ラトリスの過去 その3
気がつけばもう昼か。ソフトバンクホークス勝つかなぁ?
ラトリス達がフィリンに着いたのは夕方だった。どこにも寄らずに屋敷へと向かうと、1人の男が迎えてくれた。
「これはこれはバーグ様。どうされましたか?」
「久しぶりだな、トム。ラトリス殿、此方はこの屋敷を管理しているトムと申す。トム、此方はラトリス殿だ。」
「ラトリス様、初めまして。」
「あぁ、初めまして。」
「お疲れでしょうから、まずは中へ。」
そう言われて、トムに続いて中へ入る。ただの避暑地には見えないほど豪華な屋敷だった。
「それで、国王陛下や王妃様は一緒では無いのですか?」
「国王陛下は病気にかかっていたんだ。」
「病気というより怪我だけどな。」
「それはまた…大変で御座いましたな。」
「うむ。それを救ってくれたのが、ラトリス殿なのだ。それで、国王から言付けでな。この屋敷をラトリス殿に譲ると。」
「なんと。そう言うことで御座いますか。1人では寂しく感じておりました。」
「国王からの言付けはそれだけでは無い。フィリアに戻ってこいとのことだ。」
「なんと…最早私めはお役御免と言うことですかな?」
「余生はフィリアで送る、そう言っていたではないか。それに、ここに居てはラトリス殿に迷惑がかかるだろう?」
「そうだな、あんたに給料も払えないからな、当然っちゃ当然か。」
「そうですな。私は国王陛下に雇われておりますから。解りました、お言葉通り、フィリアに帰ります。」
「うむ。家族も心配しておるからな。トムよ、一緒に帰ろう。」
「今日はもう遅いから、明日にしろよ。それに、トムに頼みがあるんだ。」
「なんなりとどうぞ。」
「俺の到着祝いと、トムの帰郷祝いをやりたい。材料費とかは持つから、料理を作ってくれないか?」
そうラトリスが言うと、バーグとトムは笑った。
「解りました、腕によりをかけてお作りしましょう。」
「トムの手料理か。こいつは楽しみだ。」
その日は豪勢な食事会となった。
あくる日の朝早く、バーグとトムは帰って行った。1人残されたラトリスは、
「取りあえず、掃除からかな。」
そう言って、クリーンの魔法を屋敷にかけた。元々綺麗にしてあったのだろう、特に何も変わらなかった。二階に上がり、何も置いていない部屋を見つけた。
「倉庫にぴったりだな、要らないものはここにしまうか。」
そう言って、アクセスの魔法を使い、異空間から物を取り出していく。部屋は充分広く、荷物を入れてもまだまだ余裕があった。結局昼までかかってしまった。
「腹減ったな。」
1人愚痴って、外へ出る。空き巣避けに屋敷にプロテクトの魔法をかける。
「用心に越した事は無いからな。」
そう言って、街へと出て行く。取りあえずギルド協会へと向かうことにした。フィリンのギルド協会はフィリアに比べると少し小さかった。中へ入ると受付が見えたので、そちらへ向かう。
「いらっしゃいませ、あら?冒険者かしら?」
受付で若い女性に話しかけられた。
「まだ14で、登録は出来ないんだ。」
「あらら、じゃあどうしたんですか?」
「この街の地図が欲しい。ついでにオススメの飲食店があったら教えて欲しいんだ。」
「なるほど、ちょっと待ってて下さいね。」
そう言って、地図を探す。
「ありました!これをどうぞ。」
「有難う。」
「後、オススメのお店ですけど、満腹亭なんて如何でしょうか?」
「それは何処にあるんだ?」
「えーっと、地図で言うと、この辺りですね。量が多くて、安いんです。しかも美味しい。」
「夢のような場所だな、有難う。」
「あっ、15になったら冒険者になるんですか?」
「そのつもりだ。」
「じゃあその時は、私が専属になりますよ。」
「そうか、俺はラトリス。あんたは?」
「私はミクって言います。宜しくね、ラトリスさん。」
「あぁ、また会おう。」
そう言って、ギルド協会を出て行く。目指す満腹亭は直ぐに見つかった。
「ここか…流行って無さそうだが。」
そんなことを呟きながら中へ入ると、誰もいなかった。
「あれ?やってないのか?」
そう言うと、中から女の子が出てきた。
「いらっしゃいませ、お一人ですか?」
「あぁ、一人だ。」
「カウンターへどうぞ!」
元気の良い子だった。席に案内されると、
「オススメの料理はあるか?」
と、聞いてみた。
「日替わり定食がオススメです!」
そう言われて、それを注文した。直ぐに水が出てきた。
「俺は水なんか頼んでないが?」
「サービスです。おかわり自由なんで、いくらでもどうぞ。」
そう告げられて、その水を飲む。…美味い!そう感じてしまった。
「ただの水でこんなに美味いなら、料理も期待できそうだ。」
ラトリスはそう呟いて、料理が来るのを待った。暫くして、
「お待たせしました。日替わり定食です!」
そう言って、料理が運ばれてきた。ハンバーグだった。少し焼き過ぎでは?とも思ったが、口に運ぶと途轍もなく美味かった。一瞬で平らげて、水をおかわりし、それを流し込んで一息つく。
「ふう、美味かったよ、ご馳走様。」
「お客さん、良い食べっぷりですね。」
「そうか…」
自然とラトリスから笑みがこぼれた。
「この店は1人でやってるのか?」
ラトリスが質問した。
「いえ、父さんとやっているんですけど、今仕入れに行ってるんです。」
「そうなのか?」
「そろそろ帰ってくる頃なんですけどね。あっ、帰ってきました!」
そう言って、扉を開けに行く。すると、これぞマスター!と言える様な屈強な男が中へ入ってきた。
「ん?誰だお前は?」
「お父さん、お客さんだよ。」
「…そうか。坊主、いい目をしているな、名前は?」
「えっ、男の人だったんですか?」
「俺をなんだと思ってたんだ?」
「男の人の喋り方をする女性だと思ってました。」
「まあ、よく間違えられるけどな。俺はラトリスだ。あんたは?」
「わしはガルフ。そして…」
「カレンです。宜しくね、ラトリスさん。」
「見たところ、冒険者か?」
「いや、14歳だから、まだ登録できないんだ。」
「ほう、それはまた。この街は初めてだろう?」
「よくそんなことまで解るな。」
「ふん、この街で情報屋もやっているからな。聞きたいことがあったら何でも聞け。料金次第で教えてやる。」
「そうか…世話になる事もあるかもな。取りあえず、今日は食事をしに来たんだ。ミクさんていうギルド協会の受付に聞いてな。」
「ほう、ミクと知り合いなのか。なら、カレン。」
「はい、お父さん!」
そう言って、カレンは奥へと下がり、2分ほどで出てきた。手には山盛りのフルーツが載せられた皿を持っていた。
「それも食べろ。」
「いや、いきなりなんだよ?もう飯は食ったぞ。」
「そいつはサービスだ。あいつの紹介ならこの辺のことは聞いているだろう?」
「いや、何も。でも好意には甘えるよ。」
そう言って食べ始めると、どれも新鮮で甘かった。
「ふぅ、ご馳走様。美味かったよ。料金は?」
「はい、日替わり定食1つで300ガルドです。」
「…えらく安いな、儲けはあるのか?」
「店は趣味みたいなもんだ。その分情報は高いけどな。」
「そうか、また寄らせてもらうよ。じゃあな、ガルフ、カレン。」
「おう、また来いラトリス。」
「またね、ラトリスさん。」
そう言って店を出た。
(呼び捨てにされても嫌じゃ無かった。不思議な人だったな。)
心の中でそう思いつつ、貰ったばかりの家に向かって歩き出した。
読んでくださっている方々、有難う御座います。




