VS ケーリュケイオン
次の日の朝、ラトリスは訓練所で目を覚ました。覚ましたというか、起こされた方が正しい。やたらとデュランダル達が喚いていたせいだった。
「兎に角、最近の武器の使い手は碌な奴がいない。」
「それには同意する。」
「前の持ち主なぞ、私の使い方を全く知らなかった。」
「今回のラトリス殿なら、我々を有意義に使ってくれそうだ。」
「うむ。」
そこまで聞いて、ラトリスは起き上がる。
「ラトリス殿、目覚めはいかがか?」
「五月蠅くて寝れるか!」
ラトリスは怒鳴りつけて、デュランダル、ミョルニル、リサナウト、ゲイボルグを異空間に放り込んだ。
「ったく、安眠も出来やしない。」
そこへマリア達がやって来た。
「おはようございます、ラトリスさん。」
「あぁ、おはよう。」
「なんか疲れてない?」
「阿呆共が五月蠅くてな。」
「もしかして、デュランダル達ですか?」
「あぁ。」
「それで、話は出来たの?」
「どうやら七聖武器を全部集めても、何か起こることはなさそうだ。」
「えっ、でも1つになるんじゃ?」
「なったことが無い、なっていた記憶も無いらしい。無駄な時間を過ごした気分だ。」
「そうですか。」
「まあ、あと三本だし、手に入れて見せるけどな。」
そう言って、重たい腰をあげて、ラトリスは歩き出した。
昼頃になって、ようやくラトリス達がコロセウムに足を踏み入れた。
「じゃあここで。」
「観客席で見てるわ。」
「気をつけて下さい。」
「お兄ちゃん、頑張って!」
「あぁ。」
そしてラトリス1人で舞台へと上がる。
「ようやくきたか。待ちかねたぞ。」
既にリーンと、対戦者が舞台で待っていた。
「それでは、本日の第1試合を始める!対戦相手は聖杖ケーリュケイオンの所持者、我がミドレン王国のアイコスだ!」
観客から声援が飛び交う。
「父上、勝負なのですが。」
「どうした、我が息子よ。」
「魔法のみでの勝負がしたいのです。」
「ほう、それは面白い!ラトリス殿、どうかな?」
そう言って、ニヤニヤと下品な笑顔を浮かべる2人。それを見てラトリスは、
「1つ聞きたい。どんな魔法でもありなのか?」
「ええ、魔法なら構いませんよ。私は魔術師ですし、武器の戦いは出来ないのでね。」
「…聖杖ケーリュケイオン、その特性は魔力の増幅だろう?」
「なっ!?」
そこまで言われて、驚いた顔になるアイコス。
「別に良いぜ。何を使おうが、不利だろうが構わない。」
そこまで聞いて、リーンとアイコスはほっとした顔をした。そしてラトリスとアイコスは、一定の距離をあけて立った。
「それでは、始め!」
リーンのかけ声で戦闘が始まる。が、両者動かない。いや、厳密に言うと、アイコスは魔法の詠唱をしていた。
「吹き荒れろ、ウィンドスラスト!」
ラトリスにめがけて風の初級魔法を放つアイコス。バキバキと音をたててやってくるその魔法を、ラトリスは1歩も動かずに受けた。
「直撃だ!」
「流石に初級魔法だが、跡形も残らないんじゃないか?」
観客からそんな声が聞こえてくる。竜巻のように吹き荒れていたウィンドスラストが収まると、そこにはラトリスの姿は無かった。
「ラトリスさん…!?」
「まさか…」
マリア達が心配な表情を浮かべていた。が、
「ファイアボール!」
突然声が聞こえて、アイコスの後ろから炎の弾丸が飛んできた。為す術なく直撃を受け、アイコスが倒れ込んだ。
「なんだ!?」
「何が起こったんだ!?」
観客は訳がわからないと声をあげるばかりだった。
「いっ、一体どうやって!?」
「どんな魔法でも使っていいって言うからな。2つの魔法を使った。」
「2つだと!?」
「ファイアボール、インビジブルの2つだ。」
「ぐぅ…」
アイコスが立ち上がる。そしてラトリスを睨みつけて、
「インビジブルで後ろに回り込み、ファイアボールを放つ…決して不可能じゃないが、詠唱をいつおこなったんだ?」
「俺は詠唱なんかしない。俺が教えた仲間もな。」
「…無詠唱で魔法を使うか…私には無理だ。」
「なら諦めろ。」
「だが、このケーリュケイオンを使えば!」
そう言うと、ケーリュケイオンを振るう。すると雷の上級魔法ライトニングジャベリンが発動し、ラトリスに直撃をした。バチバチと音をたてていたが、次第に収まっていき、ラトリスは黒焦げになり倒れた。
「フッ、これがこのケーリュケイオンの力だ!」
力強く自身の勝利を確信し、ラトリスに近付くアイコス。が、
「スパーク!」
後ろから雷の中級魔法の直撃を受けた。
「ぐはっ!」
アイコスが振り返って最後に見たのは、五体満足で右手をこちらに向けているラトリスの姿だった。
「馬鹿な、アイコスの…ケーリュケイオンの一撃は確かに…」
「よく見てみな。」
そう言われて、リーンが黒焦げになっているラトリスの元へ行ってみると、布きれが一枚転がっていた。
「こっ、これは!?」
「サクリファイス。身代わりの魔法だ。」
「そっ、そんな高等魔法まで使いこなすというのか!?」
「まあ、コツさえ掴めば魔法なんて簡単なもんさ。で、俺の勝ちで良いのか?」
リーンは焦りを見せながら、
「アイコス、立つんだ!負ける事は許さんぞ!」
そう言って、アイコスを蹴りつけた。
「息子に対して愛情もなにも無いんだな。」
「五月蠅い!こうなったら、私が相手だ!」
そう言うと、ケーリュケイオンに手を伸ばし握るが、ケーリュケイオンが凄まじい電撃を放った。
「ぐがっ!」
一瞬でリーンは倒れてしまった。
「我が新しい主に対して不敬ですよ。」
「ケーリュケイオン、一緒に来るか?」
「勿論です。」
ラトリスがケーリュケイオンを掴み、軽く振るう。すると、黒焦げになっていたリーンとアイコスの傷が癒された。
「根性も直せれば良いんだがな。」
「それは無理ですね。」
こうして5つ目の七聖武器もラトリスのものになった。
読んでくださっている方々、有難う御座います。




