいるよりも、街の人達の救助をしている方が良いと思うの。国王陛下、許可をお願いします。」
「本気なのか?ここにいれば安全だと思うが?」
「何か出来ることがあるはずです。少なくとも、兵士や騎士達より強いんですよ、私達?」
「そうか…ならば無理には止めん。だが無理はするなよ。」
「はい、無事に帰ってきます!」
「行って来ます。」
そう言って、二人は出て行ってしまった。
二人が謁見の間を出ると、ミーアが立っていた。
「お待ちください、お二人とも。」
「ミーアさん、止めないでください。」
「いえ、私もお供します。お二人はこの王都の事を何も知らないでしょう?」
「そっか…なら道案内を頼めるかい?」
「お任せを!」
ミーアが走り出し、二人も続いた。街は最早地獄絵図と化していた。泣き叫ぶ人達の救助をしている兵士や騎士達と同じように、安全な地域へと人々を誘導していく。
「こっちだ、早く!」
「そっちは危ないわ!城の方へ急いで!」
三人がなるべく安全な方へと人々を誘導していると、小さな女の子が泣いているのをレイカが見つけた。危うく上から屋根の残骸が降ってくるのをマリクが払いのけ、ミーアが救出する。
「ママ…」
「大丈夫か!」
「はい。気絶したようですが、命に別状はなさそうです。」
「よかった!」
三人は集まって話をする。
「これじゃきりが無い。ミーアさん、俺達やっぱりラトリスさんのところへ行くよ。」
「…!」
「何も出来ないことは解ってる。でも、あの人は大切な仲間なの。ほっとけないよ。」
「…解りました。私はこの子を連れて、城に戻ります。しかし、必ず戻ってきてくださいね。」
「あぁ、約束だ!」
「また後でね!」
そう言って、二人で走って行ってしまった。目指す場所は、ラトリスの元だった。
ファイアドラゴンを30匹ほど倒して、ラトリスは考えていた。
(おかしい。ドラゴンがなぜこんなに多いんだ?)
本来ドラゴンは群れたりしない種族である。それが少なくとも50匹を超えて人間の街を襲う。おかしな事態があるものだとラトリスは考えていたのだ。
(まさか、この街に何かあるのか?いや、城か?)
そんなことを考えながら、倒したドラゴンの死体を異空間へと入れていく。50匹目を倒した頃、
「ラトリスさん!」
地上から声がした。ラトリスが見ると、そこにはマリクとレイカがいた。
「なっ!」
「助けに来たぞ!」
「あと10匹もいないわね!楽勝よ!」
そんな二人に気づいたのか、1匹のファイアドラゴンが口を開け、そっちに向けた。
「危ない!」
ラトリスが叫ぶとほぼ同時に、ファイアドラゴンが炎を吐いた。
「うわぁぁぁ!」
「きゃあぁぁ!」
「マリク、レイカ!くそったれ!」
ラトリスはファイアドラゴンにめがけて飛び、心臓を突き刺して倒していく。全てのドラゴンを倒すと、ラトリスは二人を探した。そこには…焼け爛れた二人がいた。ある程度の傷ならばヒールで治るが、最早治るような状態ではなかった。
「マリク、レイカ!しっかりしろ!」
「…ラト…リスさん…」
「死ぬな、気をしっかり持て!」
「…有…難う、今まで…楽し…かったよ…」
「私…も…」
「馬鹿野郎、何でこっちに来たんだよ!城にいろって言ったじゃないか!」
「…へ…ひっ、一人で…何で…も出来るあん…たを見てると…辛そうに…見えて…」
「くそっ…もういい、喋るなよ!くそったれ!ヒール!」
必死に回復魔法をかけるが効果はなかった。
「ラト…リスさん、有…難う…もう…いい…よ」
そう言って、レイカが事切れた。
「くそっ…レイカ…俺も…一緒に…向こうで…結こ…」
マリクも続いて事切れた。
「マリク…レイカ…嘘だろう?まだ…まだ何も出来てないじゃないか!楽しいことも、辛いことも、三人でやっていこうって…言ったじゃないかぁぁぁ!!!」
その場に1人残されたラトリスは、泣き崩れた。ただただ泣いた。
マリクとレイカ、もうちょい活躍させてもよかったかなぁと思いました。
読んでくださっている方々、有難う御座います。




