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対妖軍基地の一般職員さん!   作者: 真取ゆりお
1/1

転機

この物語の主人公はすごい能力などは持っていません。でも周りの人達はすごい能力を使って妖怪と戦ったりします。そんな彼らを主人公が一般人目線で淡々と語ります。

「おめでとうございます!対妖軍基地、本部隊への入隊面接の資格が得られました!!」


・・・・・・・・・


は?????


な、何を言っているのだろうかこの人は・・・・僕は次の仕事の斡旋があるときいて、しっかりとスーツも着込んで、今日で通うのも三回目であるこの職業紹介所(通称グモーニンワーク)の相談窓口に赴いたというのに。

総合受付から直接案内された席についたとたん、僕はとても信じられないような話を唐突に浴びせられていた。


「おどろきましたよホント!面接資格を得たならもう入隊はほぼ決まったようなものですからね!?

まさか私の担当してる方からこんなすごい人材が発掘されるとは!!」


僕の担当のグモワ職員のお兄さん(名前は矢口さん。30半ばくらいだろうか)が向かい合う机ごしにハイテンションでまくしたててくる。声がやたらとでかい。


「対妖軍基地ってだけでも驚きなのに本部隊ですよ本部隊!!これはすごい事ですよ!?先週たまたま基地の人事担当の方がいらしてたとき、こちらに通う貴方を見かけたそうで、一目でピンときたらしくて」


だんだん大きくなる声のボリュームに、何事かと見やる相談窓口じゅうの人々の視線をものともせず、四角い眼鏡の中からキラキラした目線で僕をみつめて我が事のように喜んでくれている彼を差し置き、僕の脳内はなぜ?なんで?という文字がぽこぽこと沸いてやまなかった。


あの対妖軍に? 入隊? 僕が? ありえない。 だって


「そういうの()()でわかってしまうそうなんですよ、詳しくはわからないのですがね(笑) まさに人事にうってつけの・・・あれ、清多(きよた)さーん?きいてますかー?」


だって、僕は何の能力もない、まちがいなく、正真正銘、ただの一般人だぞ!!!????


・・・・・・・・・


「あ・・・あの・・・・」


混乱という渋滞をかろうじて抜け出し、喉のあたりで塞き止められていた言葉をやっとの思いで絞り出す。


「な、なにかの・・・間違いでは・・・?」


こんな夢みたいなことあるはずない。だって僕は()()()()()()すらクリアしていない。きっとこの人がうっかり他の誰かと間違えているのかもしれない。


「何をおっしゃってるんですか!!」


勝手にうっかり認定されたお兄さんが机に両手をバンとおいて前のめりに立ち上がる。


「本当なんですよ!? これを見てください! ほら!!!」


ズイっと何枚かに綴られた書類を目前に押し付けられる。近すぎて何も読めない。


上半身ごと書類から目を離してみると、一際大きな文字で『対妖軍入隊 推薦書』と書かれているのが見えた。


「ほら、この下の方をよく読んでください!」


手で示された箇所にゆっくりと視線を這わせる。


 『清多 中也 殿、 貴殿の我が軍への入隊を許可するものとする。ついては貴殿の本意を伺うべく面接の場を設けたく候』


・・・・・・・・・

・・・・・・・・・


まじですか?


「ッえええええぅえええええ!!!!!????????」


多分、今まで生きてきた、たいして長くも無い人生のなかで一番の大声が出てしまった。


その時の僕の叫び声は、この相談窓口の端っこから正反対の位置にあるトイレの最奥の個室に至るまで、火災報知器並みに響きわたってしまったらしいとは後日きいた話だ。ベルトの締まってないズボンをささえながらあわててトイレからとびだしてきたおじさんがいたとかなんとか。本当に悪いことをしてしまった。


こうして、僕に突如転機が訪れた。







僕の名前は清多 中也(きよた ちゅうや) 年齢は24歳。


一か月前までは地方の小さな企業に勤める、ごく普通の事務員だった。そう、ごく普通、平凡、あと一度だけ言われたことがあるフツメン、それが僕。

・・・・・いや別にシリアスな話に持っていこうとしてわけではない。そりゃあ、とくに死にたくなるような辛い事もなければ、毎日がパーリーなリア充とかでもない。彼女もいないし。

普通で地味な僕だけど、ひとつド派手な夢があった。


それは日々暴れ狂う妖怪たちに華麗に対処する、()()対妖軍の部隊に入隊することだ。


・・・・違います。寝る前にやる妄想の世界の話じゃないんです。ホントです。

えーっと、ひとまずは僕たちの住む妖怪と共存する()()()()の事情を話させてほしい。


この世界には妖怪がいる。ごく当たり前に。


僕たち人類にとっては天敵であり厄介な存在、それがこの世界での妖怪への正しい認識だ。でもそこら辺に生息しているというわけではなく、突然現れてこの世界に害をなす謎めいた生物。山でも街でも海でも、あるいはごく普通の一般家庭のリビングにだって現れる。前触れもなく現れては暴れるだけ暴れて人類に被害をもたらす。地震・雷・火事・妖怪なんて言葉もあるくらいだ。・・・いや前者三つも妖怪たちは発生させてしまえるから結局のところ妖怪とはこの世界では最も脅威的な存在であると覚えてくれればいいだろう。


妖怪の存在が確認されたのは、たしか、日本だと弥生時代を過ぎたころ。

王を名乗る者があらわれ、前方後円墳というやたらでっかい墓を造るのが流行っていた時代だ。 

世界史で言うならば、かの有名なローマ帝国が繁栄を極めていたころには、妖怪、もとい向こうではdevil(魔物)とかmonster(怪物)って呼ばれるやつらはすでに存在していた。


あ、先程から僕の説明のなかで、推測や仮説で使われるような~らしい。とか、~と考えられる。という記述でないのは、間違いなくそう断言できるからだ。なぜなら「道具から記憶を読み取れる」というれっきとした能力持ちの、対妖軍基地所属の研究者が大々的に発表して

いるからである。(カッコよく言うなら残留思念探究者(サイコメトラー)といったところだろうか)


その研究者は太古の遺跡から発掘された、妖怪を象ったような造形物や、妖怪から採取したと思われる原材料でできた武器や装飾品なんかのそれまでの「記憶」を、能力を使って見通した。すると造形物の記憶にはドヤ顔で「似てる。あのばけものに似てる。俺まぢすごい。」と言いながら自画自賛する職人の姿が、武器からは獣のような見た目の妖怪と戦う様子が、装飾品からは人間たちが蛇のような妖怪の鱗を剥がしている姿がそれぞれ見えたそうだ。そしてどの記憶にも最後には巨大な妖怪に村ごと襲われ、道具自身が無残に土砂に埋まっていく光景も・・・。つまりそれらがつくられた時代にはもう、妖怪たちは日常のひとつとして存在していたというわけである。それより前に妖怪が存在したという記憶を持つ遺物は見つかっていないので今のところはそう結論づけられている。


ちなみに、考古学者にとってはまさに夢のようなチート能力持ちである研究者の彼は、当然のように歴史そのものの研究においてもこの上ない功績を残しているそうだ。


これらは学生時代に「妖怪」の授業で習う内容だ。「妖怪」は妖怪たちの生態や、遭遇してしまったときの対処法、そして一定の人間だけが持つ「能力」と呼ばれる不思議な()()についてを偏見無く学ぶ、歴史・地理・公民と並ぶ必須の社会科目であり、僕の一番の得意教科だった。


っと、話が寄り道してしまったけど、そんな昔からいる妖怪たちは人類の歴史において数多の危機をもたらしてきた。


人間の文化が発展していくほどに、なぜか妖怪たちもだんだんとその数を増やし、その凶暴性は増していった。すると今度は人類に、妖怪と似たような不思議な力を持つ人間が現れ始めた。彼らは妖怪のように火や天候を操ったり、あるいは未来を予知したり。彼らは当初、人々から恐れられ遠ざけられた。当時は蔑称の意味も込められ妖奴(あやしど)と呼ばれていたことすらあったそうだ。

しかし妖奴と呼ばれた彼らは、もはや人の力だけではどうすることもできなくなっていた妖怪たちと対峙することができた。災害に等しい妖怪を倒すことのできる彼らは、人々にとってなくてはならない存在となり、いつしか妖怪退治を生業とするものたちが増え、そして平安時代には現代の対妖軍の原型となる能力者集団が結成されたのだ。


ここまでざっとこの世界の妖怪事情を話したわけだが、授業で習ったとはいえ今のところは一般人に過ぎないこの僕がそこそこ詳しく説明できている事が不自然ではないかと思ってないだろうか。ご都合主義?いいえ、なんならもっともっとディープな解説だってできるんだな実は。対妖軍に関する事であるならば。


既に気づいているかもしれないが、なにをかくそう僕は、大の対妖軍オタクなのである。


僕にとって対妖軍は、最高のヒーローであり、あこがれであり、そして目標であり、

同時に決して届かないとても高い場所にある存在だったのだ。










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