VS ゲイボルグ
試合が終わって10分後に再び、
「では第3試合を始める。アーカス王国出身、聖槍ゲイボルグ所持者、マーリン殿だ!」
そうリーンが宣言した。すると観客の一部から、
「キャー、マーリン様~!」
と、歓声が上がった。その声援を受けながら、マーリンが姿を現す。
「ようやく出番ね。腕が鳴るわ。」
そして、ラトリスの目の前までやってくると、
「本当、女の子みたいな顔付きね。」
「ほっとけ。」
「ふふっ、一応褒めたのだけど?」
「男に対して女面は褒め言葉では無いぞ。」
「あなたが女の子だったら、私のコレクションの1人になって貰うところだけど、勝負は勝負。真剣にやらせて貰うわ。」
「望むところだ。」
そう言って、2人は一定の距離をとった。
「準備は良いな?それでは、始め!」
第3試合が始まった。マーリンはゲイボルグを抜き、一定の間合いから攻めて来なかった。対してラトリスは、カグラを構えもせずに、棒立ち同然の状態だった。
「どうしたの?構えを捕りなさい。」
「そっちこそ、普段の構えじゃ無いんじゃないか?本気で来いよ。」
ラトリスがそう言うと、マーリンはニヤリとした。
「ふふふ、よくわかるわね。私の本気、見せてあげるわ!」
マーリンは右構えから左構えにゲイボルグを持ち直した。
「私は本来左利きでね。相手によって向きを変えるの。こっちこそ私の本気よ。」
そう言って、素早く距離を詰め、ラトリスの顔にめがけて突きを放つ。恐ろしく早かったが、ラトリスは首をかしげただけで避けてしまった。
「ふふふ、良いわね。今の一撃を躱すなんて。」
「今のが本気か?」
「挨拶がわりよ!」
そう言うと、更に3度突きを放つ。これも全てラトリスは躱した。そしてかなり広めに間合いをとる。
「驚いたわ、これも躱すなんて。」
「…」
ラトリスは答えない。が、腰だめにカグラを構えて、
「今度はこちらの番だ。」
そう言って、マーリンに接近する。それを読んでいたのか、
「甘いわ!」
ラトリスの動きに合わせてゲイボルグを横凪にした。一瞬当たったかと思われたが、ラトリスはすんでのところで躱した。
「ふふふ、どう?あらゆる局面に対応できる槍こそ最強なのよ!」
「…」
するとラトリスはカグラを鞘から抜いた。そして、
「やはり二流の使い手だな。」
と、マーリンに向かって言った。
「何ですって!」
「槍の使い方は一流、しかしゲイボルグの使い方が三流だって話だ。」
「私を侮辱するな!」
怒りに任せてマーリンが前進する。しかしそんな動きが通じるほどラトリスは甘くない。ラトリスは素早く距離を詰め、横一線にカグラを振るった。慌ててマーリンはゲイボルグで防ごうとするが、時既に遅く、脇腹を斬られた。
「うぐっ!」
声にならない悲鳴をマーリンがあげる。
「いやー!マーリン様!?」
観客から悲鳴が聞こえるが、ラトリスは平然としていた。
「安心しろよ、死んでない。」
ラトリスの言葉に観客が黙りこむ。ラトリスはカグラを観客の方に向けて、
「この剣は特殊でな、片側は斬れるがもう片側は刃がない。まぁ、骨は折れてるだろうけど。」
それを聞いて、観客はマーリンの方を見る。確かに痛そうにしているが、斬られたはずなのに血は流れていなかった。
「で、勝負はどうなんだ?」
「ら、ラトリス殿の勝利だ!」
リーンがそう告げた。観客からは歓喜の声と罵声が半々で飛び交っていた。ラトリスはゲイボルグを掴んで、
「俺と一緒に来るか?」
と聞いた。
「勿論、一緒にいくよ。」
ゲイボルグも納得済みのようだった。ラトリスがゲイボルグを異空間へしまうと、リーンが、
「つ、次の試合は…」
と、告げようとしたので、
「今日は疲れた。また明日にしてくれ。」
そう言って、ラトリスは踵を返してコロセウムを出ていってしまった。
ラトリスが外に出ると、マリア達が出迎えてくれた。
「お疲れ様でした。」
「なんか凄すぎて、よく解らなかったわ。」
「何をしたのかは、全部見えただろう?」
「まあね。」
「それが全てさ。あれが見えたなら充分強くなっている証拠だ。」
「そうなの?」
「対戦相手は、何をされたのか解ってないでしょうね。」
「そうだな。また面倒な事にならなきゃいいけど。さぁ、城に行って飯だ飯!」
ラトリスはあっけらかんとしていた。
その近くの台の上で、レンが1人佇んでいた。
「…兄さん。」
その呟きを聞いた者はいなかった。
読んでくださっている方々、有難う御座います。




