ギルド協会への報告
毎度有難う御座います。この章もこれで終わりです。
5人は屋敷まで帰ってきた。
「ここが家だ。2人の部屋なんだが、二階の何処を使ってくれても構わない。ただし、マリアとレイナの部屋以外でな。」
「それは解っております。」
「お兄ちゃん、本当にここに住んで良いの?」
ミーナは少しだけ心配そうな顔をした。
「あぁ、2人も家族みたいなものだ。これから宜しくな。」
ラトリスがミーナの頭を撫でながら言う。実に微笑ましい光景だった。
「しかし、やることがあるから、ミーア、家のことは頼む。ミーナは俺達と一緒に来い。」
「?何処へ?」
「ギルド協会にだ。依頼クエスト終了の報告が必要なんだ。」
「だとしたら、私も一緒に…」
そうミーアが言うと、ラトリスは首を振り、
「病み上がりなんだから、部屋を決めたら直ぐに寝ていろ。今日は家事も何もしなくていい。んー、マリア。」
「はい。」
「一緒にいてやってくれ。無茶しそうだから。」
「そうですね、解りました。」
マリアが一緒に残ることになった。ラトリス、レイナ、ミーナの3人はギルド協会へと向かった。
ギルド協会は少しだけ人が多かった。しかし、受付には殆ど並んでいなかったし、ミクが直ぐに対応してくれた。
「ラトリスさん、レイナさん。クエストはどうでしたか?」
「やあ、ミクさん。無事に依頼は終わったよ。」
「クエストの内容も聞いていなかったので、心配していたんですよ?それで、どのような依頼だったんですか?」
ミクが聞いてきたので、ラトリスはミーナに説明をさせる。
「ママの病気を治してもらいました。」
「へぇ、そうだったんですね。で、どのような病気だったんです?」
「ウイルス性の心臓病だ。」
ラトリスが言った。
「はい、心臓病…はい!?」
「声がデカいな。ウイルス性の心臓病だよ。」
「そんな…心臓病は治らないって有名な病気なんですよ!一体…どうやって!?」
「だから声がデカいよ。特効薬を作ったんだ。それを飲ませたから、大丈夫だよ。」
「特効薬って、まっ、まさかエリクサー!?」
大音声がギルド協会内に響き渡った。ラトリスは額を押さえて溜息をついた。
「伝説級の薬じゃないですか!どうやって作ったんですか!?」
「たまたま材料はあったからな。その場で調合したんだよ。」
もう隠し通せないと理解したラトリスは、全てを話すことにした。
「もしかして、まだ持ってたりしますか!?」
「残りは持ってるぜ。」
「ギルド協会に売ってください!!!」
「売る気は無いよ。色々問題になるだろうからな。俺が大事に保管する。」
「そんな!?勿体ない…それがあればどんな人でも救えるじゃないですか!だったら、作り方を教えて下さい!」
「…3年前、それで粗悪品が出回っただろう?自分以外がエリクサーを作れるとは思っていない。」
「たっ、確かに問題になりましたもんね。やはり無理ですか。」
「それに…」
ラトリスは後ろを指さして、
「ミクさんのせいでやたらとガンを飛ばされてるんだが?」
レイナが後ろを見ると、凄い形相でこっちを見ている人がずらりといた。
「すっ、済みません。」
「いや、仕方ないさ。」
ラトリスは落ち着いて言った。
「兎に角、今回作った薬は売らないし、もう二度と作り方も教えない。ドルトムントにも報告するんだろ?その旨も伝えておいてくれ。」
「解りました。そうします。」
ミクは納得して答えた。
「それで、今回の報酬ですが…」
「ミーアとミーナからもう貰ったよ。」
「内容の報告を。」
「ミーアとミーナの雇用だ。2人にひと月50万ガルド支払う。その内の20万ガルドを借金の返済に充てて貰う。衣食住は保証するからと、説得はした。」
「もしかして、ミーアさんって…」
「王宮に務めていたメイドだ。」
「まさか…伝説のバトルメイドさん!?」
「だから声がデカい。」
「そりゃ驚きますよ!何処行ったのか、誰も知らなかったんですから!」
「まあ、無事に見つかって良かったよ。」
「そうですね。ミーナちゃん、良かったですね。ラトリスさん、こう見えて優しいですから。」
「はい!」
「そういや、俺を見て女と思わなかったな。」
「だって、胸ないし…」
「…ぷっ!」
ミーナのその言葉にレイナは失笑した。それを見てラトリスは、
「ハッハッハッ、確かにな。」
どうやらミーナは胸で男性か女性かを見極めていたらしい。
「まあ、これから覚えることが多いしな。頑張ろうな、ミーナ。」
「はい、お兄ちゃん。」
ラトリスはミーナの頭を撫でた。
ギルド協会からの帰り道、ミーナはラトリスの背中で寝息をたてていた。
「相当疲れていたみたいね。」
「それはそうだろう。あの森を一人で抜けて街まで来たんだ。たいした子供だよ、この子は。」
「…ねぇ、ラトリスさん。この子をどうするつもり?」
「?どうって?」
「言ってたじゃない。2人にひと月50万ガルド払うって。つまりこの子も家で雇うって事じゃないの?」
「…そうだな。出来ればミーアと同じ道を歩んで欲しいかな。」
「それは、どうして?」
「…ミーアは、優しい女性なんだ。孤児になったこの子を見捨てず、自分の立場を捨ててまでも育てようとした。」
「それは凄いと思うわ。」
「そんな彼女が育てようとしたこの子を、俺も見捨てられない、そう思っただけだ。」
「…あなたも充分優しいわよ?」
「そうか?」
「そうでしょう?見ず知らずなら、私とマリア、いいえ、マリク兄さんとレイカ姉さんも一緒だったでしょう?それを養ってくれてるじゃない。たまに特訓とか言うけど、そんなに理不尽な事は強要したりしない。そんなあなたを、優しいって言わない人はいないと思うわ。」
「…俺は。」
「解ってる。何かを隠しているんでしょう?良いわよ、言わなくても。時が来たら話してくれたら、私もマリアも嬉しいわ。」
「…解った。そのうち話すよ。」
「えぇ。」
レイナは笑顔で言った。
家に帰ると、マリアが食事の支度をしていた。
「「ただいま。」」
「お帰りなさい。」
「ミーアは?」
「二階の、私の隣の部屋を使いますって。直ぐに寝ちゃったよ。」
「そうか…レイナ、ミーナを頼む。俺はマリアの手伝いをするよ。」
「解ったわ。」
「無事に報告出来たんですね。」
「あぁ、報告はバッチリだよ。」
「?」
マリアは少しだけ首を傾げたが、直ぐに調理に向かった。
「ラトリスさん、何かあったんですね?」
「…何故そう思う?」
「なんとなくです。そろそろ付き合いも長いですから。」
「はあ、わずか三ヶ月で見抜かれるようになるとはな。」
「ふふ、観察眼のお陰かも知れませんね。」
マリアは少し笑った。
「レイナはレイナで、少しキツいことを言う子ですから。」
「?レイナに何か言われた訳じゃない。」
「そうですか。」
「…ちょっとな。昔を思い出していたんだ。」
「聞いてみたいですけど、ミーアさんが元気になってからですね。」
「そうだな。その時に話すよ。」
2人は調理を続けた。その日は、精が付く様にと、ドラゴンステーキが多めに出された。
次からはラトリスの過去を少しだけ書いていきます。