特訓終了 そして…
今回で特訓は終了します。宜しく!
マリアとレイナの二人が、トドメを刺すこと、即ち“人殺し“を経験して1週間が経った。未だに納得は出来ていないのか、二人ともリビングで気落ちしていた。
「…」
「マリア…後悔してるの?」
「…えっ?」
レイナの不意の質問に、マリアは少し困惑しながら、
「後悔は…していないと言えば、嘘になるわ。でも、いずれはやらなくちゃならないことだって言うのも解ってる…つもり。」
「そう?私は後悔はしていないわ。」
「…!」
「強くなるためなら何でもする、ラトリスさんと私達が約束した事よ。それを無下にしたら、私は私でなくなっちゃうわ。だからこそ、人を殺すことも、ドラゴンを殺すことも、一緒のように感じなきゃならない。私はそう思うわ。」
「まあ、そんなに思い詰める事じゃないけどな。」
「「…ラトリスさん!?」」
不意にラトリスが入ってきた。
「二人が殺さなかったとしたら、俺が殺していた。」
「じゃあ、何故あんな事を!?」
「…世の中うまくいく話ばかりじゃない事だけを教えたかったんだが、想像以上に二人には重荷になっちまったようだ。殺人を犯そうが、強姦しようが、奴隷になれば許されると考えてるような奴らだったんだよ、あいつらは。そんな奴らを生かしちゃおけない。そう思ったからこそ奴らを引き取ってきたんだ。二人が気に病んじまったんなら、それは俺の責任なんだ。だから、気にするなって俺は言っているんだ。それにな…」
ラトリスは椅子に座って足を組んだ。
「二人に感謝している人達もいるんだ。」
「「えっ?」」
「…法において裁けない奴らに死をもって裁いたんだ。奴らに殺されたりした人達の家族は涙を流して喜んでいたよ。個人情報の関係から会わせてやれないけどな。」
「そうなんですか?」
「知らなかった…」
「だからこそ、解っていて欲しいんだ。殺すことも時に必要なんだと。害になるからドラゴンを倒すことも、世の中の為に人を殺すことも、時には必要なんだとな。それが解るか?」
「…解ります。」
「解るわ、今ならね。」
「…それが解れば、俺から教えられる事なんて、最早残っていないさ。よく頑張ったな。」
ラトリスは微笑んで二人を見た。
気落ちしていた二人も、その笑顔を見て落ち着いたのか、笑顔になった。
そんな話をした1時間後、“天狼星“の四人が再びやってきた。
「さて、今日で1週間経ったぜ。どうだい?俺達のギルドに入る気にはなったかい?」
リビングに通すと、四人の内の一人がそのようにきりだしてきた。
「三人の待遇もちゃんと考えてあるぜ。ラトリスさん、あんたにゃ副ギルド長の座を用意してある。そっちの嬢ちゃん達も悪い様にはしない。どうだ?」
ラトリスは目を閉じてそれを聞き、何かを考えているように見えた。
マリアとレイナは、ジッとラトリスの方を見て言葉を待った。
暫くして、ラトリスが口を開いた。
「悪いが帰ってくれ。俺達にお前達のギルドに入る意思はないし、この家を渡す気も無い。」
「「ラトリスさん!」」
マリアとレイナは嬉しそうに、笑顔でその名を呼んだ。
「いいのかい?後三週間もすりゃあ、あんた達のギルドは無くなっちまうんだぜ?」
「ギルド協会会長が勝手に決めた事だろう?あと三週間以内に依頼が来ない可能性も無い。それに、この家をお前等にくれてやる義理も無い。」
「ケッ、言ってくれるじゃねぇか!」
四人の内の大柄な男が躍り出ようとしたが、リーダーと思しき男が止めた。
「あんた達をギルドに入れるのはやめだ。だが、どうしてもこの家は欲しい。幾らで売ってくれる?言い値で払ってやるよ。」
「じゃあこれくらいだな。」
ラトリスは人差し指を立てた。
「一億か、それ位…」
「阿呆か、ゼロが3つ足りねえよ。」
「せっ、千億ガルドだと!?」
「ふざけるなよ!?」
「一応教えておいてやる。この家はな、フィリア王国国王に貰った家なんだ。おいそれと売ったり出来ないもんなんだよ。それを売ってやるって言うんだ、二足三文で売る訳にはいかねぇんだよ。解ったら帰れ、鬱陶しい。」
「ちっ、下手に出てりゃあ調子に乗りやがって。今日は一旦引いてやるが、ギルド協会にこの事は報告するからな。どうなったって知らねぇぞ!」
「勝手にしな。どんなことになろうが、関係ねえよ。」
四人は家を出て行った。
「ラトリスさん…」
「だ、大丈夫なの、本当に?」
「大丈夫だって。安心していろよ。」
ラトリスは笑っていたが、マリアとレイナは一抹の不安があった。
その夜、三人は久しぶりに満腹亭を訪れていた。
「今日は二人の特訓終了記念だ。何を頼んでも良いぜ?」
ラトリスは言った。
「じゃあ、いつもの定食で。」
「私も!」
「欲が無いなぁ、本当に何でも良いんだぞ?」
「ここの料理はオススメが1番美味しいと思うわ。」
レイナはふふふっと笑って言った。
「あっ、でも飲み物はフルーツジュースをください。」
「ずるいわよ、マリア!私にも!」
「やれやれ…」
ラトリスは少し笑いながら、マスターであるガルフの方を見た。すると、ガルフも話があるのか此方に近づいて来て、
「ラトリス、ちょっといいか?」
と、きりだしてきた。
「なんかあったのか、マスター?」
「前のギルド協会会長の話だ。」
「…聞かせてくれ。」
「奴は死んじゃいない。今のギルド協会会長が裏で何かしていやがるな。恐らく、ギルド協会フィリン支部の地下にいるかもしれないって話だ。どうする?」
「…今はどうしようもないな。」
「しかし…」
「ドルトムントをなんとかしてやりたいのは確かだ。それにマスターの情報が嘘じゃないのも解っている。けど、ギルド協会に喧嘩を売るのは今じゃない。もう少し、時間が必要なんだよ。それに…」
「それに…なんだ?」
ラトリスは再びマリアとレイナを見て、
「今は二人の成長を何よりも喜びたいんだよ。」
「…ハッハッハッ、違ぇねぇ!お前の言うとおりだな。…よし、嬢ちゃん達、ラトリスの奢りなんだ、俺がフルーツ盛り合わせも作ってやるよ。」
「本当ですか!」
「やったぁ!」
「やれやれ、カレン、お前も一緒に祝ってやってくれ。」
「えっ、ラトリスさん、良いんですか?」
「あぁ、明日から大変になるからな。その前に楽しんでおかなくちゃな!」
ラトリスはカレンに軽くウインクをした。
カレンは笑顔になり、店の奥へ行き、注文の品を作り始める。ガルフも奥へ行き、フルーツ盛り合わせを作り始めた。暫くして、
「お待たせしました!定食とフルーツジュースです。」
「ほらよ、フルーツ盛り合わせだ。」
「よし、料理も来たし、乾杯しようか。」
「何にですか?」
「特訓終了と、明日からのギルド“天の子猫“の活動に対して…」
その場にいる全員が笑顔になり、同時に、
「「「「「乾杯!」」」」」
と言い、グラスを合わせあった。
その日はしっかりと食べたり飲んだりした。
いやぁ、特訓風景書くのはとても面倒くさいですね。次回からはギルド活動編になる…のかなぁ?
まあのんびりと書きますので、宜しくお願いします!




