出動
精密誘導爆弾の一撃は大きな衝撃をもたらした。
屋上の床は激しく揺れ、テーブルと椅子が転がった。鳥かごも吹き飛ばされた。
響もバランスを大きく崩して転倒した。幸い怪我はなく、起き上がるとすぐに杖と書物を探して拾い上げ、しっかりと抱きかかえた。
梓は耐震訓練を受けていたので、多少の揺れでは体のバランスを崩さない。一目で響の無事を確かめ、それから屋上の柵を飛び越えて身を乗り出し、校舎の損傷を確かめた。壁のレンガは破損し割れた窓も多いが、柱が折れていたり天井が落ちていたりする様子はない。
「まだ大丈夫だ」
「またきましたっ」
ふたたび近づいてくる爆音。
梓はすぐに柵の内側に戻った。
刑事二人は拳銃の弾丸を入れ替え終えたところだった。
「波賀クン、機動に連絡! あれを動かして」
「はいっ」
指示を出した氷神の表情は険しい。苦虫を潰すような歯噛みで舌打ちを抑えていた。
「予想外ね」
拳銃を両手で構える。銃からは青い魔法の光が現れ、その光は大きな照準器の形になった。縦横がそれぞれ一メートルを超える。威力・射程ともに強化された弾丸に見合う大きさだ。
中央にジェット戦闘機の姿を捉え、すぐさま狙いを変える。
目標は二発目のスマートボム。
立て続けに撃たれた五発の強化弾は魔法で誘導され、狙いたがわず標的に命中した。スマートボムは校舎から二百メートル以上離れた空間で爆散した。
上空を戦闘機が通り過ぎ、校舎の窓ガラスが振動する。
「あっ、あっちからも!」
通り過ぎた一機とすれ違うように向かってくる。
スピードローダーで再装填する氷神に代わり、今度は波賀が迎撃に立つ。
彼は銃口を新手の戦闘機に向けたが、撃たなかった。
戦闘機は校舎を通り過ぎてからスマートボムを発射し、人工島上の別の建物を攻撃した。爆撃を受けた建物から煙が立ちのぼる。爆発音とエンジン音は数秒で夜空に消え、その後はサイレンの音が島を支配した。
『あけたまえ! あけたまえっ』
カラスがわめく。鳥かごは横転したままだ。
「仕方ないわね。一文字さん、これで」
氷神は梓に鍵を投げ渡した。
梓が鳥かごの錠を外すと、カラスはコートを拾いにいった。
「きたのは二機……。パイロットは誰が?」
「瀧殿が加担していた魔法具偽造グループにパイロットはいないわ。国内にそのほかの仲間がいるという情報もない」
氷神は波賀と反対の方角を見張りつつ、梓の独り言に答えた。
「つまりガーゴイルと同じく」
「魔法で自動操縦ね」
話している間にも爆撃は続く。遠くでまた別の建物が爆撃された。
「だめだ。とても届かない」
波賀は構えた銃を下ろし、ため息をついた。
響が梓のもとに来て言う。
「ゴーレムで追いかけて、わたしが」
「当たらないよ」
「でも、このままじゃ。たくさんの人が」
響は遠くへ目をやった。その方角には攻撃された建物がある。
「ここのは全部丈夫にできてるし、避難訓練も万全。防災大の設備もある」
「ほうっておくんですか?」
「何もしないわけじゃない」
梓は箒に魔力を込めた。穂先から飛んだ魔法波は、校舎に吸い込まれて消えた。
「戦闘機を追いかけないだけだよ」
『うむうむ! その通りだな! 奴の作戦にハマってはいかん』
「さくせん?」
『あれは囮さ。おそらく、奴は空からきとらんな』
カラスの脇で刑事二人が目で合図しあう。
「テレポーター管制塔よ!」
波賀が走って柵を乗り越え、屋上から飛び下りた。彼は魔法を使って無事に着地し、停めてある車の運転席ドアを開けた。
氷神も波賀に続いて校舎屋上から飛び下りる。
彼らの着地後に校舎の非常ベルが鳴りだした。ゴーレム変形の準備に入る。
梓と響は階段を駆け下り、教室に入った。中には座席が二つ。余剰座席はあらかじめ移動済みで、黒板・窓・壁の配置もゴーレム変形後のものだ。モニタとなる水晶玉もセット済みだ。
『これがないとな!』
二人の着席後、カラスもトルソーを引きずりながら部屋に飛び込んできた。カラスは響の卵形シールド内に入り、トルソーはシールド外側の真後ろにある、狭いスペースに押し込んだ。
梓は身に着けている帽子とマントを整え、箒を机に嵌め、響の準備も済んだことを見届けると、箒に魔力を込めた。
「修復完了確認。スタンバイモード全解除!」
校舎は迷彩が解かれ、瞬く間にゴーレムへの変形を完了させた。
立ち上がる。
「SFG三号棟――」
背中に魔法の翼が展開される。月のような淡く白い光が灯となって、周囲を照らす。重い土人形をふわりと持ち上げた。両翼の根元にある魔法具・白い丁子頭勾玉の輝きが増し、翼もより強く明るくなり、それにあわせて上昇の速度も増した。
「発進!」
ゴーレムは東北東の海上へ飛行を開始した。




