ジン
ロキシスは東に向けてひたすらに飛ぶ。ロキシスは雲の上を飛んで、天候の影響を受けないようにしていた。すると、
(ロキシス、質問があります。)
(どうした、カグラ?)
ふとカグラが話しかけてきた。
(差し支えが無ければ、どうして名前を変えたのか教えて欲しいのです。)
(ラトリスは人として生きるために、大切な人が俺につけてくれた名前だ。)
(では今のロキシスとは?)
(…話せば長くなるけどな。)
そう言って、ロキシスは話し始めた。
今から十六年前の事、
「おら、とっとと歩け!」
ロキシスことジン・バーンシュタインはカリバーンに認められなかったため、森へ追放されることになってしまっていた。手を後ろで縛られ、1人の男に無理矢理森の奥地へと連れてこられていた。
「…」
「けっ、何だってこの俺が、こんなガキを連れてこんな所へ来なくちゃいけねぇんだ。まあ、報酬は良かったが…」
森の奥に到着すると、男はジンの後ろから蹴りをいれた。受け身も取れず倒れ込んだジンを見て、男は笑った。
「依頼されたのはここまでだ。後は、お前の耳を切って持って帰りゃ、残りの報酬は俺のもんだ。」
そう言って、ジンの耳を切り裂いた。
「うぅ…」
「恨むんなら、自分の人生を恨めや。」
そう言って、元来た道を帰って行ってしまった。
(恨む…か。したことも無かったし、考えたこともなかったな…)
そんなことを1人で考えていた。
(レンは大丈夫かな…)
(母様…)
(父様…)
過ぎるのは家族で過ごした日々の記憶。楽しかったあの日に戻りたい、そんな風に考えていた。
(でも、もう戻れないんだな…)
(カリバーンに選ばれなかった…それだけで…)
(僕は…何のために生きていたんだろうな…)
そんなことを考えているとグ~とお腹が鳴った。
(お腹…空いたな…)
(喉が乾いたな…)
考えているが行動には移せない。後ろ手で縛られ、切られた耳が痛くてしょうがなかった。
(あぁ…死ぬって…こんな感じなんだな…)
考えが堂々巡りしていると、野犬がやって来た。いや、ただの野犬では無い。昔調べた事がある。サーベルウルフだ。一頭で国を滅ぼすと言われていたその生き物は、ジンに鼻をこすりつけ、食べられるか調べていた。
(サーベルウルフに食べられて死ぬ…それも仕方ないか…)
と、
「生きたいかい?」
物言わぬはずのサーベルウルフがジンに話しかけてきた。
「…話せるの?」
「あぁ、この姿じゃそう聞くしか無いか?」
不意に、サーベルウルフが光り輝き、1人の女性に姿を変えた。赤い髪がよく似合い、少し露出の多い服を着ていた。
「ふぅ、やっぱりこの姿が1番落ち着くわ。」
「…あなたは?」
「ふふふ、さっきの質問に答えて。あなたは生きたい?それとも死にたい?」
「…僕は。」
ジンは考えた。死ぬことは簡単だ。でも、こんな所で死んで、何があるのだ?自分はどうしたいのか?と。そうしていると、女性はジンの目をジッと見て、
「あなたの目は死んでいない。生きたいって思っているわ。」
「え…」
「決めた!私と一緒に来なさい。」
「でも…」
「もう決めたの!」
そう言うと、ジンの手を縛っていた縄を切断して、楽にしてくれた。
「あなたを今から天界へと連れて行くわ。」
「…天界?」
「そこで私と暮らすのよ。異議は認めません。」
「僕は…」
「…嫌なの?」
女性は悲しそうな顔をした。ジンは、
「…いきます。どんなところか解りませんけど…」
と、答えた。
「良かった!」
心底嬉しいのか、女性はジンに抱きついた。
「あら?耳が無いわね。」
「切られました。」
「大丈夫、こうすれば…」
女性はジンの無くなった耳にキスをした。すると、ジンの耳が綺麗に再生された。
「これでよし!」
「え…痛くない…耳がある…どうやって?」
「難しいこと考えないの!それで、あなたの名前は?」
「ジンです。」
「可愛くないわね。ん~、ラトリス、ラトリスはどうかな!」
「…ラトリス?」
「そう!可愛いでしょ!」
「僕、男なんですけど…」
「良いの!私が決めたんだから!人であるうちは、あなたはラトリスよ!」
「…」
何を言っても無駄だと判断し、その名を受け入れることにした。
「解りました、僕は今日からラトリスです。」
そう言うと、ラトリスの体が光に包まれた。
「これって…」
「神の眷属になった証よ、ラトリス。」
そう言って、女性はラトリスを優しく抱きしめて、
「私はロキ。宜しくね、ラトリス。」
そう言うと、右手をかざして空間に穴を開けた。
「さぁ、ラトリスとしての人生の始まりよ!」
そう言って、2人で穴に飛び込んだ。
読んでくださっている方々、有難う御座います。




