空にあこがれた
テスト投稿です。
昔書いた小説を加筆修正したもの。
短いです。
この話がどのジャンルに属するものかいまいちわからないままタグ付けしているので、もしもアドバイスをくださる方がいれば是非お願いします。
何時の頃からか。
気付いた頃には大きな大きな空が好きだった。
見上げれば空は青く澄み渡り何処までも広がっている。
空は様々な表情を持っていた。
泣いたり、微笑んだり、時にはその表情を曇らせたりして。
そして、時にはぞっとする美しさを魅せた。
羨ましかった。
あの空を自由に翼をはためかせ飛んでいる鳥たちが。
時折顔を出す太陽の柔らかな日差しを受けながら、その暖かな翼をはためかせ彼らは何処に。
彼らと僕との間にはどうしようもない差が生じていた。ヒトである僕には自力で空を飛ぶことは出来ない。
おなじ、命であることには変わりはないはずだというのに。
ふとした瞬間に僕は空を眺め、そして祈るのだ。
僕もあの鳥たちの様に、空が飛べますようにと。
* * *
ぱちり
実際にそんな音がしたわけではないけれど、そう許容してもいいような目覚めだった。
そして気付く。
目の前には僕が何時も羨ましいと感じていた鳥たちの姿がある。時折、その翼をはためかせながら。
下を見下ろすと人々が歓声をあげながら僕のことを見上げていた。
人々の中には何かわからない奇妙な声をあげながら拍手をするもの、僕の姿を見て拝むような行動をとるもの、僕に向かって大きく手を振ったりするものなど様々な人がいる。
背中にある違和感と、そばにいる鳥たちとは違った羽搏きの音を耳が拾って、僕は首をひねるようにして自分の背中のあたりを見た。
そこには蝋の様な純白の翼があった。周りのどんな鳥たちよりも大きくて、綺麗で、力強い、僕の、翼。
翼は緩慢な動きで僕を空の彼方に連れて行こうとする。
強く念じれば翼は僕の思うがままに動いてくれた。ずっと憧れていた空を抱きしめるようにくるりと一回転。
この翼があれば僕は自由だ!
* * *
何時もより近くに見える太陽に手を伸ばした、はずだった。
パチン
シャボン玉が弾けてしまったかのような感覚とともに僕は目を見開く。
見開いた眼で見たのは薄暗い景色の中にある真白の壁。
太陽に伸ばしたはずの手は何もない虚空を掴む。
握りしめた手を引き寄せてそっと開いてみても、そこには何もありはしなかった。
小さく息を吐き出した時、ふと背中に圧迫感を感じた。
両手を体のそばに突きながら起き上がると、ぱさりと白い羽が膝の上に落ちてくるのが見える。
背後を見やるとそこには先程と何も変わらない大きな翼があった。
翼は窮屈そうにゆらりと微かに揺れて、その白い羽をひとつずつ落としていく。
かつてと同じように強く念じると大きな翼は思うように動いてくれた。
また空を飛びたい、そう思った。
* * *
僕が知る一番高くて簡単に出入りできる場所。
そこでは空を飛んでいた時ほどの鋭さはない風が穏やかに吹いていた。
まるで僕が再び空をこの翼ではばたくことを祝福しているように。
僕はわらう。なんどもなんども。漸く自分は自由を手に入れることが出来たのだと。
下を見下ろすと大勢の人人ひと。
それらは小さく蠢きながら悲鳴のような歓声をあげている。
それは僕が大舞台の主役にでもなったようで。
僕は喜色を隠しもせず浮かべながら、背中に力を込めて空に向かって大きく跳躍した。
蝋の翼を持ったイカロスは、さいごまで空を自由に飛ぶことは出来なかったけれど。
ほんとうの翼をもつ僕はいったい何処まで飛ぶことができるのだろう?
思い込みって怖いよね、という話。