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国民国家
格差は常にあった。戦前、戦後、バブル前後を通じて今に至るまで。だが日本人は「一億総中流」という言葉を生み出した。それに近い実感があったからだ。「格差社会」という言葉がにわかに注目を浴びることがそれを示している。「格差はあってはならない」「格差ができてしまった」そういう前提が、認識があるからこそ「格差社会」という言葉はニュースになる。日本人は「中流」の名のもと、ずっと一つだったのだ。
「国民は一丸となるべき」そんなスローガンでまとまったわけではない。思い込んだのだ。同じラジオを聞き思い込んだのだ。同じテレビを見て、同じような家電を買い、同じような生活をして「普通の暮らしってこんなもんだよね」という認識を一つにしたのだ。戦争に負けた直後は同じような貧しさを普通として。それから段々と復興し豊かさを共有したのだ。
これは見方を変えれば「国民国家」というのだ。日本人がお互いを日本人と思う、素晴らしい幻想なのだ。