ただいまクエスト中
書いてて楽しいことしか書いてません。こんな作品でよければ、これからも宜しく!
クエスト2日目の朝、マリアとレイナはパンの焼ける匂いで目を覚ました。
「ふぁあ、おはようございます。」
「おはよう…ムニャムニャ…」
「おはよう。よく眠れたか?もうすぐ朝食の準備が出来るから、川で顔を洗ってくると良い。」
ラトリスにそう促され、二人で顔を洗いに行く。
対岸では鹿のようなエルクと呼ばれる生き物が水を飲んでいた。
「そういえば、夜は静かだったよね?」
「そうね。色々動物もいるはずなのに…」
二人は不思議に感じたので、ラトリスに聞いてみた。
「ん?プロテクトの魔法を使用していたから、害あるものは近づいて来なかったんだ。エルクは何回か来ていたけどな。」
と、あっけらかんと言った。
「プロテクトって、そういう魔法でしたっけ?」
「魔法は、使い方次第で便利なものさ。二人が身に着けている下着にもプロテクトがかかっているから、ある程度の攻撃は弾いてくれるぞ。」
「それって、どれくらいの攻撃なんですか?」
朝食の準備をしながらラトリスは少し考えて、
「極大魔法3発分?」
「「…はい!?」」
「いや、4発分かなぁ?」
「そっ、それってほぼ無敵じゃないですか!?」
ラトリスは少しムッとした。
「そうでもないぞ。下着が耐えられないと判断したら、そこで終わりだからな。過信は禁物だ。一応全身をくまなくガードしてくれているがな。」
ラトリスは朝食のパンとサラダの盛り合わせを二人に差し出した。
「運が良ければ今日の朝にはクエストは終わるが、明日まではここにいるから、周囲に気を付けるんだ。」
「解りました。」
「解ったわ。」
朝食を食べ終えて、ラトリスが言った。
「さて、スチールバイソンを探さないとな。」
「すぐ見つかりますかね?」
「ちょっとしたことで、びっくりして飛び出してくるほど臆病なんだがな。五匹も集団でいてくれるかが問題だ。」
「「?」」
「あいつらは臆病なくせに縄張り意識が高くてな、同じ場所に五匹以上いないんだ。」
「じゃあ、もし三匹とかなら…」
「別の森に探しに行かなくちゃならない。そしてそれは途轍もなく面倒くさい。」
「でもどうやって探すわけ?」
「あいつらの好物を使う。それがこいつだ。」
そう言って、ラトリスはコケモモの実を取り出した。
「あれ?それってラトリスさんの好物なんじゃ…」
「俺の好物だから取っていた訳じゃ無いさ。スチールバイソンは、コケモモの木を倒してでも食べたいと思う種族なんだ。この実をこうして割って…」
ラトリスは実を四つに割った。
「一つずつ持っていてくれ。匂いに釣られてやって来るはずだ。」
ラトリスは割った実をそれぞれに渡した。
「これってそんなに匂いがしないような…」
レイナは試しに嗅いでみたが、無臭だった。
「スチールバイソンの嗅覚は人間の一万倍だ。人が嗅いで匂いはしなくても、あいつらは気づくのさ。」
「でも、これを持って歩き回るんですか?」
「あぁ。」
「出会ったらどうすれば良いんですか?」
「昨日渡した笛を吹いてくれ。スチールバイソンは、聴覚は退化しているから近くで吹いても問題無い。」
「じゃあ、三人で手分けして探すのね?」
「いや、俺は一人で探すが、二人は一緒に行動してくれ。その笛は普通の人には聞こえないんだ。」
「犬笛みたいですね。」
「まぁ、それに近いな。さて、そろそろ行こうか。」
ラトリスは一人、森の中へと消えていった。残された二人は逆の方向へ進んだ。
スチールバイソンを探して約1時間後、マリアとレイナはゴブリンの群れに襲われていた。
「全く、なんでこんなにゴブリンがいるのよ!」
レイナがファイアボールの魔法を使いながら叫んだ。ファイアボールがゴブリンに直撃し、その身を焦がす。
「レイナ、炎系魔法は使っちゃ駄目。森まで燃えちゃうよ。」
すかさずマリアがウォーターの魔法で鎮火する。
「もう、面倒くさいわね。マリア、サイクロンを使うわ。」
風の上級魔法で吹き飛ばそうというのだ。
「それも駄目。森が傷ついちゃう。」
「じゃあどうしろと!?」
ゴブリンが投げてきた石斧を間一髪で避けながら、レイナは叫んだ。
「こういう時は…」
マリアがゴブリン達に突進し、三匹のゴブリン達を剣で一閃した。
「やっぱり肉弾戦でしょう?」
「ったく、しょうがないわね。」
レイナも負けじと剣を振るう。
23体のゴブリンを倒したところで、残りのゴブリン達は逃げていった。
「はぁはぁ、やっと終わった。」
「ふぅ…しんどいなぁ。」
倒したゴブリンから素材を回収し、二人は近くの川で剣に付いた血を落とし、剣を鞘に戻して、一口水を含んだ。
「ラトリスさん、大丈夫かなぁ。」
「さぁ、でもあの人が見つけたとして、私達にどうやって連絡してくるのかしら?」
と、そんなことを話していると、
“おーい、二人とも聞こえるか?“
頭の中で声が響いた。
“森の中でファイアボールを使っただろ?“
「えっ、ラトリスさん!?」
「ど、どこにいるの!?」
“良かった、通じるみたいだな。無属性魔法テレパシーだ。遠く離れた場所にいる人とも話が出来るんだ。ただし、10キロ程度だがな。“
「そうなんですか。さっきまでゴブリンの群れに襲われていたんですよ。」
“そうだったのか。そりゃあ大変だったな。“
「それで、そっちはスチールバイソンを見つけたのかしら?」
ラトリスは一呼吸おいて、
“いや、まだだ。そっちはどうだ?“
「こっちも収穫無しよ。」
「まさか、この森にはいないんじゃ無いですかね?」
“うーん、どうだろうな。こうしている間も探しているんだが、…おっと!“
「どうしたんですか?」
“…いたぞ、スチールバイソンだ。“
「えっ、場所は何処?」
“うーん、何というか…“
「「?」」
二人はラトリスの言葉を待った。
“キャンプから北西2キロの地点だ。一度拠点まで戻ってくれ。戻ったら笛を吹いてくれ。“
「ちょっと、ラトリスさん!?」
いきなり通信が途絶えた。
「どうする?」
レイナの質問にマリアは、
「とりあえず戻りましょう。」
と、答えた。
キャンプまでは10分ほどで戻ることが出来た。そしてマリアがラトリスから渡されていた笛を吹いた。すると、間髪入れずに、
“早かったな“
ラトリスから応答があった。
「それで、これからどうするの?」
“今から信号を出す。1分毎に空に向かってファイアボールを打ち上げるから、それを目指して来てくれ。“
「解りました!」
返事とともに、空にファイアボールが上がるのが見えた。確かにそれほど遠くない位置のようだった。
「レイナ、行きましょう。」
「えぇ。」
二人はファイアボールの上がった方へ向かっていった。
ラトリスが3発目のファイアボールをあげようとしたとき、
「ラトリスさん!」
マリアとレイナが到着した。
「以外と早かったな。」
ラトリスは二人を労った。
「それで、スチールバイソンは?」
レイナの質問にラトリスはコクリと頷き、
「直ぐそこだ。」
と、答えて森を進んでいく。すると目の前に広場が現れたその中心に、スチールバイソンが10匹いた。
「俺達は運が良い。まさか、10匹もいるとはな。」
「あのぅ、ラトリスさん。」
「ん?どうした?」
「昨日言ってたじゃないですか。本当の観察眼を教えてくれるって。」
マリアが聞いた。
「それとスチールバイソンの関係性が全く解らないんですけど…」
「あぁ、簡単に説明するぞ。スチールバイソンは名前の通り、凄く堅いんだ。」
「それは知っているわ。生半可な剣だと弾かれてしまうのよね?」
「その通り。しかも臆病だから一太刀いれただけで逃げてしまう。しかもその速度は恐ろしく速い。」
「じゃあ、どうするんですか?」
「簡単だ。一撃で仕留めればいい。」
ラトリスはさも当然のように言い放った。
「いやいや、無理でしょう?」
「それを可能にするのが観察眼だ。スチールバイソンをよく見てみな?」
ラトリスに促され、二人はジッとスチールバイソンを見た。
「「…」」
「どうだ?」
「全然解りません。」
「うーん、私も。」
「じゃあ近くによって見よう。」
「「えっ?」」
ラトリスはトコトコとスチールバイソンに近づいていった。
「ちょっと、ラトリスさん!?」
「大丈夫。スチールバイソンは大人しいから。こっちが手を出さないなら何もしてこないさ。」
ラトリスは1匹のスチールバイソンに近づき、頭を撫でた。するとスチールバイソンはラトリスに甘えるような仕草をした。
「だ、大丈夫なのかな?」
「行ってみましょう。」
二人も恐る恐る近づく。
至近距離に来てもスチールバイソンは逃げない。それどころか、二人にも甘えるような仕草をした。
「これってどういうこと?」
「忘れたのか?コケモモの実の事を。」
「あっ!」
袋に入れていたコケモモの実を出してみた。すると、スチールバイソンはそれが気になるのか、袋に頬摺りを始めた。
「さて、ここまで近付いたんだ。もう一度、じっくり見てみな。」
二人は再びジッと見てみた。
するとマリアが、
「あれ?この子、首筋が柔らかそう。」
といい、レイナが、
「こっちも。だけどこの子は足の付け根かしら。」
と言った。
それを聞いてラトリスは頷くと、
「観察眼がある程度出来るようになると、生き物の弱点が解るようになるのさ。」
と、答えた。
なるほど確かに二人の目には、個々のスチールバイソンの弱そうなところが見えていた。
試しにマリアが首筋が弱点だと思われる1匹の首筋を剣で一閃してみた。すると、意図も簡単にスチールバイソンは倒れた。今度はレイナが足首を斬ってみると、やはり倒れて動かなくなった。
「その調子で7匹を倒してみな。1匹は残してくれ。」
残りの7匹を楽々と倒して、最後の一匹になった。するとラトリスは、
「最後の一匹を力一杯斬ってみな。」
と言った。試しにマリアが剣を振るうと、スチールバイソンに当たった瞬間剣が折れてしまった。
「これって…」
「しっかり観察眼を使えば、斬れないものも斬ることが出来る。それを教えたかったんだ。」
剣で斬られそうになったスチールバイソンは、猛スピードで逃げていった。
「さて、角を回収しよう。で、肉は今日の晩ご飯にしよう。勿体ないから、アクセスで異空間へ放り込んでおこう。」
そう言って、素材の回収仕始めた。生きていたときは堅かった体がもうそんなに堅くなくなっていて、楽に素材を剥ぎ取る事が出来た。肉も骨もしっかりと回収する。
「さて、キャンプに戻ろう。」
ラトリスの言葉に安堵した二人だった。
キャンプに戻るとラトリスはスチールバイソンの肉を取り出し、手際よく焼いていく。マリアは食用の草を取りに行き、レイナはスープを作り始めた。15分後、見事な焼き肉と山菜のサラダ、コンソメスープが出来上がった。
「「「いただきます!」」」
三人が声を揃えていい、食事の時間になった。
初めてスチールバイソンの肉を食べたマリアとレイナは、
「ちょっと筋っぽいね。」
「えぇ。でも美味しいわ。」
と言った。その光景を見てラトリスは少し笑って、
「自分達で狩ったんだ。達成感や充実感は最高のスパイスになるさ。」
と言った。
そして三人とも食事が終わると、最終日のために早めに睡眠を取るのだった。
書いてて、ステーキとか焼き肉とか食べたくなりました。あぁ、お腹すいた…




